第5話 カッキーン

ポロンはいつもぼくに笑ってくる。


ぼくがぎゅっとしたらニコニコッと笑う。


ポロンはいつの間にか、大きいおじさんに負けないくらい大きくなってて、優しいお兄ちゃんみたくなった。

前は弟だと思ってたけど、いつの間にか逆転された。


ぼくが壁投げしてても邪魔しなくなった。


ポロンがボールを追いかけたら、もうぜんぜん勝てない。


それからはポロンもボールを追いかけなくなった。


いつも邪魔にならないところに座って、笑ってみてる。


ぼく一人ぼっちじゃなかった。




ぼく小学生になった。


毎朝、学校に行く前におじいちゃんがキャッチボールしてくれるようになった。

ボールは軟球っていう恐いやつだった。


おじいちゃんは時々、シュって速いボールを投げる時がある。


怖いけどグローブを肩のところで動かさないでいると、グローブの真ん中にスポって入ってくる。


魔法みたく真っ直ぐ飛んで来る。

おじいちゃんってすごい。



エリカさんっていう大きなおじさんの友達が時々、うちに来るようになった。

女の警察官って言ってた。

いろんな話をしたり、一緒にアニメを見たり…警察なのにすごく優しい。




二年生になったら、サチカさんっていう大きいおじさんのお嫁さんが、時々遊びに来るようになった。

ユミちゃんっていう赤ちゃんと一緒。


ユミちゃんってすごくかわいい。

たぶん…世界で一番かわいい。

ぼくがユミちゃんをぎゅっとすると、ユミちゃんはニタァって笑う。

赤ちゃんだった時のポロンと同じくらいかわいかった。


学校ではもう誰もぼくのことをぎゅっとしないし、おばあちゃんが時々するくらいだったけど、サチカさんは来ると必ずして来る。


どうしてだろう。

サチカさんにぎゅっとされると嬉しかった。

おばあちゃんも嫌じゃないけど、サチカさんにぎゅっとされると、何だかとてもホっとした。


ホントに時々だけどサチカさんが来ると、ぎゅっとしてくれるし、ユミちゃんにも会えるし… いつもすごく楽しみだった。



三年生の時、軟球で壁投げしてたら、突然大きなおじさんが来た。

…… このころから、タカさんって呼んでた。

サチカさんがそう呼んでたから真似することにした。



「ちょっと出かけるか 」


タカさんはそう言って、バッティングセンターに連れて行ってくれた。


どうするの ? って聞いたら打ち方を教えてくれた。

最初は恐かったけど、だんだん慣れて来た。

でも全然打てなかった。


タカさんは後ろで黙って見てるだけだったけど、ぼくが空振りすると“ 下手くそ ”

って言って愉しそうに笑ってた。


・・・もう !


ぼくは、やけくそでバットを振った。



 “ カッキーン ”



・・・えっ !



ボールが遠くのネットのとこまで飛んだ。



振り返るとタカさんが目を丸くしてた。


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