第4話 心理カウンセラー
今朝もあなたは一言も喋らずに玄関に直行した。
もう何日もそう。
反抗的な態度でもなく……
顔も洗わず……
朝食も取らず……
真っ青な顔をして……
夢遊病者のように……
朝いつもの時間に起きて、着替えたら二階から下りてきてそのまま俯いて玄関から出て行ってしまう。
私はあなたと、どれだけ目を合わせていないだろう ?
反抗的な振る舞いの方がまだマシ。
“ うるせぇ” とか言われた方がまだ安心。
・・・あなたはどうしちゃったの ?
・・・一体どうすれば…
・・・こんな時父親がいたら…
・・・父親 ?
・・・そこに原因が ?
・・・私ではダメ ?
・・・こんなに一生懸命なのに
・・・こんなに必死に
・・・
私はほとんど意識しないまま、泣きつくように恵利華先生に電話をしていた。
「息子の
望月恵利華……臨床心理士。
4年程前にいろいろとアドバイスをくださった心理カウンセラー。
“ 度を越した人見知り ” をたまたま電話してきた弟に愚痴ったら、陰でグダグダと言うくらいなら専門家にきちんと相談しろと怒られた。
そしてすぐに女性の心理カウンセラーを紹介してくれたのだった。
そのカウンセラーは警察官でもあった。
警察では、被害によるショックから心身の調子を崩された被害者やご家族の方に対して、女性の心理カウンセラー(臨床心理士資格を有する警察職員)が、初期的なカウンセリングを行っているという。
それが望月恵利華先生だった。
弟とは警察学校の同期。
恵利華先生はわざわざ家まで訪ねて来てくれた。
そして1時間以上に及ぶヒアリングをしてくれた。
小学校に入学したばかりのあなたは長時間のヒアリングに素直に応じていた。
対人恐怖症の“ 疑い ” を教えてくれたのはその時だった。
「好きな事に没頭して、好きな友達やグループを形成出来るよう協力してあげてください」
父と公園でキャッチボールをするのが大好きだったあなたは、少年野球チームという好きなグループを徐々に形成しつつあった。
・・・それなのに…
『それは是非、詳しく事情をお聴きしたいのですが、今、署を抜けられないんですよ。申し訳ありませんが、南洋警察署までお出でいただいてもよろしいでしょうか』
恵利華先生は 4年前と同じように、気安く応じてくれた。
「もちろん、先生の都合のよろしい時間に合わせて伺います」
私は必死だった。
「私も行きます」
話を聞いていた母が固い目を向けて来た。
母も必死だった。
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