第3話 杞憂なら
「だいたい男のくせに気合いが足らんのだ」
そう呟いた父を母が本気で睨んだ。
めったに見せない母の本気は、父を一瞬で黙らせた。
・・・珍しい
母は夜も眠れないほどあなたの事を心配していた。
でも父だって本気で言ったわけではないんだと思う。
本人の前ではそんな事、決して言わないだろう。
ただ父は、全国大会目前の期待した場面での異常事態に動揺しているだけだ。
ただの野球バカだから……
でも孫の異変が心配なのはきっと父も同じはず。
「あんな場面で、あんな大勢の前であんな事になっちゃって……これが学校内で苛めにつながったりしないかしら…」
母はそう言って、見ていて気の毒になるほどオロオロしていた。
「試合後に監督さんが “そのあたりはしっかりケアします ” ってわざわざ私に言いに来てくれたくらいだから大丈夫だと思うけど…」
野津監督には、以前に対人恐怖症の事を言っておいたので、そのあたりを気遣ってくれたのだ。
そうは言ったものの、わたしも実は心配で仕事も手につかない状態だった。
でもあなたは、特に健康を害しているようではなかった。
実際、あのあと消化器系の病院にも連れて行ったけど異常は見られなかった。
怪我も疑って整形外科でレントゲン検査って思ったけど、どこも痛くないと言ってさすがにあなたは嫌がった。
「あの時は緊張し過ぎて、身体が動かなくて…」
あなたはそう言ったけど……
本当に ?
でも実際、あなたは翌日も普通に学校に行き、ボーイズの練習にも行って泥まみれで帰って来た。
・・・杞憂ならいいのだけれど…
・・・でも……
その一週間後、また同じような事が起こった。
体育の授業中、走り高跳びの競技マットに突然、あなたは
そしてまた吐いた。
杞憂ではなかった。
そのあと、あなたは日に日に顔色が悪くなっていった。
もともと無口な方だったけど、今ではもうまったく喋らない。
・・・そう言えば…
あなたとはずいぶんと視線を合わせていない気がする。
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