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松長良樹

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 カレンの衣服は屈強な女兵士によって見事に剥ぎ取られていった。


 カレンを蹂躙じゅうりんしているのは、戦闘服に身を包んだ頑健な女兵士ふたりだ。


 鍛え上げられ、引き締まったカレンの身体が見る間に露呈されていく。たとえプロレスラーだってカレンをこんなにも簡単に裸に剥くことなんか出来ないはずだ。


 カレンは組織の人間だし、あらゆる格闘技の達人であり、いくつもの修羅場を潜ってきた美しくかつ精悍な女諜報員なのだ。

 


 カレンはまだ若く、その瞳には少女のようなあどけなささえ残っていた。


 敵である二人の女兵士の腕は極めて正確に能動的に動き、カレンを鋼鉄の拘束椅子に引き据えてしまった。


 両腕は椅子の肘に革紐で括り付けられ、両足首は椅子の脚から飛び出したホースバンドのみたいな拘束帯に固定された。

 


 カレンの女豹のような激しい悲鳴が冷えきった地下の牢獄みたいな場所に響き渡った。


 彼女をこんな風に出来る相手の得体が知れない。




 タカノは心の中に巻き起こった恐怖の波紋を抑えつけるようにして、暗い物陰に潜みその様子を観察していた。


 息を殺しているが、タカノの心臓は狂ったように激しく鼓動していた。タカノもむろん同じ諜報部のメンバーの一人だ。

 


 女兵士の二人は物騒な眼つきでカレンを睨みつけていた。二人は浅黒い太い腕をしていた。太いだけではなく筋金入りの鋼のような腕だ。


 もしかしたらサイボーグか強化人間かもしれない。


「おまえが諜報部の鼠だって事はわかってんだ! 白状しちまいな」

 カレンの腰のあたりを椅子のバンドで固定しながら語気荒く女兵士の一人が言い放った。凄みのある声だ。


 カレンはもう殆ど身動きが出来なかった。多分もう半分死を覚悟しているのかもしれない。

「吐かないとどうなるかわかるねえ。手始めにおまえの乳首を噛み切ってやろうか、えっ!」

 女兵士は汚らしい訛声でそう怒鳴ると、カレンのむきだしの白い乳房を鷲掴みにして異様な笑い顔をつくった。


「殺されても吐くもんか。豚野郎!」

 

 気丈にカレンが叫んだ。瞬間に女兵士は肩から提げた自動小銃の銃床の部分をカレンの顎の辺りに叩きつけた。



 悪寒さえする鈍いあえぎ声がして、カレンは意識を失った……。




 このままだと間違いなくカレンは死ぬ。


 タカノは歯を食いしばるようにして冷静さを保っていた。


 奴らが吐けと言っているのはパスワードの事だ。タカノもカレンも諜報局のスパイであり、ここは敵国、野蛮な独裁国家の捕虜収容所である。

 


 タカノらの組織の存在が些細なミスの為に彼らに洩れてしまい、諜報部のホストコンピュータにアクセスしようとした彼らは厳重な多重パスワードの壁に阻まれたのだ。

 


 彼らはカレンの口を割らせパスワードを引き出そうとしている。そんな羽目になると組織の全貌が知られるばかりではなく、存続まで危うくなる。




 タカノはどうしたら良いか懸命に考えていた。焦燥感でいつもみたいに脳みそがうまく働かない。


 その時カレンの頭からバケツで水がかけられた。 嫌な呻き声と共にカレンが意識を取り戻した。

「早く吐いて楽になんな。この小娘が。えっ!」

 


 女兵士はカレンの髪を引っ掴んで顔をカレンの鼻先まで持っていった。そしてカレンの顔に唾を吐いた。凶悪な目つきだ。タカノの身体が小刻みに震えだしていた。


 恐怖と憤りが心の中で渦巻いている。そしてタカノはついに人間的な或いは動物的な衝動に駆りたてられた。



「待て! 彼女を放せ。この俺がパスワードを教えてやる」


 瞬間、女兵士二人の視線がタカノに釘付けになった。

「てめえ誰だ!」

 


 女兵士が驚いて奇声を吐いた。


「パスワードは○○○○○○-○○○○だ!」

 


 タカノは噛み締めるようにそう言った。



「試してみろ!!」

 タカノは発狂したように怒鳴った。タカノはそれを紙切れにメモして女兵士の足元に放り投げた。二人が一瞬顔を見合わせて一人がそれを拾い上げ部屋から出て行った。


「タカノ、あんた気でも狂ったの! どういうつもりさ。この裏切り者!」

 カレンが絶叫した。


 女兵士がカレンの方を振り返った。


 そこに一瞬の隙が出来た。タカノは身をひるがえし、ホルダーからリボルバーを瞬時に抜き放った。閃光が走って弾丸が女兵士の眉間に命中した。


 頑強な女兵士の身体が藁のように床に蹲った。





「やるな。カレン! 上手なお芝居だったぜ!」

 タカノはクールにそう言った。


「あんたこそ。役者になれるね」

 


 カレンが信じられない程のキュートな笑顔を浮かべていた。タカノは素早く彼女の拘束を解き、二人はその陰気な場所から全速力で離れた。

 


 そう、タカノが教えたのはパスワードなんかじゃない。


 その文字を入力したコンピュータシステムに向かって、諜報機関の秘密基地から強力なピンポイントミサイルが発射されるのだ。

 


 ――間もなく閃光と共に魔物のような火柱が敵基地を赤い舌で呑み込んだ。




「なあ、カレン暫らく休暇を取ってハバナにでも行こうじゃないか」


「あんたのそのセリフ、待っていたよ」


 カレンが無邪気に笑った。





                 END

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