第60話・最終話◇ミモザ屋敷の新しい住人


「遠目に見たがステンドガラスが見事なお屋敷だった。相当な金持ちが越してきたようだぞ」

「ステンドガラス? まさか……?」

「奥様。お客様が起こしです」


 サンドラがオニキスのいる前だからか神妙な顔つきで言う。


「どなた?」

「会えば分かるとおっしゃっておられます」


 宰相夫人となってから事前に取り次ぎがないと会うことはしないが、オニキスは行ってくれば? と、軽く言うし、サンドラは訪ねて来たお客様は無碍に断れないといった雰囲気を隠しもしない。

 変ねと思いながら玄関ホールに出て驚いた。


「お父さま!? お母さまも」


 サフィーラ帝国で別れたはずの両親がそこにいた。


「いつこちらに? 連絡をくれればお迎えにあがりましたのに」


 と、今までいた応接間へと案内する。そこにいたオニキスが椅子から立ち上がった。


「ようこそ。トアンブル卿」

「いやあ、オニキスくん。マーリーと仲良くしてくれているようだね? ありがとう」


 皇帝だった父は皇位をオウロに譲りトアンブル地方の領主となっていたので、表向きトアンブルの名を名乗っていた。


「親子ですから。忙しい義父に変わり義母の無聊を慰めております」

「良く出来た息子だ」


 父とオニキスが顔を見合わせ笑う。何だか二人の笑い方が似ているような気がしないでもない。腹黒い者達の笑い方は似るのだろうかと思っていた。


「今度こちらに越してきたのよ。どこだと思う?」

「もしかして元パールス伯爵邸ですか?」


 母の可笑しそうな瞳に問いかけると頷きが返ってきた。


「この人ね、マーリーがサーファリアスさまの求婚を受けたと知った日からこのことを計画してきたのよ。娘が嫁いだ先の近くに住むことを」

「まさかそれで皇位をオウロに?」


 母が苦笑する。溺愛が過ぎた父は娘と離れがたく、娘の嫁ぎ先の近くにお引っ越し?


「あいつは有能だから早く皇位を譲ったまで。幸い、この国の宰相宅の近くの伯爵家が売りに出されていると聞いて買い取ったものの、使わないと勿体ないからな」


 父の言葉にあ然とする。あくまでも皇位を譲ったのはオウロの能力の高さを見込んでと言うが、オウロが引き継ぎに四苦八苦していたのを知っている。

 時々愚痴をこぼしに来ていたし、おまえから退位するのを引き止めてくれないかとも言われていた。でも父の気持ちは変わらなくて頑固だった。

 その理由がまさかだけどわたしの側にいたいが為?


「あとで婿殿にも挨拶しよう。このまま待たせてもらおうか? なあ、リーリオ」

「そうですね」


 不適に笑う父の笑みに何も言えなかった。母も苦笑いを浮かべている。後で帰宅したサーファリアスがどんな反応を示すか楽しみだ。

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