1 物語の始まりは
門の前で、簡単に開けられない鍵を開けようとしている場面から始まっていく。枝などで開けようとするも、ぽきりと折れてしまい門は固く閉ざされたまま。途方に暮れていたが、ふと自分の指を見て鍵穴に差し込んでみるのだった。
2 七羽のからすという物語について
【概要】
7の息子を持つ農夫がいた。何故かどんなに望んでも女の子が産まれて来なかった。しかしある時やっと女の子を授かることができた。しかし彼女は病弱であり、自分たちで洗礼するしかなかった。彼は子供たちに水を汲んでくるように言いつけるが、彼らは我先にと水を組もうとしたため、水差しを井戸に落としてしまいました。帰るに帰れなった彼らに対し、父は遊んでいると勘違いをする。そして”カラスになっちまえ”と呪いの言葉を口にすると、彼らはカラスに変わってしまったのでした。
月日が流れ、順調に成長した末の娘は自分に兄がいることを知りませんでした。しかし、町の人達の噂などから真相を知ってしまいます。彼女は真実を知り彼らを探す旅に出たのでした。(中略)
・その後長い旅でいろんなことがあった後に、兄たちを元の姿に戻しみんなで帰るという話です。
3 登場人物について
人物設定はオリジナルだと思われる。
主人公は泉の王国民。カラスの門の前で森の王国の者と出逢う。
三人の兄たちは性格がそれぞれ違っていたが、妹である主人公のことをとても大切に想って可愛がっていた。主人公もまた、彼らからの愛を感じていた。
4 物語について
門のところで出逢った森の王国の者との話で、兄たちがカラスになった経緯とその後について語られていく。
それは幼き日の主人公と、大好きな兄たちと出かけた日のことであった。兄は自分のせいで父を怒らせてしまった。まだ子供だった兄たちが濡れて重みの増した自分を家まで連れ帰ることは、とても大変だったはずなのに。父もまた普段なら怒りに任せるような人ではなく、子供たちを愛していたはずなのに。全て自分のせいなのに、誰も自分を責めることはなかった。だからこそ自責の念に駆られ、主人公は暗闇に心を閉ざしてしまった。ある時、ある言葉を耳にするまで、心は死んだも同然だったのだ。
皮肉にも、自分の心に怒りの感情を取り戻させたのは、自分たちが信仰している女神であり、自分へと祝福を齎したはずの存在だった。しかし彼女は一匹の蝶と出逢い、それをきっかけとして心境に変化が起きていく。
5 感想
罪とは、責められ裁かれるからこそ救いがある。それが例え逃避であり、自己満足でしかなかったとしても。この物語の中では、兄たちがカラスに変えられてしまった原因となった主人公がとても苦しんでいる。それは自分が原因であったにも関わらず、責められることもなく逆に守られてきたから。しかし仮に責められたところで、何も解決はしない。自分の心が軽くなるだけなのだ。父も自分が感情に任せてしてしまったことを後悔し、まだ希望は捨てていない。だからと言って誰も動かなければ何も解決はしないのだ。主人公は、希望のその先へ歩き出そうとしたのではないだろうか?
6 見どころ
門の前での出会いは、彼女に今まで何があったのか明かされていくための、はいり口となる。幼い日、兄たちと出かけた先で泉に落ちてしまった主人公は、女神に助けられる。恐らくそれは全ての始まりであり、終わりではなかった。だが、兄がカラスに変えられてしまい心を閉ざしてしまう。
両親も同じように後悔し悲しんではいたが、彼女の為に悲しい顔を見せることはなかった。そして月日がたち、ある言葉から感情を取り戻す主人公は、初めは女神に怒りを感じていたものの、ある蝶に出逢い心が落ち着き、いろんなことを冷静に考えていくようになる印象を受けた。
主人公が女神に再び会い、兄たちに会いに行こうと動き出すところからが、真の始まりなのだと思う。
童話の世界のような物語。青が特別なものであり、頻繁に出てくる。一章はモノローグがほとんどを占めており、主人公の葛藤や心境変化などにスポットがあてられている。じっくり読む童話といった印象。
”美しいだけでは人ではない。醜いものも受け入れてこそ、人は人になれる”このような意味合いの言葉があるのだが、主人公の成長が伺える部分でもあると感じた。二章からがいよいよ主人公の旅となる。この先どんなことが待ち受けているのだろうか? あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。
呪われて鴉になってしまい、何処かへ消えてしまった兄たちを探す旅に出るところから始まる物語。
主人公ロディーヌと、旅先で出会った他国の将軍オワインとの恋の物語でもあります。
…とはいいつつあらすじにある通り、呪い・疫病・自然災害など、立ち塞がる様々な壁に苦慮し立ち向かう姿も。なかでも疫病は、現在コロナウイルスで苦しむ私達の状況とも重なり、共感する部分でもあります。
遥か昔のおとぎ話や両親の若かりし頃の話なども語られますが、「ここまでいるの!?」というくらいじっくりと細やかに描かれていて、様々な物語を一度に読んだようなお得な気分も味わえます。
そして、それらのエピソードは最後までしっかりと効いてくるのです。
苦難を前に協力しあうシーン、人々や聖獣との交流などの心情が細かく描写されていてとてもわかりやすい。
登場人物はみんな素直な美しい心の持ち主で、読んでいるとと癒やされるような気持ちになって入り込んでしまいます。
特にヒロインたちが惹かれ合うシーンは必見!あまりに情熱的で目が離せなくなること必至です。
その時は別れを選ばざるをえない彼らですが、どのように再び出会っていくのか。ぜひ読んでみて欲しい作品です。
綴られた文章の文字運びが個性的で、とにかく優雅です。
そしてものすごく詩的。
凄惨にも思える出来事も、悲しい出来事も、恋焦がれる情景も、全てがとにかく美しい。物語は骨太でしっかりしていて、濃いというのに、重くは感じず、1話1話に、煌めく風景の情景が見えてしまうという。
そして色の表現がとにかく素晴らしい。描き出される風景から、その色を感じます。とにかく主人公の醸し出す”青”が綺麗。
かなりの文字数でボリュームもありますが、1話1話が描き出す場面がとにかく美しいので、物語を焦って追う事ではなく、この雰囲気に浸りながらゆっくり読み進めたい魅力があります。