昇太の通学路
美作為朝
昇太の通学路
「いってきまぁーす」
昇太が勢いよく家を飛び出していく。道路は舗装されているとはいえ視界の両側は険しい山の斜面に太く大きく成長した杉林だ。
ここはとある県のどこにでもあるど田舎の集落。
ガードレールがギリギリ存在するがその下には巨石ゴロゴロの沢が流れている。
そしてその沢にへばりつくようにこの数件の集落は存在する。
小学生の昇太は、スクールバスの停留所までいつも四十分もかけて、沢沿いの道を早足しぐらいで駆けていく。
沢から農業用水を引いている畑で二人のおじさんが話してる。
「おー昇太くーん」
声をかけたほうが、西沢さん。もうひとりが
「おはようございます」
「はい、おはよう」
小学校では、目があった大人とはきちっと挨拶するように教えられている。
西沢さんと
二人は立ち話の途中だったらしく、沢に面した小さな畑で二人の会話は続く。
「
と西沢さん。
「この村の決まりなのによぉ」
と
「また、あの燻製小屋に籠もっとるのか?」
「らしい。都会でおぼえたなんとか法ちゅー燻製をこの田舎でやって儲けるらしいんじゃがぁ、」
「
「あの息子には都会でこさえた借金もたぁーんとあるらしい。この前、借金取りみたいなんがウロウロしてなにやら探っとった、、、」
「それとあの子の一件は、、、」
「関係ないじゃろ」
集落の人々は都会から戻り引きこもっている
西沢さんたちが話してた燻製小屋には決して入れてくれないが、比留間武男は子どもたちには、とても優しい。
いつもなにかお菓子をくれるし、一緒によく遊んでくれる。TVゲームも比留間さんところの離れでやりたい放題やらせてくれる。いつも最新のゲームソフトが入っている。
そしてHな画像もスマホで見せてくれる。
数日前、昇太は友達のひろしと一緒に比留間武男の離れに行ったばかりだ。
『また、武男さんの悪口か、かわいそうにぃ』
「オウオウオウオウッバウバウバウッ」
「うわ」
思わず、ビクつく昇太。
山本さん
昇太とおなじくらいある。
正直怖い。
鋭い犬歯にビラビラし嫌なピンクの舌、そしてその口元からはダラダラ垂れるよだれ。
昇太は山本さん家の向かい側ギリギリを通る。
犬はまだ吠え続けている。
『大丈夫、大丈夫、飛び出してこない』
「こらぁ、ジョン!」
犬の吠え声に負けず劣らずの怒鳴り声、昇太は首をすくめた。
山本さんが犬を諌めているが、その声がまた怖い。いつも昇太自身が怒られている気が
する。それに山本さんは猟犬だけでなく、本物の猟銃を持っている。
前にひろしと一緒に見せてもらった。
散弾も触らしてもらった。
<これをくらえば人なんかバラバラじゃぁ>
そういった時の山本さんのなんともいえない目が今でも忘れられない。
『なんだよ、』
山本さん家を過ぎればもう平気だ。
昇太はテクテク早足し駆けていく。いつも元気いっぱいの小学生の昇太でも流石にペースがやや落ちてきた。
いつもこの中谷さんのところでペースが落ちる。
「昇ちゃん、学校かい?」
中谷さんところのお婆さん
庭木は伸び放題。ここだけ突如アマゾンが存在しているみたい。そして変な果実の木を庭中に植えてそれに白い袋をかけすべてをどうしてだか、しらないが、白い紙で結んでいる。意味がわからない。
ときには、昇太たちを待ち構えていて、垣根から細い腕を伸ばし、変な果実を渡してくる。
「そうです」
昇太は 小学生の正直さで答えてしまった。中谷さんのお婆さんは変な果実を持っていた。
昇太はその気持ち悪い果実の正体を見たさに立ち止まってしまった。
「ほれ」
しかし、それは変な果実ではなかった。よく見るとただの柿だった。柿の実が変に実っているだけだった。
「それとも、欲しいのはこっちかぁ?」
「もう、おちんちんがぴこーんってなっとるのかぁ?」
中谷さんところのお婆さんは言った。
昇太はやや後ずさりをした。
「また、ちゃんとぴこーんとなるようにおちんちんなめなめしてやろうかぁ?」
中谷芳恵の言葉に昇太は冷や汗を感じて息を呑んだ。正確にはおちんちんを中谷さんのお婆さんに舐められたことはない。
以前、沢に立ちションをしているところを見られただけだ。
昇太は返す言葉がない。
「きゃきゃきゃきゃきゃ、、、、、、」
中谷芳恵はところどころ歯がなかったり、色んな色の歯が生えている気味の悪い口を大きく開けると笑い声とも取れない奇声を上げて中谷芳恵は笑い出した。
昇太は、ものすごい速度で駆け出した。だが本心をもっと正確にいえば朝起きるとおちんちんがぴこーんともうなっている。
「おはよう」
杉林から声がかかった。
お巡りさんだ。昇太は安心した。お巡りさんは道路よりやや高い、杉林の中伏に長い警棒を持って立っていた。
「おはようございます」
昇太は答えた。数日前からひろしが行方不明になっているのだ。たぶんその捜索のため集落に来ているのだろう。
お巡りさんは無駄に話しかけては来なかった。
昇太は本当にほっとした。
気がつくと目の前には、派手なオレンジ色に塗られたバスが止まっていた。
昇太を山の向こうの分校まで運んでくれる村が運営するスクールバスだ。
もう、
「おっはようございまぁーす」
わざと、変な風に大声を上げて、昇太は開きっぱなしのスクールバスのステップを駆け上った。
「おっ、おはよう」
運転席から聞こえる声がいつもと違った。
「あっ、武男さん」
「おぅ昇太くん、今日はね、いつもの
「へーっ」
昇太には二日酔いとかよくわからない。
昇太は、お気に入りのバスの一番うしろの真ん中の席めがけて走っていった。
「みんなぁ、"見つめたらそれは恋"の
「えー知らなぁーい」
女子がクスクス笑いながら答えた。
「僕が教えてあげよう、だけど学校で先生の前や家で歌ったらだめだよ」
想像するだけで我慢しきれず
「えーっと運転するにはメガネをしなきゃあ」
比留間武男がシャツの胸のポケットから銀縁の小さなメガネを取り出してかけた。
が、そのメガネは大人には小さすぎた。
比留間武男がメガネをしたまま後ろを振り向いて言った。
「出発進行ーっ」
一番うしろのベンチシートに座っていた昇太は気がつかなかったが、その眼鏡はひろしのものだった。
猟犬は山本さんの家にきっちり居たが、散弾銃はこのバスのシフトレバーの横に立て掛けてあった。大量の銃弾とともに。
快調に走りだしたこのバスが停車するのは隣の更に隣の県警の十六台のパトカーのバリケードによってである。
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます