書き手にとって必要なものと書き手の意義

白川津 中々

 表現というのは自分のしたいようにしていたら必ず駄目になる。


 そんな言葉を打ち合わせの際に賜った。

 言った当人はボソッと、何気なく呟いたつもりだったかもしれないが、俺からしてみれば、金言は言い過ぎかもしれないが一種の気付きとなり、大いに考えるきっかけとなったのは間違いがなかった。

 

 俺はこれまで自分の好きなように、言い換えれば、読み手の望むものを書かず、決して流行に迎合せず、自分が面白いと思えるものしか作ってこなかったと思っていたのであるが、考えても見れば、読み手がどのような気持ちになるか、どのような形にして伝えるか、どのような表現が分かりやすく、また格好よく、或いは面白く、或いは悲しく、或いは深く読まれるか、意識しないという事はなかった。


 書く、いや、表現するとはつまりそういう事なのだろうと俺は得心した。自分の好きなようにやるというのは受け手を無視するという事ではなく、自分の中のアイディアを如何にして相手に受け入れさせるのかというものなのだと考えると、すっと腑に落ち、「なるほど」と声が出たのである。自分善がりの作品などエゴでしかなく、単なる騒音に過ぎないのだ。創作の出発点は、少なくとも俺は、誰かに分かってほしい。知ってほしい。という承認欲求であるわけだから、他者を置いての書き物というのはそれだけで矛盾が生じるのである。


 しかし、分かっていても安易に治せないところはある。やはり俺には、俺は俺の作品を、俺という人間の想像を理解してほしいと願っている部分がある。それを完全に捨て作品を作るという事は、これも理念の矛盾に他ならず、本末転倒な結果となってしまうのだ。


 自分の表現力と想像力を上手く需要に乗せれば俺はプロになれると思う。しかし、その道程が如何ほどのものか図る事すらできない。分かっていることは、ただただ遠く、長いというだけ……


 止めといた方がいいんじゃないかと思わぬでもないが、止められないのが因果である。

 ちなみにまた仕事に落ちた。人生の余裕がなくなっている中で俺はどこまで進めるのか。これもまた分からない。

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