第6話 壬生村に到着
無事に京都に着いた浪士組一行だが、試練はまだ始まったばかりだ。俺は京野菜の一つである
とはいえ、これが後に新選組の屯所となる八木邸かと、宿に入ってからテンションが一時上がった。あちこち見て回りたい衝動に駆られながら、いやいや、ここでしばらく生活するんだからと自分を落ち着かせる。それに、うかうかしていられない。
将軍警護の名目で上洛した浪士組だが、この後すぐに浪士組を組織した清河八郎の手のひら返しに遭うことになる。その瞬間がもうすぐのはずだと、どうにも尻が落ち着かなかった。
「どうした、総司。京に着いてから浮かない顔ばかりしているな」
荷解きを終えても深刻な顔をしている俺に、土方が何かあったかと訊いてくる。俺はビクッとなり
「い、いえ。京は寒いですね」
と笑って誤魔化す。だが、この笑って誤魔化すのは総司のイメージとして大丈夫なのかと、ちょっと疑問だ。俺の中で沖田総司といえば薄命の美少年で美剣士である。この態度はそのイメージから外れてしまう気がする。
しかし、土方は気にした様子はなく
「そうだな。俺もちょっと舐めていたぜ。どうせ多摩の方が寒いだろうと思っていたのに、足が芯から冷えやがる」
と寒さに同意してくれた。そして土方はしきりに足の指を揉んでいる。
そう、盆地である京都は地面が冷えやすい。おかげで寒さが下からやってくる。これが厄介だ。特にこの時代は足袋に草履というスタイルだから、あまり守られている感じがしない。歩いていると足がかじかんでくる。
今も畳の敷かれた部屋の中にいるというのに、しんしんと身体が冷えてくる。この時代の暖房器具は火鉢しかないので、到着したばかりのこの部屋は冷え込んでいた。周囲が畑しかないものだから、余計に寒い。
「皆さん、夜に新徳寺の本堂に集合するようにとのことです」
と、そこに山南が姿を現し、本部からの伝言を伝えに来た。これだ。ここで清河は
とはいえ、ここではまだ穏当なはずだ。問題はその後に発覚してくるのだが、今のところは素直に清河の言に耳を傾けておけば問題ない。
「はあ、気が重い」
しかし、先の展開を知っているというのは、何が起こるんだろうというドキドキはなく、どうしようというハラハラが大きくて困る。
「お前は休んでおくか。どうせ本堂に二百三十人全員は入りきらないんだ」
だが、俺の呟きは清河の話を聞くのが面倒なのだろうと解釈され、土方からそう言われてしまう。山南も半分くらいは疲れを理由に欠席するのではないかと、休むことに賛成してくれる。
「いえ。せっかくですから参加します」
先の展開を知っていても、実際に清河がどういう持論を展開するのかは気になる。ということで、俺は大丈夫と笑って参加を表明するのだった。
新徳寺に集まったのは、本当に半分ほどの人数だった。試衛館のメンバーは全員参加していたのだが、これは珍しい方だ。おかげであの芹沢から好意的な目を向けられることになった。
「さすがは近藤君だ。君たちはやる気に満ちあふれていて素晴らしい」
なんて声まで掛けられて、近藤以外は苦笑いを浮かべて応える羽目になる。
「我らは勤王の志を持つ者ですからね。一時も早く主上のお役に立ちたいと思っておりますよ」
が、近藤はそんな周囲の苦笑いには気づかずに、感激して芹沢と握手をしている。三日目の本庄宿で散々な目に遭ったことなんて忘れてしまったかのようだ。
「大丈夫かよ、あれ」
藤堂が拙いんじゃないのと言うのに
「まあ、大丈夫じゃないでしょうね」
と、俺は思わず同意してしまう。
「だよね。芹沢さんとあんまり親しくしない方がいい気がするよ」
それに藤堂は我が意を得たりと頷くが、残念ながら、この後その芹沢と運命共同体になってしまうのだ。俺はここでも苦笑いを浮かべるしかない。なんか、笑って誤魔化すことが増えてきた。
「諸君、お待たせした」
と、そこに問題の清河八郎が入ってきて、集まった面々に声を掛けた。そこで集まった全員が本堂の正面に注目する。
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