第3話 ざっと歴史を振り返り

 では、なぜ俺たちは京都に向い、これから新選組となっていくのか。

 それはこの年の三月に十四代将軍・徳川家茂とくがわいえもちが上洛する予定になっていることが関係している。

 この頃の京都はともかく治安が悪い。そこで、腕に覚えのある浪士たちを集め、彼らに京都の治安維持活動をさせようとしたのが事の発端だ。将軍が上洛したところを狙って暗殺騒ぎなんて起こっては困る。という理由である。

 じゃあ、なぜそんな治安の悪い京都にわざわざ将軍が行くのか。

 この理由が、幕末の動乱の開幕を告げることになった嘉永かえい6(1853)年の黒船来航にある。そう、鎖国の時代がついに終わってしまい、西欧列強が日本にどやどやとやって来るようになったのだ。

 幕府は未だかつてなかった外国との交渉に右往左往。その決定に関して天皇を無視するとは何事かという騒動まで起こり、日本中が騒がしくなっていくのだ。この騒ぎによって、佐幕派さばくは勤王派きんのうはという派閥が出来上がっていく。

 勤王派は国を大きく動かす決定には天皇の勅命を受けるべきだと主張している。特に、安政あんせい5(1858)年に大老・井伊直弼いいなおすけが日米通商修好条約に調印した際、天皇の勅命ちょくめいを受けなかったことに怒り心頭だ。そしてその怒りのまま、桜田門外の変を起こすことになる。

 そしてその勤王派の中でも過激な連中が京都で佐幕派、つまり幕府関係者を襲う事件が多発していた。これを天誅てんちゅう、つまり天に変わって裁きを下していると勤王派の連中は主張しているわけだが、ともかく、京都が一気に危険地帯と化したのは間違いない。

 もちろん、こんな国を二分するややこしい事態に、幕府も黙っていたわけではない。将軍・家茂と時の天皇である孝明天皇こうめいてんのうの妹の和宮かずのみやとを結婚させ、公武合体を打ち立てた。が、それで何もかも丸く収まるはずがない。

 なぜ勝手に開国したのか。なぜ勝手に条約を結んだのか。納得出来ない。外国人を排除しろという過激な攘夷派まで生まれ、その先鋒となっている公家の三条実美さんじょうさねとみが勅使となって幕府に文句を言ってくる事態にまで発展した。これに対し将軍の家茂も傍観しているわけにはいかず

「京都に行って天皇にちゃんと説明する」

 と言っちゃったわけだ。

 こうして上洛することが決定的となり、治安部隊として浪士組が結成されたというわけである。




「京まで何日くらいかかるんだろう」

 そこまで振り返って、俺はふと歩いて京都に向うのはどのくらい掛かるのかが気になった。

「十五、六日ってところですよ。沖田君、まさか三日目にして歩くのに飽きたとか言わないでしょうね」

 そんな俺の呟きに答えたのは、前を歩く実直そうな青年だ。俺に対してしっかり注意を言うあたりから考えて、山南敬助やまなみけいすけだろうか。確か山南と沖田は仲が良かったはずだ。

「ま、まさか。ちょっと気になっただけですよ」

 俺はこんな口の利き方でいいのかなと疑問に思いつつ、ぎくしゃくと答える。

「まあ、江戸を出るのが初めてですからね。どのくらい掛かるのか気になるのも仕方ありませんか。中山道なかせんどうは非常に歩きやすいですから、心配しなくても大丈夫ですよ」

 にこっと笑い、そこで山南は(まあ、間違いないだろう)喋るのを止めてしまう。俺はほっとしつつも、まだまだメンバーをちゃんと把握出来ていないんだよなあと遠い目。ついでに鏡を見る機会にも恵まれていない。

 俺、どうなってるの。ちゃんと出来てるの。不安だ。ついでに腰に差した刀が重い。気を抜くと身体が左に傾きそうだ。

「ん? 三日目」

 しかし、今の山南の言葉で気になることがある。この歩きが三日目であるということは、今夜、最初の試練が待ち受けているんじゃなかったか。

「あの、近藤さんはもう大分先に進んでいるんですよね」

 思わず、再び山南に声を掛ける。

「ええ、そうですよ。沖田君、心配しなくても近藤さんのことです。大丈夫ですよ」

 山南は優しく言ってくれるが、これが大丈夫じゃないのだ。俺は伝える手段はないのかと気持ちが暗くなる。

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