第2話 マジで沖田総司になってる!?

 俺、春田総はるたそう。二十五歳会社員、独身。

 平凡な人生を送り、唐突に癌宣告を受け、そして死にそうになっていたのに、なぜこうなった。

「総司、元気ないな。やっぱ昨日はしゃぎすぎだって」

「お前が言うなよ。お前だって騒いでいただろ、平助」

「何だと、左之さん。聞き捨てならねえ」

「煩い! 黙って食え!!」

 目覚めたら目の前にいた土方が、からかってきた二人を一喝している。その二人は、呼ばれた名前から推察するに、俺の知識が正しいならば藤堂平助とうどうへいすけ原田左之助はらださのすけだと思われる。

 藤堂平助はイメージどおりの闊達な少年という感じ。原田左之助は大きく着物をはだけさせ、胸筋を強調している細マッチョだった。

 っていうか、がっつり新選組じゃん。

 俺は朝食を前に頭を抱える。

 ってか、旅の途中であるらしいこと、誰もあの有名なだんだら模様の浅黄色あさぎいろの羽織を着ていないことからすると、これは新選組になる前の場面だ。

 ということは、俺は今、この人たちと京都に向おうとしているってことで・・・・・・しかも、認めたくないことに自分は沖田総司であるらしい。

「うっ」

 ちょっと待て、なぜよりによって沖田総司。

 沖田総司といえば美少年のはず。そして剣の腕は桁外れ。しかも新選組では一番隊隊長という重要ポジションの人だ。

 おい、今、俺の顔はどうなっているんだ。美形なのか。着物も何となくで着ているこの俺は今、どうなっているんだ。ちゃんと剣の腕は凄いんだろうな。

 しかも沖田総司って早逝するじゃん。転生しても、やっぱり二十五くらいまでしか生きられないってこと。

 な、なんという最悪のパターン。せっかく意味不明ながらも転生、しかも幕末に生きられるというのに、タイムリミットが短い。

 さらにこの時代でも肺病に悩まされろと。

 酷いよ。もしも神がいるのならば、なんて酷い仕打ち。

 俺は頭を抱えたままうんうんと唸ってしまう。

「総司、頭痛か。なら、石田散薬いしださんやくを」

「だ、大丈夫です」

 歳三の申し出をすぐに断ると

「いつも通りじゃん。大丈夫だな」

「拙いもんな、石田散薬」

 藤堂と原田が独特の納得をしている。

 ああ、そこ、小説や漫画で描かれるとおりに激マズなんですね。

 唯一の救いは俺がこの幕末が大好きだということか。おかげでそれなりに知識はあるし、新選組のメンバーは大体記憶している。みんなの会話や見た目から、大体推測することも出来るということだが――

「どうなっちゃうの」

 これから起こる数々の試練も知っているわけで、すでに暗澹たる気持ちにしかならない。

「ん」

 しかし、いい部分もあるかも。

 なんてったってあの新選組だ。この時代では負け組かもしれないが、後世、華々しく描かれ人気がある人たちと一緒にいられる。それも生で新選組が出来上がり、活躍する様を見られる。

 さらに考えれば、転生先が同じく肺の病気で死ぬ高杉晋作たかすぎしんさくじゃなかっただけマシかも。あっちは過激な行動でしょっちゅう牢屋にぶち込まれてるもんな。俺の性格とは真逆の人だよね。

「やるしかないか」

 俺は何とか自分が沖田総司ポジションであることを納得させ、ようやく朝ご飯に箸を伸したのだった。




 さて、朝ご飯が終わったらすぐに出発だった。

 俺たちの試衛館の集団の先頭を歩くのは土方歳三で、その後ろを試衛館しえいかんのメンバーがぞろぞろと歩いている。近藤勇は宿の配分を決める係になっているということで、一足先に出発していた。

「マジで江戸時代だ」

 街道沿いの町並みを見て、俺は呆然としそうになる。だが、今はこの先のことをちゃんと思い出しておかなければならない。

 浪士組として京都に向う旅の途中ということは、現在は文久ぶんきゅう三年、西暦でいうと1863年だ。出発は二月だったはずだから・・・・・・寒いはずだ。朝から混乱の最中にいたから気づかなかったが、足先からしんしんと冷えてくる。

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