死亡フラグ回避不可能!?~沖田総司に転生してしまった俺はどうなる?~

渋川宙

第1話 癌宣告から突然の転生

「ここに影があるのが解りますね。これ、がんです」

「・・・・・・」

「お若いから進行が早いようで、随分と広がっていますね。ちょっと全身も検査してみましょう」

「・・・・・・えっ」

 一拍以上遅れての俺の反応に、目の前の四十代くらいのおっさん医師はようやく同情の目を向けた。

「ショックなのは解ります。しかし、ちゃんと治療方法はありますから。しっかり病気に向き合っていきましょう」

「で、でも」

 俺、まだ、二十五なんですけど。

 それなのに、癌だって。

 目の前にあるレントゲン写真に、俺はようやく目を向ける。肺に転々と広がる白いもの。これが癌。

 別に煙草を吸っていたわけでもないのに。

 ちょっと調子が悪いなあ、咳が出るなあとは思っていた。でも、深刻な病気だとは思っていなかった。それが、会社の定期検診で引っ掛かり、あれよあれよとこんな大きな病院にやって来て、診断結果が癌。

 が~ん。

 思考停止に陥った俺の脳みそは、アホなことを言い始める。

 医者の声が遠い。ああ、俺、もうダメだ。

「ともかく、すぐに入院しましょう」

「・・・・・・」

「ご家族にも連絡を。次の検査結果は、誰か一緒に聞いてくれる人を連れてきてください」

「・・・・・・」

 俺は無反応なまま、看護師に促されて外に出る。ちょっと待ってくれと言われるのに機械的に頷き、俺は呆然とするしかなかった。

 病院の待合室は、午後診も最後の方とあって人が少ない。午前中はごった返していたのが嘘のようだ。

 これ、絶対にダメなやつだよな。

 ああ、そうか、もうすぐ死ぬんだ。

 若いから進行が早いって、手遅れになるのも早いってことだもんな。

 俺はようやくそのことに思い至り、ぎゅっと拳を握り締める。

「大丈夫ですか」

 あまりに思い詰めていたからだろう、誰かが声を掛けてくる。声からして年配の男性だろうか。

 大丈夫なわけないじゃん。俺はふるふると首を横に振る。

 俺、あんたの年齢まで生きられないんだよ。

「あまり思い詰めるのはよくないですよ。これ、良かったら飲んでください」

 そんな俺の気持ちを察したのか、男性は何か飲み物を置いて去って行った。見ると、缶コーヒーのようだ。俺はそれを手に取り、温かさにほっとする。そしてようやく、男性の姿を探した。

 心配してコーヒーをくれたのに、何も言わなかった。でも、がらんとした待合室には誰もいない。その人は帰る途中だったのか。首を伸して見渡しても年配の男性は見つからなかった。

「はあ。人生最後の優しくしてくれた人かもしれないのに」

 俺はそのまま、ラベルを確認することなくその液体を飲み干す。

 あれ、コーヒーじゃない。

 そう思ったが、なぜかぐびぐびと飲んでしまう。

 ええっ!?

 そう思っている間に意識が遠のき――





「おいっ、いつまで寝てやがる!」

 乱暴な声と蹴りで俺は起こされた。

 い、意識を失った人間を起こすのに、なんて乱暴な方法だ。しかも病院で気を失ったのにこの仕打ちって、医者として最悪だ。

 そう思ってがばっと身を起こして

「えっ?」

「えっ、じゃねえよ。寝ぼけてんのか、総司そうじ

「・・・・・・」

 フリーズ。そして俺は目の前の男をまじまじと見る。その男は着物姿で、長い髪を一つに纏めて高い位置でくくっている。しかも腰には刀が。

「えっ、ええっ」

「どうした? 昨日はしゃぎすぎたか」

「・・・・・・」

 ちょっと待ってと俺は額に触れ、そこに前髪がない事実に驚く。そのまま手を上に上げていくと、つるんとした頭頂部の上に載る髪。

 これってまさか。

 まさかと思うけど、ちょんまげ。

「総司は起きたか。早く飯を食わんと出発の時間になるぞ」

 そこに現われる、写真でしかと見たことがある顔。

「こ、近藤、勇」

「大丈夫か。疲れが出たのか」

 唖然とする俺の目の前にいるのは、間違いなく近藤勇こんどういさみ。じゃあ、こっちの髪の長い男は土方歳三ひじかたとしぞうか。

 こうして、癌で余命僅かだった俺は、どういうわけか江戸時代、それも幕末へと転生してしまったのだった。

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