隠し味…。
宇佐美真里
隠し味…。
「えぇっ?!もしかして、またピラフなのっ?!」
自室から出て来た娘が、キッチンに居る私の様子を見て、悲鳴を喚げた。
ピラフ。
本来は、炒めた米と魚介や肉等の具材を、スープで炊く料理であり、炊かれた米を具材と炒めた物はピラフとは云わない。
娘が悲鳴を喚げたのには、実は訳があった。
普段、平日は妻が料理をしてくれて居るので、娘も私も其れを頂いている。其の代わり週末は、私が妻と交代して料理をする。私の作る料理には、妻も娘も取り立てて不満はない様で、残すこともなく食べてくれて居る。けれど、料理をする私自身に実は不満があった…。
其れ程レパートリーが多い訳でもないけれど、其の中でも比較的、私が作るのが多い料理…。其れは、オムライス、麻婆豆腐、炒飯。次いで、度々登場するのがピラフ…。
妻も娘も、私の作るピラフを喜んで食べてくれるのだけれど、自分のピラフに私は満足していなかった…。
今週末、私は遂に自身の不満を解決しようと、ランチにディナーに…と、ピラフ、ピラフ…とラッシュした。
其の結果、娘の「またピラフなの?!」となった訳だ…。
「せめて、次はオムライスにして?!」呆れ顔で娘は言った。
「オムライスにはピラフを使うんじゃない。あれはケチャップライスだ…」
其う言う私に、娘は唯ひと言、「パパって、面倒臭い…」とだけ言った。
面倒臭いのは重々承知。続けて試さないと解決出来そうにもない。すまないとは本当に思って居るのだけれど…。
昨日…。土曜日のランチには、トマトベースのベーコンを使ったピラフ。ディナーはエビやアサリの魚介ピラフ。今日のランチにはカレーピラフをサーブした。
「うん、悪くないよ」と娘は言ってくれた。妻も頷いて居た。けれど、其処に"問題"がある…。あくまで、"悪くない"のであって、"美味しい"ではない…。
「そんなつもりじゃないって!」と娘は言ってくれたが、実際のところ、私自身が以前から其う思って居たのだ…。
「悪くない。でも違う…」と。
冷凍食品のピラフが好きだ。喫茶店で出てくるピラフの味も好きだったりする。決して"上から目線"で言うつもりではないのだけれど、試作を重ねて、"其の味"に至ったとは、到底思えない様な店で食べるピラフの味も、私のイメージ通りの"ピラフ"の味わいだったりする。だから、其れ程難しい『秘密』があるとは思えない。何か…。ちょっとした"何か"が足らないだけだと、私は思うのだけれど、其の"何か"が見つからず、"不完全なピラフ"を、妻に娘に、私は食べさせて居るのだ…。
「足らないとしたら…」
娘がキッチンカウンター越しに私へ言う。
「ママの料理と違って、パパの料理には…『愛』が足らないんじゃない?」
上手いことを言ったとでも謂う様に、得意気な顔をして娘が言った。
「パパって何でも理詰めだけど、料理って化学の実験と違うんだから、愛情も込めないと…。ねぇ…ママ?」
まだ中学生の娘は、料理をしない。専ら食べるばかりだ…。其の娘が料理の"何たるか"を語って居た。妻は黙ったまま笑う。
「食べて貰う人のことを考えて…想いながら作ってる?パパ?」
「随分なことを言ってくれるな…。パパだって、お前やママのことを想って作ってるさ…ちゃんと」
ムキになる自分を、我ながら大人気ないと思う…。
其の様子を見兼ねて、其れまで黙って居た妻がキッチンへと来て言った。
「ママはパパの愛情…ちゃんと感じてるけどなぁ…」
妻が私の味方に付いたのを見て、娘はムクれて言った。
「だって!愛が在ったら、四食も続けてピラフを作ろうなんて思わないんじゃない?普通!」
妻は私の隣に立ち、キッチンに並ぶ食材、調味料へと、ひと通り目を遣りながら言った。
「"愛"にも色々あるでしょう?時には"隠し味"の様な"愛"だって…」
其う言いながら冷蔵庫を開け、妻は何かを取り出すと、私に手渡した。
「はい…。"愛"と云う名の隠し味…」
妻が手渡してくれた"愛の隠し味"…。其れはバターだった。
「愛はたっぷり入ってる筈だから、隠し味はちょっぴりで大丈夫よ」
よし…。
今晩のピラフは、此れまで以上に"愛"を込めて仕上げよう…。
"隠し味"に負けない様にたっぷりと…。
-了-
隠し味…。 宇佐美真里 @ottoleaf
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