春の大三角
Ray
星々の輝き
「はぁ……」
新学期の登校は最悪の気分だった。
だってそりゃ、朝食の食パンは焦げるし、ゴミ出しの日だったのに準備し忘れるし、困ってるおばあさんに声をかけたら英語で道を聞かれて学校には遅刻。
四月十日、水曜日。
昨日で冬休みは終わり、今日から高二の新学期だ。
だと言うのに今朝の散々な出来事のせいでは
教室内には見知らぬ生徒と去年、一緒だったクラスメートがちらほらと見えた。
「なんでこうなるんだよ」
「一年の時から、なーんも変わらねーなオマエは」
「
真琴は前の黒板をチラッと見るとこちらに顔を向けた。
真琴とは一年の付き合いで、男勝りで勝気で俺よりも男のような女子なのだ。
夜色の首まで掛かった髪をかき上げ、狼のような鋭い目が達也を捉えた。
ちなみに担任の話は、「冬休みは何をしていましたか?」とか「体調とかは崩しませんでしたか?」みたいなどうでもいい話をしていた。
さらに勇騎の位置からだと見事に真琴のブラが見えていた。
丸見えではない。
Tシャツのかけ違ったボタンの隙間からチラッと見えていた。
「なんだよ、人のことジロジロ見て」
真琴はボタンのかけ違い気づかず、そう俺に言ってくる。
「な、ななんでもねーよ!」
念のために言っておくが俺はもうちょっと見ていたいから真琴に何も言わなかったわけじゃない、もし俺がそれを言ってしまったら俺は変態のレッテルを貼られてしまう。
だから言わなかったのだ、教えたいが教えられないのだ。
真琴と話しすぎたのか、気が付けばホームルームは終わっていた。
「らりゃ、いつの間にか終わっちまったな」
「そうみたいだな」
そんなことを真琴と話していると、体育館がある方から茶髪の女子の声が聞こえた。
「真琴ちゃーん、勇騎くーん。早く来ないと遅れるよ〜」
その声で勇騎はその女子が真琴の親友で同じクラスメイトの
気がつくと近くに真琴の姿はなく代わりに一枚のメモが置いてあった。
『あたしは先に体育館に行くから、オマエは桜と一緒に行け。通信 二人で体育館まで行けよ、行かなかったらわかってるよな?』
「ゆ、勇騎くん!ま、真琴ちゃんは?」
俺は桜の声にびっくりしてとっさに真琴の残したメモをポケットに隠した。
「さ、先に行くって言って、どっか行った」
「そ、そうなんだ。じゃあ私たちも早く体育館に行こ?」
(さっき真琴の姿が見えたと思ったけど、まさかここで勇騎くんと二人きりぃ〜‼︎)
「そ、そうだな」
桜には隠したメモはバレることなく、俺はそのまま桜と一緒に体育館に向かうのだった。
それから、およそ三時間後。
「桜、勇騎、これからどうする?」
俺たちは始業式が終わり、することもなく三人で帰っていた。
「わたしは駅前の書店に予約した本を取りに行くんだけど……」
「そうなのか、俺も新刊を買いに駅前の書店に行くつもりだったんだけどついて行っていいか?」
「そうか!なら二人で行ってこいよ、あたしは家の手伝いしろって親父に言われてるから」
そう言って、真琴はグイグイと俺を桜の方に押してくる。
真琴は桜と行くところが被るとなぜか毎回、何かと用事を付けて俺と桜の二人にさせたがる。
「もう真琴ちゃん、またなの?」
「今回は本当だよ!」
「まあまあ花野。真琴、次は三人で飯でも行こうぜ。な?」
「わかったよ、じゃあまた明日な!」
そう言って真琴は花野に何か言うと、家の方にさっさと向かって行った。 ☆
「あとで連絡するけど、頑張れよ。桜」
もう真琴ちゃんてば一言余計なんだから、応援してくれるのは嬉しいんけどもう少し考えて欲しいんだよね。
わたしの好きな人は目の前にいる男の子、勇騎くん。
彼と初めて会ったのはこの学校の入学試験の日だった、彼はわたしの隣で試験を受けていた。
試験時間が残り1時間になり、わたしが急いで問題を解いていると消しゴムを落としてしまった。
すると隣にいた彼は自分も使っていたのに自分の消しゴムをわたしに渡してた。
そして自分は先生を読んでわたしの落とした消しゴムを使って試験を乗り越えたのだった、試験を終えて彼にお礼を言おうとしたが彼の姿はなく代わりに机にはわたしが落とした消しゴムとありがとうと書かれた紙が置いてあった。
これがわたしと彼の初めての出会いであり、初めての初恋だった。
「……野、……花野」
目の前から声が聞こえる、聞き覚えのある男の子の声が。目を向けなくてもわかる、好きなあの子の声が。
「おい花野、聞いてるのか、花野。返事しろ〜」
「え、あ!う、うん、なに?」
(って、勇騎くん⁉︎な、なんで勇騎くんの顔がこんな近くにぃ〜⁉︎こんなに近いとわたしの息が当たって……って何考えてるの〜⁉︎)
ボンッと一気に顔が熱くなると目の前にある彼の顔がだんだんとぼやけて、わたしは意識を失ってしまった。
目を覚ますとそこには見慣れたわたしの部屋の天井があった、わたしは慌てて下に降りてリビングに行ってみるとそこには楽しそうに話をしているお母さんと勇騎くんの姿があった。
「あら桜、気がついたのね」
「う、うん。でもなんで勇騎くんが?」
「ああ、それは……」
「それはね、勇騎くんが貴方を家まで運んでくれたのよ」
ええ、勇騎くんがわたしを⁉︎重くなかったかな、大丈夫だったかな〜。
「まあ、救急車を呼ぶほどでもなかったしな。それより大丈夫だったか?おぶってる間、俺のこと呼んでたみたいけど……?」
「う、うん!大丈夫、大丈夫!」
(うううぅ〜、緊張しすぎて倒れたとはいえ背中で名前を呼ぶなんてぇ〜‼︎)
「勇騎くん、お腹減ってない?」
「減ってますけど?」
「そう、ならお昼食べていって!」
「お、お母さん⁉︎」
「え、いいんですか?」
「ええ、桜もお腹空いてるだろうし。ウチまで運んで来てくれたお礼だと思って食べていって」
「そ、そうですか。じゃあ、お言葉に甘えていただきます」
「ほら桜、お母さんが作ってる間、貴方の部屋に勇騎くんを案内してあげたら?料理は持っててあげるから」
「ええー⁉︎勇騎くん、ちょっと待っててすぐ掃除してくるから〜!」
そう言ってわたしはリビングに勇騎くんを残して急いで部屋の掃除に取りかかった。
☆
一方その頃、真琴は実家の定食屋で手伝いをしていた。
真琴の実家はこの町で一、二を争うほど有名で知らない人はいないと言われるぐらいな店なのだ。
「今ごろ桜はアイツと上手くやってるかな〜」
「おーい真琴、ボーッとしてないで早く料理を運んでくれ!」
「はいよー」
は〜、本当だったらこっそり様子を見に行きたいところだけど今日はしょうがね〜しな。あとで桜に聞いてみるか。
「真琴ー、次できたぞー」
「はいよー!」
あたしが勇騎と初めて会ったのは出前の帰り道のだった、不良に絡まれた子を助けようとして自分がボロボロになって助けた友達は逃げ出して帰ってはこなかった。
あたしが止めに入らなかったらアイツはどうなってたわからない、あたしが店に戻ろうとすると自分の方がボロボロのくせに顔に傷が残ると大変だからってバンソーコを渡してくるしどんだけお人好しなんだか。
あたしを女の子として見てくれたのは、アイツが初めてだった。
その時、胸に感じた熱い気持ちは恋と気づいた時には親友の桜がアイツに恋をしていることに気づいてしまった。
☆
「やっぱり、美味しいな」
「そうだね……」
俺は桜と一緒に彼女の部屋でお礼の昼食を食べているのだが、なんだか部屋に入ってから桜の様子がおかしい。
「桜、さっきから手が止まってるがどうかしたのか?」
「うんうん、なんでもないよ!」
(「勇騎くんがわたしの部屋にいるから緊張してるんだ」なんて言えるわけないよぉ〜、助けて真琴ちゃーん!)
「花野の部屋、初めて来たけどいい匂いがするな」
「そ、そうかな。自分じゃあ、よくわからないんだけど」
「いい匂いだよ。真琴の部屋の匂いも好きだけど、花野の部屋の匂いの方が俺は好きだな」
「そ、そうなんだ……」
(わたしが遊びに行った時はそんな匂いしなかったけど、もしかして真琴ちゃんも⁉︎)
ふと時間を見ると、そろそろ帰らないとスーパーのタイムセールに間に合わなそうな時間だった。
「花野、俺そろそろ帰るわ」
「そ、そう……」
「お大事に、明日は真琴と一緒に屋上で昼食べような」
「う、うん!」
そう言って俺は花野の家を後にした。
☆
わたしは一人、勇騎くんのいなくなった部屋でさっきの話を考えていた。なぜ真琴ちゃんは勇騎くんを部屋に上げたのか、なぜ彼が行った時はいい匂いがしたのか。
自分の中の天使が真琴ちゃんも勇騎くんが好きなのにわたしのために自分の気持ち抑えているんじゃないかと言い、悪魔は反対にそんなことは関係なく恋愛は一期一会なんだと言い早く告白しようと言ってくる。
そんな時、真琴ちゃんから「今日は進展したか?」とメッセージが送られてきた。でもわたしは勇騎くんのことをどう思っているのかとは聞けず、「特になにもなかったよ」と返事を返した。
するとすぐに「そうか、でも早くアイツに告白しないと他のやつに取られちまうかもしれないぞ?」と送られてきた言葉の意味がさっきまで自分が考えていたことのようで、わたしは返事を返すことができなかった。
☆
次の日、俺たちは学校の屋上でお昼を食べていた。
「オマエ、パン一個で昼足りるのか?アレだったら桜に少し弁当分けてもらったらどうだ、なあ桜!」
「え、あ、うん。よかったらどうぞ!」
「ああ、じゃあ少しだけもらうけど。真琴からも頂くからな、はむ」
「な、なんでだよ!」
「ウッメェ〜!自分から提案しておいて、他人の弁当を勧めたんだから。食べても文句はないだろ?」
そのまま真琴はなにも言い返せず、黙り込む。
「ごめん……わたし、ちょっとお手洗いに行ってくるね?」
「ああ、ごゆっくり」
「待てよ、桜。あたしも行く!」
勇騎は二人がさった後、一人で肌寒いが暖かい春の風を感じていた。
☆
「真琴ちゃん、勇騎くんのこと、どう思ってる?」
「き、急にどうしたんだよ、桜!」
二人は誰も近づくことがないトイレで話し合っていた。
「昨日、勇騎くんが真琴ちゃんの部屋に行ったって聞いた時にもしかしたらって思ったの。真琴ちゃんも勇騎くんのこと、本当は好きなのにわたしに気を使ってるんじゃないかって!」
「あたしが本当はアイツのことが好きなのに、その気持ちを抑えてるなんて……そ、そんなわけないだろ?」
「もう嘘はつかないで、親友なんだから真琴ちゃんが嘘をついていることぐらいわかるんだよ?」
「……わかったよ、本当のことを言うよ。わたしも勇騎のことが好きだ、でも同じぐらい桜も好きなんだ!大切なんだ!」
「うん、わたしも真琴ちゃんが好き。だからね真琴ちゃん、これからはお互いに勇騎くんにアプローチしよ!」
「桜はそれでいいのか?あたしとライバルになるんだぞ。それにもしかしたら、あたしが……」
「真琴ちゃんがそんなに自信があるんだ〜?」
「なんだよ、悪いかよ!」
「そんなことないよ、わたしだって負けてないはずだもん」
「そうだな、じゃあ今からあたし達は恋のライバルだ!」
「うん!相手が真琴ちゃんでも負けないよ」
「それはこっちのセリフだぜ」
勇騎の知らないところで、お互いの本音をぶつけ合った二人はやっと同じスタートラインに立ったのだ。
春の大三角 Ray @Ray2009
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