第6話 作戦会議その三
――連合軍合同作戦会議。
それは各国の代表者が二名ずつ集まり、明日の計画について議論し合う場だ。
アメリカ代表ジャック・ヴァン・ベイカー。陸軍元帥。
カナダ代表ダンカン・オ・カルーラ。陸軍大将。
イギリス代表ダニエル・パワー・シャーリー。海軍大将。
フランス代表アラン・ド・マシュー。海軍大将。
ドイツ代表フリッツ・ジュリアス・トラウン。陸軍中将。
日本代表マタ。日本カリュウド軍隊長。
ソビエト連邦代表ロマン・アスケロフ。陸軍大将。
設営された大型テントの中、各代表が着席する。
円状に、各代表が顔を合わせるのに不足のない位置取りだ。
みな、他国の装備(戦力)と目的を見定めようと、殺伐とした雰囲気が漂っている。
(……さて、どうなるか)
無論、ここでの話し合いは有意義なものでなくてはならない。
Sランクという未知の魔獣に対し、人類がどのような対応をとるか、その第一歩がこの場で決定されるのだ。
そうでなくても、今回の地震によって発生した大量の魔獣相手に、有効的な攻略に力を入れなければならない。
日本で発生した九壱事件(関東大地震)の際、計四体のAランク魔獣を討伐できたのは、ひとえに入念な調査と、大勢の人の協力があったからこそだと、マタは痛感していた。
なればこそ自分が、この場でやるべきことは二つ。
各国間の『連携強化』と『情報共有』である。
各国の代表達による牽制と探り合いの中、マタもまた、自らの目的を再認識する。
――カチッ。時計が動く。
「それでは、連合軍の作戦会議を始める」
――始まった。
ピリッとした空気が走り、代表者たちがジャックへと視線を集める。
「連合軍の取締役を務めるジャック・ヴァン・ベイカー陸軍元帥だ。……さて、早速だが、諸君らには明日より始まる魔獣討伐に向けての打ち合わせに入りたいと思う。既に書簡にて大まかな内容は把握していると思うが、各国、担当する配置と規則については以下の通りである。従ってこの場では、『ミステールの山分けの比率』をどのように決定するか、それについて話し合いたい」
「その前に少し、いいだろうか?」
「Mr.アラン何だね?」
少し明るい茶髪に紺色のコートを羽織ったフランスの代表――アランは後ろに立つ副官から資料を開示すると、ジャックに向かって質問を投げかける。
「我々が独自に調べた報告書によると、今回現れた魔獣の数は推定2000体以上。Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、そしてSランク。このC〜Sまでの魔獣が現地に集まっているという認識で間違いはないだろうか?」
「魔獣の数については、我々が把握している数とおおむね合致している」
「ついてもの間違いでは?」
「……言いたいことは何かね?」
アランの挑発的な発言に対し、質問を返すジャック。
「いえ、数が合っているのであればそれで良いのです。数が合っているのであればね」
そのアランの言葉が
しかし、怒りを見せたのは一瞬で、すぐさま感情を落ち着かせる。
「……時間は有限だ。質問があれば答えるが、余計な詮索や分かりきっている事に関して聞かれるのは辞めていただきたい」
「その通りだな、ジャック。我々がいま話すべき事は、あの獣たちの排除と、ミステールの分配についてだ。技術力のケンカはそれが済んでからも遅くはあるまい」
ソビエト連邦代表ロマン陸軍大将がジャックの言葉に同意する。
「イギリスもソビエト連邦の意見に同意する」
「ここは予定通り話を進めましょう、ジャック殿」
ジャックの右隣に座っていたカナダ軍のダンカン代表がジャックへ言葉を促す。アメリカと最も有効的な同盟を結んでいるカナダからの助言もあり、ジャックは頷く。
「まずは発生した特大のミステールの配分の比率について話そう。各国に均等に割り振ることも考えたが、各国ごとに兵士の総数、1人当たりの戦力が大きく異なるため、今回は討伐総数で判断を行おうと考えている。計算は極めてシンプルだ。魔獣の討伐数を連合軍全体の討伐数で割り、導き出された数値によって配当されるミステールの割合が決まる」
「しかしながら、当然魔獣の強さもそれぞれ異なるため、Cランク魔獣を基準に、より高いランクの魔獣を倒した場合にはCランク魔獣に換算した討伐数をカウントすることとする。討伐の証明は胸にあたりにある魔結晶を比較すれば、ランクに見合った討伐数をカウントすることができるだろう」
「Dランクの魔獣を討伐した場合はカウントはされないのか?」
「Dランクに関しては魔獣を討伐し、魔結晶を持ち帰ればもちろん討伐数にはカウントする。しかし、その場合は五匹でCランク魔獣一匹とさせて貰う。あなた方もよく理解していると思われるが、奴らは共食いをする。より強い者が弱い者を食すことはままあることだ」
「なるほど、つまり放っておいても勝手に食われて死ぬ奴をわざわざ討伐する必要はないってことだな」
「そのとおりだ。ちなみにBランク魔獣一匹を換算すると五匹。Aランク魔獣は三〇匹だ。Sランク魔獣に関してはその強さが未だ不明なため一〇〇匹分とさせて貰う。ここまでは契約書に書かれた通りの内容だ。ここまでで、なにか質問がある者は?」
質問を受け付けると同時に、各国の代表者たちが次々とジャックに質問を投げかける。
「魔獣の討伐を横取りされた場合はどうするのか」
「魔獣の魔結晶について、取り出すのが困難な場合は?」
「獲物を横取りされないよう、各国に戦線ラインを引くべきだ」等々。
その様子を一歩引いた位置から見ていたマタは、この異質な空間に強烈な違和感を覚えていた。
(……これではダメだ)
確かに討伐数を数え、その総数でミステールの分配を決めるのは正しいのかもしれない。しかしながら、現に出てきた内容の中に「他国の陣地の中に、無断で侵入してきた者には罰を与えるべきだ」という意見に対して、半数以上の国が同意を示している現状をマタはどうしても良いとは言えなかった。
(……このままだと、各国は孤立して戦うことになる)
この流れは非常に不味い。過去の経験から魔獣との戦いは、周囲との連携が大切であることを知っているマタは焦りを覚えていた。
「皆、聞いてくれ」
マタは一人一人に語りかけるかのように言った。
反撃のカリュウド ハクセイ @tuki-hakusei
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