競い合うから

さなゆき

第1話

 その二人はしょっちゅう喧嘩けんかをしていた。

 きっかけなどいつも、些細ささいなことだったと思う。

 腹の中から一緒にも係わらず、その時から蹴り合いをしていたと母親は笑っていた。

 ある時はテストの点数が兄のほうが上だったから。

 弟は悔しくて、遊ぶ間も削り勉強をした。

 次のテストは満点で兄に勝利した。

 またある時は体育祭。

 サッカーの試合で兄は弟にシュートを何度も止められた。

 兄はそれからしばらくただ黙々と空き時間をシュートの練習に費やした。

 次の年の体育祭、兄はこれまでのサッカーでの最多得点数を塗り替えた。


 思えば色々競ってきた兄弟だった。

 どっちが先に結婚するかというくだらないものもあった。

 結局ほぼ同時に彼女を作り、結婚予定日も被ってしまった。

 挙句母親には『どうせだったら一緒にやってしまいましょう』と結婚式を一纏ひとまとめにされる始末であった。

 流石に新婚旅行は別々だったが。


 どっちの子供が可愛いか、自慢しあう時もあった。

 結果どちらの子供も可愛い、という事になり初めての引き分けだった。

 どっちがより家族を喜ばせているのか、という喧嘩の時は、互いの妻から『もっとがんばりましょう』と厳しい評価を貰った。

『まだまだだな』と二人で笑った。


 二人は言った。

『競い合うから、頑張れる』。


 ――どっちが先に長生きするかは、兄のほうが少しだけ勝った。

 兄は思った。

『こんなので勝っても嬉しくは無い』、と。

 ぽつり、と兄はつぶやいた。

『あぁ、喧嘩する相手がいなくなっちまったなぁ……』


                           終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

競い合うから さなゆき @sanayuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ