ラジオ

たま

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 くたびれた居酒屋のカウンター席で流れてくるラジオを聴きながら一人、ビールを飲んでいた。今頃同期の皆は楽しく飲み会でもしているのだろうと思うと、どうにもいたたまれない気持ちになる。私はそういう情報を見ないために、スマートフォンの電源はオフにして、鞄の中にしまってある。飲み会に呼ばれなかったのは私だけで、他の人たちは皆口を揃えて誰かが誘ったと思っていたと言った。彼らに悪意はないのだろうと思う。偶然何かの手違いで私にだけ連絡がなかったのだろう。普段の態度などを見るにそれは疑いようがないが、それでも疑ってしまう自分に、私はどうしようもない悲しみを覚えていた。

 グラスの中のビールはもうなくなるところだった。既に今までの一時間で五杯は飲んでいて、段々と自分が今飲んでいるビールの味がよくわからなくなっていた。

 延々と私にはよくわからない最近のヒットチャートを流し続けるラジオを聴きながら、どうにも社会人になってからというものの、世の流行についていけなくなったなと思った。楓と名乗る若い女のパーソナリティが届いたメールを読み上げる。大抵はどうでもいいような、くだらない質問のようなものだったが、その中に一つ、耳に残るものがあった。

「週末、どうしようもなく一人で過ごしている人もいると思いますが、江川公園でそういう人たちだけの集会をしたいと思います。もしこれを聞いている人で、条件に合う人がいれば、是非とも俺たちと立ち上がりましょう。俺たちと一晩だけの特別な夢を」

 私はそれを聞いて、とっさにこれは私に宛てて読まれたものだ、と思った。無論、私は楓なるパーソナリティと会ったこともないし、このメールを送った人が誰かもわからない。それでもこれは私のためのものだ、と確信するだけのものを感じた。

 気が付けば私は伝票を握って会計に向かっていた。

 

 

 夜の江川公園には既にちらほらと人が集まっていた。公園中に流れるラジオの音声を中心に、人々は皆思い思いに過ごしていた。ラジオで流れる音楽に合わせて踊る人、歌う人。缶を片手に一人で酒を飲んでいる人。ここにいる皆が私と同様に週末に寂しさを抱えた人たちだと思うと、どうしてか親近感を覚えた。ここには何か予定を抱えている人はいないのだ。事情はそれぞれ違うだろうが、それでも変わらずに皆孤独なのだ。

 江川公園は街の外れの方に位置している公園で、その立地が賑やかな人通りを感じさせない壁を築いていた。次第に集まってくる人たちも、この立地の良さに気が付いているのか、安心した表情で、思い思いにグループを作って過ごしていた。

 最初私の来たときはまばらだった人たちが、段々とそれぞれのやりたいことに近い人間と接点を持って、楽しげに語らい始めていた。賑やかさを持ち始めた江川公園だったが、やはりここにいる人たちは皆孤独を抱えた人に違いはなく、それぞれの孤独を埋めようと必死で声を上げている人もいた。

 私はラジオを中心に歌を歌っているグループに混ざって、その中で同様に歌を歌っていた。右手にはビールの缶を持って、酔ったテンションで音を外しながら歌っていたが、普段のカラオケでの飲み会などと違って、変な緊張はなかった。ただただ解放感と心地良さだけで、私は自然と先ほどまで一人で飲んでいたことを忘れて笑っていた。

 思えばこうして笑うのも久しぶりな気がした。会社の飲み会も、同期との飲み会も、誰かに遠慮してばかりで、一度として心の底から笑ったことはなかったように思える。ここにいる皆が同様に感じているとは言えなかったが、それでも皆の表情を見る限り、開放的なものを感じているのは分かった。

 楽しくて時間を感じることすらないままに、私たちは歌っていた。気が付けば、先ほどのラジオでパーソナリティを務めていた楓も一緒になって歌っていた。あのメールは彼女にも宛てられたものだったのだろう。だからあの場で実際に読み上げられて、私たちはこの場所に集まったのだ。なんという偶然だろうか。

 

 

 夜も更けて、段々と公園にいた人たちはそれぞれの生活に帰っていった。最後まで残っていたのは私と、メールを送った男と、それから楓だけだった。私たちは、この夜に集まって、夜が明ける前に解散する。今までの集会はただの夢のようなものなのだ。明日からはまたいつもの生活に戻らなければならない。

 それでも私はこの夢を見られてよかったと思った。十年先にも忘れられないような、そんな一晩だった。

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ラジオ たま @tamaoron

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