第二話 一日で二度も骨が折れた人ぉ!

身長240cmの超高身長女子こと山村夏織から殺害予告を受けた俺であるが、たかが女に「殺すぞ」と言われたくらいで参るほどやわじゃあ......。


「何か言ったらどうなんですか?本当に殺されたいんですか?」




やっべぇえええ!!!超怖い!何これ見下されながらの殺害予告は!!!!!

心を抉るというより、刈り取りに来てるわ!

落ち着け、落ち着くんだ竹久松茂!お前は平凡なサラリーマンであるが「中二病」という誇らしい病に感染している大人じゃないか!


胸を張ってこの子から信頼を勝ち取るんだ!だからよぉ......止まってくれよ、足の震えェ。


「そ、そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は竹久松茂。宜しくな」


と、取り敢えず挨拶をしよう。信頼関係は互いの名前を名乗ることから始まるんだ。

俺は山村夏織に握手を求めた。身長差がデカイ分、握手というより選手宣誓みたいな感じになるが......ええい!気にするな!。


素直に手を握ってくれるといいんだが......。


夏織は冷たき眼をより冷ややかにして、俺の手に向かってスッと右手を持ってきた。

おっ?これワンちゃんある?握手してくれる?



「ふんっ!」



バコォッ!!!!!!!



俺の手を握らず、手首辺りを全力で叩きやがった。



「ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」


あまりの衝撃に差し伸べた左手の手首から嫌な音が聴こえた。

ゴキッ、とかポキッ、とかではない。



「キャッ」、ていう明らかにジ・ エンドな音が俺の耳を伝って脳に響いた。


「ま、松茂!大丈夫か!?」


「大丈夫じゃない!手首終わった!俺の左手首が!これじゃあ暫く俺の息子が宥められなくなっちまう!痛い、痛すぎて麻痺ってやがるぜ!」


「夏織!なんて事するノ!松茂さんは何も悪いことしてないじゃない!」


「ムカついたから。それに私は誰にも触れたくないし、触りたくない」


「落ち着くんだ俺の左手首よ!息子に会えないからってそんなに悲しむな!俺だって泣きたい!」


霊長類最強と謳われるあの人すら瞬殺できそうな夏織から放たれた一撃は俺の左手首を終わらせた。

その後何やかんやあって粉砕した左手首は夏美さんに治療してもらいました。


「おい俊。これは警察案件だと思うのだがそこん所どう思います?」


「す、すまない......」


「俺明日仕事なんだよ?そこんとこわかってる?」


別に俊のせいってわけじゃないけど、何か物凄く腹立ってる自分がいます。

折れた利き手は包帯でガッチガッチに固められてるから手首を曲げることが出来ないし。

俺の「BIGBOY」を慰めることがしばらく出来ないじゃないか。


山村夏織はソファーに座って知らんぷりしているし。


何か腹立つ!!


「まあいいや。お前さんの女の妹を馬鹿にするつもりはないが、ゴリラ以上の力があるってことは分かったぜ」


「次は首を折りましょうか?」


「ハハハ!俺には法というATフィールドが全力でハグしてくれてるんだYO!」


考えが甘いぜゴリラ女め!おっと、これは口には出してはいないぜ。

「ゴリラ女」って口に出したら本当に殺されかねないからな。

心の中で馬鹿にしてやる!


バーカ!バーカ!ハハハハハハ!!!!


「姉さん.....俊さんはまだ家にいるのは構わないけど、これ以上この男を敷居にまたがせるのは許さないから」


まだ?。ちょっと待て、え?俊お前、期間限定付きでこの家にいんの?同性じゃねぇの?


言葉には出さず、表情だけで我が親友に問い掛けると、黙って目を逸らした。


「お前.......」


「松茂......それ以上は.......何も言うな」


「そ、そんなことより!もう夕方だから松茂さんはお家に泊まっていってくださーぃ!」


「全身全霊で断らせて頂く!ではこれにて失敬!」


こんな所にいたら命がいくつあっても足りやしねぇ!俺は早いとここの家を出るぜ!

鞄を背負い、俺は床を全力で蹴った。玄関口までの距離はここからだとおよそ14メートル。

めっちゃ長い気がするけどまあいいや。

俺なら二秒で外に出られる!三年間帰宅部だったこの俺を舐めるなよ!



「させるかぁ!」


「ぐはっあ!?」


走り出す前に俊が背中越しにのしかかって来た。

俺はバランスを保てず床に顎から倒れ込んでしまった。


「貴っ様ァ!顎打ったじゃねぇか!なにすんねんな!」


「頼む!泊まってくれ!俺もうあの純度100%の殺意を向けられるのが嫌なんだ!」


「テ、テメェ!結局自分が助かるための口実で俺を招き入れたってわけやな!?話がちゃうぞ!夏織を助けろって話しちゃうんか!」


「気安く私の名前を呼ぶなぁ!」


「やばい!逃げるぞ松茂!!」


「自分だけ助かろうとしてんじゃねぇぞクソがぁ!!!!!!」













四分くらいに渡る俊と夏美さんの説得により、俺は敢え無く泊まることを承諾してしまう。

クソッ......コイツ等、俺が頼まれたら断りにくいってことを知ってて言ってやがる。

まあ、泊まるって自分の口から言ったから今更「やっぱりやめるわw」って言えるわけがない。


夏織は「十文字以上話したら肋の骨を一本ずつ折る」っていう条件で泊まることをOKしてくれた。

条件地獄過ぎるだろ.....ていうかコイツ俺になんか恨みでもあんの?

会うの初めてなんだよ?


時刻は六時を過ぎている。俺達はこれまた広い食卓に並んで晩飯を食ってる最中だ。


問題はその並び。



食卓は壁に合わせられてて、俺は一番端、つまり壁側に座っていることになる。

で、俺の隣に座っているのは、


「そんなに見つめないで下さい。目玉を穿り出しますよ?」


ゴリラ女である。いやもう、ただ隣にいるだけなのにこの存在感よ。





といっても過言ではない。恐ろしや.....。




「俊、死ね」


取り敢えずクソッタレな親友に悪態を吐く。


「だが断る......」


「もうマジで逝ってくれ」


ふぅ、ギリギリ十文字。俺の肋は折らせはせん!


「どうですか?私のお料理は、今日は腕によりをかけてみたでース!」


「いやまじで美味いっす。特にこの唐揚げ、外はカリカリで中はジュ、」



バキッ!(肋が折れた音)



「シィイイイイ!!!!!」




いやまさか本当に肋を折ってくるとは思いませんでしたよ。俺は痛みに悶て椅子から転げ落ちてしまった。


「折りやがった!マジでこのゴリラ折りやがった!痛ってぇ!!!!!」


「誰がゴリラですかこの中年男!」


「うるっせぇな!俺ぁまだ22じゃボケがぁ!」


「私は24歳です!......え?年下なんですか?てっきり45歳くらいかと」


「老け顔でごめんなさいね!」


だって仕方ないじゃん!俺昔から老け顔だし!

高一の時に中学の後輩の卒業式に出たときなんか教員から真剣な表情で「新しい先生ですか?」と聞かれたくらいだよ!?


「ていうかゴリラってなんですか!私は人間です!」


「分かっとるわ!身長がバカでかいだけの女ってことくらい!おっぱいデカイし顔美人やし、正直俺のタイプやけどなんか好かんわ!」


そう、このゴリラ容姿だけは本当にそこら辺の女優よりも整ってると思う。

俊は身長がでっかいとか言ってやがるけど俺からしたらぎゅってしたときに確実に顔がおっぱいに当たるから寧ろ好都合......うん、こういう女に一度包まれたいな。

って俺、誰にも抱きしめられたこと無かったな。


「び、美人って......嘘をつかないでください!腸引き釣り出されたいんですか!」


「嘘ちゃうわ!仮にお前がブスやったら美人とか絶対に言わんきんな!美人に美人言うて何が悪いんな!」


「う、うるさい!もう黙ってください!近所迷惑です!あなた声大きくすぎです!」


「いや俺、肋折られてんだよ?テンション上げないと痛みで泣きそうになるもん」


アドレナリンを分泌するにはやっばりテンション上げるのが一番だな。

そもそもだけどコイツなんで息するように骨折れんの?


「なぁ、お前等の両親も身長デカいん?」


夏美に聞いてみる。俺の予想だと、父ちゃんの方が身長480センチくらいあると思う。


「hay!私達の父さんと母さんは二人とも平均的な身長デス!」


「え?じゃあこのゴリラは突然変異なん?」


「またゴリラって言った......!」


八尺様の子孫っていってもその特徴が全員に出るってわけでもないみたいだな。

その中でも夏織は突然変異に当るってことか。


「ていうかお前は仕事とか何やってんの?」


身長240センチで外歩いたら即ニュースになるだろう。

て、ことは家でも出来るような仕事に限られるはずだ。

職業を聞いてみると夏織は恥ずかしそうにこう言った。


「イ、イラストレーターです。一応は」


「まじで!?絵描けんの?」


イラストレーターなら家でも何処でも出来る。けどそれで食っていくってなったら相当の実力が必要になる。

ちょっと夏織に最近描いたイラストを見せてもらった。


「すげぇな!めっちゃ上手いやんか!」


ミミズが走ったような絵だと想像してたけど、斜め上をいかれた。

雪の結晶を描いた一枚だが、その上手さたるや芸術と呼べる代物だ。

多分これはピカソでさえも、声を出して驚いてしまうだろう。


「こ、これくらい普通です.....ていうか近いです」


「ああ、すまんな」




飯を食い終わって、温泉みたいに広い風呂に浸かった俺と俊はゴリラが座ってたソファーで寛いでいる。

かなり低反発だから結構気持ちがいい。


「なぁ、この間に帰ってもかまんか?」


「却下だ。お前は泊まっていけ」


「手首痛くて息したら苦しい状態で?普通これ入院レベルだぜ?」


まあ昔から俺の体は頑丈だからこの程度で死にはしないがな。

入院レベルはちと大袈裟か?


「松茂、夏織はどうだった?」


「ゴリラ。これに尽きる」


「そ、そうか。夏織は小学から中学に渡って虐められてきたんだ。原因は、お前も分かってると思う」


「虐められてきた.....か。男嫌いなのも無理ないわな」


すると俊はいきなり立ち上がって、俺に頭を下げてきた。


「お、おい。急にどうしたんな?」


「頼む、夏織を助けてやってくれ。夏織は心を閉ざしてる。人の心を誰よりも理解してるお前にしか頼めないんだ」


人の心を誰よりも理解してる.....ねぇ。褒めてんのか貶してんのかよく分からねぇが、こうやって頭を下げてまで頼まれてんだ。

親友の俺が逃げるわけにはいかないわな。


「分かったよ。けど何年かかるかわかんねえぞ?」


「俺の予想だと、半年で夏織は変わると思うがな」


たまーに俊の予想は当たるときがあるからな。

無理しない程度に関わっていくか。俺の身が持てばいいんだけど。



(俊.....お前は無理だと思ってるが、実際は半年もかからないかもしれないぞ)



何故なら夏美と交際して三年経つが、俊は未だに夏織と話したことが無いからだ。

さて、半年後には夏織は一体どうなっているのか。






それは神のみぞ知る......いや、意外と分からないかも。




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八尺様の子孫は超依存系女子 桂ピッピ二世 @ke318

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