八尺様の子孫は超依存系女子

桂ピッピ二世

第一話 一体どれだけの牛乳を飲んだの?

四年ぶりに親友と会った。高校を卒業してから一度も会ってない親友と。

そいつは清水俊と言って、今は東京の有名な料理店の店長として働いている凄い奴だ。

それに比べて俺はしがないサラリーマン。一応それなりの功績を残してはいるが三十路の独身女上司に目を付けられているので、それが毎日のストレスとなっている。


親友の清水とは今居酒屋で焼き鳥を貪っている。

俺も清水も酒には弱いのでコーラで胃へ流し込む。仕事での愚痴や思い出を共に言い合い、夕方に差し掛かった頃に急に清水が口を開いた。


「松茂。前に言ってた俺の彼女の話覚えてるか?」


「彼女?ああ、電話で聞いた爆発発言やろ?いやあれには驚いたぞこのリア充め!」


リア充は爆破しろ!と冗談混じりに口にするが、清水の深刻な顔を見て俺は直ぐに口を閉じた。


「彼女と何かあったんか?」


確か付き合ってもうすぐ二年目と言っていたのを覚えているが、喧嘩でもしてしまったのかと勝手に想像する。

清水は何かに怯えたように重々しげに話し出す。


「俺の彼女に.......妹がいるんだがな。それが......その......おかしいんだ」


「おかしい?精神的にってことか?」


「いや違う。何ていうか........だな」


「ハッキリせえへんな。どどんと言えや。性格に難があるとか?」


清水の彼女に妹がいたことは初耳だ。その妹がおかしいと言われると正直精神的とか性格がおかしいんじゃないのかと思う。

しかしどれも違うようだ。


「........身長が高いんだ。夏美の妹は」


彼女の名前は確か山村夏美だったかな。で、その妹は身長が高いと。

あまりにも拍子抜けすぎて俺はため息をついた。

それが露骨すぎたのか清水は目を丸くした。


「身長が高いってお前.......。で?身長何センチなん?」


たかが身長が高いくらいでそんなに深刻になることなのかと、俺は笑いながらその子の身長を聞いてみた。


「240cm」


「........あ?」


「いやだから、身長、240cm」


「お前それマジで言ってんのか?」


「マジマジ。神に誓ってもいい。山村夏織って言う名前だ。その子、身長240cm」


驚きすぎてねぎまを口に入れたまま固まってしまった。

女子なのに身長が240cmか..........。

何処に聞く八尺様みたいな感じだな。俺は実際に「八尺様じゃねーか!」とツッコんだが、ノリのいい清水は何一つボケを返さなかった。


そのことに俺は戦慄する。


ボケを返さないということは、俺が言った「八尺様じゃねーか!」、という台詞は間違いではないからだ。


「お前.....その夏織って女の子。八尺様と関係あんの?」


「お前の感の鋭さにはたまに驚かされるな。具体的に言うと山村家は八尺様の子孫だ」


「はぁ!?」


え!?八尺様ってそもそも実在してたの!??

子供いたの!???八尺様の血を引く女が親友の彼女なの!!!!!???


と、色んな驚きと疑問が頭を駆け巡る。花火のように弾け飛ぶと、俺は頭をスッキリさせるためにコーラの入ったグラスを飲み干した。

いや、正直状況が全く理解できねぇ。

山村夏美は八尺様の血を引いているが、妹の方が色濃く表に出ていると言うことなのか?


「なぁそれってさ、お前の女も身長デケェの?」


「いや、夏美は180センチだ」


いや普通に言ってっけど結構高いぞ?まあそれくらいの身長の女は珍しいわけでもないからな。

対して驚くほどでもない.......。


「けど相手の感情を読み取れる」


「はいはいはい、サイコキネシスっすか。やべっ、なんか笑えてきた」


「どんなにぶっ飛んだ話も真剣に聞いてくれるお前に感謝してるよ」


「ディスってんのか?」


「勿論」


久しぶりに会ったと思ったらとんでもねぇ話題ぶっ込んで来やがったな俊......。

ていうかなんでそんな常識の一欠片もないようなことを平気で俺に話すんだ?

なにか裏があんな........。


「お前に山村夏織に会ってほしいんだ。夏織を助けてほしい」


やっぱり。こいつ高校のときからなんでも俺に頼る癖があるからな。

ま、親友として聞いてやるか。


「助ける?何を?」


「取り敢えず今から夏美の家に行く。着いてきてくれ」


「おいおいおい、情報不足!ちゃんと説明してくれって!」


あと二時間は飲む予定だったのに、俊のせいで知らない家族の家に上がることになった。

山村姉妹は二人で暮らしていて、今はそこに俊も加わってハーレムな状態だ。

くそっ!リア充め爆発しろぉ!!!!!!


そんな俺の怨念も無駄に終わる。俊は居酒屋から電車で二十分ほどの距離にある住宅街に三人で過ごしているようだ。

どんよりした気分のまま俺は俊の後を着いていく。


「あー......帰っていい?」


「駄目だ。お前には夏織に会ってもらう」


「呪われたりせん?何かこう......あなたは一生童貞だー、ていう呪いに」


「その呪いはもう既にかかってるだろう」


「テメーだけ大人の階段を登ったことを俺は忘れてないからなこのやりチン野郎め」


何て他愛もない会話をしながら歩き続け、住宅街の中で最も存在感があり、巨大な一軒家に着いた。

最初からこうなることを分かっていたのか、俊はインターホンも鳴らさずに扉を開いた。


俺も続いてに玄関に入る。すると奥からエプロンを着た女性がパタパタとやって来た。


「お帰りなさい!ダーリン!.......あ、貴方が竹久松茂君ね。会えて嬉しいわ。ということは話はダーリンから聞いてるわよね?」


ダ、ダーリン.......だと!?


この女、我が親友のことをダーリンって言ってんのか!?まだ結婚してないはずだが........もうそういう領域に足を踏み入れたってことか!??。


自分よりも背が高いこの女性が山村夏美。ショートボブの黒髪に顔のパーツはどれも無駄が無く整っている。 

肌は少し褐色でそれが彼女の女性らしさを引き出していた。


「ああ......竹久松茂です。妹さんの件でこちらに伺ったのですが」


「ええそれもダーリンから聞いてるわ!こっちに来て、夏織今リビングにいるから」


夏美さんに手を引っ張られて、俺はリビングへ入った。

初対面なのにここまで警戒心がないのは俊が俺のことを話しているってことに違いない。


リビングに入る。床は真っ白で綺麗に掃除が行き届いている。

テーブルの席には体格がえげつねぇ女性が背を向けて座っていた。


遠目からでも分かる肉体の強靭さ。それに椅子に座っているというのに存在感が半端ない。


「夏織ー!ダーリンのお友達が来たよー!」


「夏美、友達じゃない。コイツは親友だ」


存在感が半端ない女性がこちらへ顔を向けた。

腰にまでかかる黒髪に目はたらりとしている。肌は真っ白で死人のように見える。顔はそれだけで食っていけるほど美人で、俺はついつい見惚れてしまった。


彼女が席を立つ。俺はゆっくりと顔を上へ向けた。


身長、240cm。


その事実を俺は目の当たりにした。


俺の身長は172cmだが、彼女とは天と地ほどの差があった。


「姉さん.....この方は?」


風鈴のように透き通った声だった。顔を限界まで上げないと彼女の顔すらまともに見れず、そのせいで首が痛い。


「この子は竹久松茂っていうんですヨ!貴方のお友達になってくれる方でーす!」


「いりません。私に友達なんて.......みんな裏切りますから」


「あー、一つええか?」


「はい。何か質問でも?こんな汚い私に.......」


「一体どれだけの量の牛乳を飲んだら身長ってそんなに伸びるん?」


純粋な疑問に彼女は顔を歪め、冷たい顔のまま突き放すように言った。


「知りません。自分で考えたらどうですか?とにかく、ここから出ていってください。邪魔です」


とことん嫌われたもんだ。いや、彼女のこの身長のことを考えたら学生の頃に辛い体験をしているに違いない。

俊と夏美さんの方へ顔を向けたら「もっと行け!もっと話かけろ!」、という圧が凄い。


あ、そういえばこの子八尺様の子孫だったな。








ぽぽぽ、って言うのかな。





「ちょっとぽぽぽって言ってくれん?」


「殺しますよ貴方」

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