虚辞の宝石【短編】

Naminagare

虚辞の宝石―本編―

 とある国に、らんぼう者の王様がいました。

 王様は気に入らないことがあると直ぐに怒るので、彼の部下や国の人々も王様を恐れていました。

 そんな王様の前に、ある日のこと、自らを魔法使いと名乗る女性が現れました。


「王様、お初にお目にかかります。私は魔法使い、面白い品物をお持ちしました」


 彼女は、王様に水色にかがやく宝石を渡します。


「なんだこれは。とても美しい宝石じゃのう」

「それは魔法の宝石でございます」

「なんと、魔法の石じゃと」

「はい。それを持てば、たちまち願いは叶いましょう」

「それは面白い。それでは早速試してみよう」


 王様はニヤリと笑い、近くにいた大臣に言いました。


「大臣よ、今すぐ踊れ。はげしく、くるったように踊ってみせよ」


 それを聞いた大臣は、言われた通りに踊り始めます。

 王様はたいそう楽しそうに「おお、本当に踊りおった」と笑いました。


「いかがでしょうか。その宝石を金貨五枚と交換しませんか」

「魔法の宝石なら安いものじゃ。しかし、のう」


 王様はまたニヤリと笑って、魔法の宝石を魔法使いに向けて、いいました。


「金貨五枚は高すぎる。タダにせい! 」


 王様は魔法を使って、魔法使いに魔法の宝石をタダで渡すように命令したのです。

 魔法をかけられた魔法使いは「わかりました」と答えました。


「うひょひょ、これは面白いのう! 」


 魔法の宝石を手に入れた王様はたいへん喜びました。

 そして、その日から、王様の乱暴だった性格はますますつけあがるようになり、今まで以上にごう慢になってしまいました。


 寝ながらご飯を食べたり、ひどくお酒を飲んだり、一日中寝ていたり、それはもう誰もが呆れてしまうような暮らしぶりになってしまったそうです。


「うひゃひゃ、これは愉快じゃのう。こんなに楽しいことはない。今日は町にいくぞ」


 寝て遊んでばかりの王様は、たまに町に出ることもありましたが、近くで見つけたお店に入っては、お店にならんでいるパンやケーキを手に取って、お金も払わずムシャムシャと食べてしまいます。


「ああっ、王様。お願いですからお金を払ってください」

「わしに命令するのか。どうじゃ、この魔法の宝石を見よ! 」


 魔法の宝石のおかげで、王様の願いはなんでも叶いました。

 きっと、これ以上ない至福の時間を過ごしていたことでしょう。


 すると、魔法の宝石を手に入れてから半年ほどしてからのこと。

 王様の前に、ふたたび魔法使いが現れました。


「これは王様、お久しぶりです」

「おお、魔法使いか。魔法の宝石はとてもいいものじゃのう」

「お喜びいただけて光栄です。本日は、新しい品物をお持ちしました」

「ほう、なんじゃ! 」


 王様は興味津々にたずねます。


「こちらは古来より伝わる、空をも飛べる羽衣です」


 魔法使いが取り出したのは、世にも美しい真っ白な羽衣でした。


「空も飛べる羽衣じゃと! 」

「はい。ただし飛ぶには魔法の力がひつようです」

「わしには魔法は使えない。どうすればいいんじゃ」


 魔法使いは『ニヤリ』と笑って答えました。


「その魔法の宝石が必要です。試しに私が飛んでみますので、お貸しください」


 魔法使いは魔法の宝石を差し出すように言います。

 ですが、ごうまんな王様は、魔法の宝石を誰かに渡すことが嫌でした。


「嫌じゃ。ならわしが飛ぶ。その羽衣も渡せ! 」


 魔法の宝石をつかって命令すると、魔法使いは「分かりました」と羽衣を王様に渡しました。

 羽根のように軽く、真っ白で美しい羽衣に、王様は目を輝かせます。


「これは素晴らしい。どうやって飛べばいいか教えてくれ」

「魔法の宝石を、羽衣にこすりつけてください。そして、それを身に着けて、高いところから飛ぶのです」


 王様は「分かった」と答えました。

 なんでも願いの叶う石に、空も飛べてしまう羽衣を手に入れられるなんて、王様は楽しくて楽しくて仕方がありません。


「さっそく、やってみよう! 」


 王様は魔法使いといっしょに国でいちばん高い山にのぼりました。

 そして、がけに立った王様は、言われた通り、魔法の宝石をゴシゴシと羽衣にこすりつけ、羽衣をみにまといました。


「これでいいんじゃな。あとは強く空を飛べると願うのか! 」

「そうでございます。さあ、空を飛べると信じて、がけからお飛びください」

「おお、見ておるがよい! 」


 王様は、空を飛べることを信じて、自信満々に、がけから飛び出します。

 ところがどうでしょう、王様の体は空を飛ぶどころか、がけから勢いよく落下してしまい、バーン! と、地面にたたきつけられて死んでしまいました。


「あーあ、死んじゃいましたね」


 魔法使いは、がけの下で死んでしまった王様を見下ろしながら言います。


「馬鹿だねえ。空を飛ぶ羽衣も、魔法の宝石なんかも最初からありゃしない。みんな、あんたが怖くて命令に従っていただけなのにさあ」


 王様は全てが魔法の力だと思っていましたが、本当はみんな、王様がこわくて魔法に掛かったふりをしていただけだったのです。


 虚辞の宝石 おしまい。


 ………

 …










 

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