誰と恋愛、する?

 目の前?


 ウルフランス?サラさん?


 ううん、もう一人、いる。


 この小さなドラゴンだ。


 もしかして……このドラゴンが……竜の王様……。

 うん?

 待って待って、隠しキャラはどこかの王子様だって言ってた。

 まさか……。


 でも、このドラゴンって中身は南雲なんじゃないの?

 声が似てるだけ?


 やっぱり思い違いかぁ〜って思ったのも束の間。


 サラさんの家の前でみんなでピクニック気分でお茶をしていると、リュートが飲み物を持ってきてくれた。


 ホットココア……。


 私がいつも飲んでるやつ。


「ナコ、これでよかった?」


 って……どう見ても南雲なんだけど。


 南雲ってば、演技下手すぎでしょ……。




 その日は、お城に泊まらせてもらった。

 大きな天蓋付きベッド。これに寝られるだけ、VRやっててよかった〜って思える。現実の私は、職場で柔らかさのかけらも無いVR用ベッドに寝かされてるんだけど。


 リュートとも同じ部屋なんだけど、どこへ行ったのか、お出かけ中のようだ。


 これから寝るぞ〜って時に、どこ行っちゃったのかなぁなんて思いながら、ベランダで周りを見渡していると、庭の方でウィンクしてくる殿方に気がついた。

 くいくいっと指で呼んでいる。

 ウルフランス王子だ。


 庭に出て、外にあったベンチに腰掛ける。あの馬の選択肢でラディを選んでおけば、ラディが来たのかしら。


「お前はやはり、聖女だったのだな」


「そう、みたいですね」


 あはは、と笑ってみせる。


「君が国を救うことになるのだな」


「そんな、大袈裟な」


「王家に伝わる本があるんだ。竜を統べる王の目星はついている」


「へぇ……?」


「ドラゴンの王は、小さなドラゴンの姿をしているらしい。見つけるのが難しい宝石、竜の魂を食べることで、王は王の姿を得る」


「王の……姿を得る……?」


 小さなドラゴン……。やっぱりリュートのことだ。


 まさか、人間の姿になって……攻略対象に……。


 ありうる話だ。でも、中身はどう考えても南雲……。


 これはもしかして……隠しキャラをプレイアブルにして南雲がプレイしているの?


 なんで。


 すると、ウルフランスは、ベンチの前にひざまずき、私の手にそっと唇をつけた。


「必ず、この世界を救おう」


 おぉ……。こんなものが間近で見られるなんて。


 とはいえ、手をぐいっと持ち上げられ、立たされ、王子の顔を間近に見ることで思う。私は、ここで恋愛なんてできない。


「うっ……」


 ちょっと涙が出てきてしまった。


 すると、その瞬間……、


 ドンッ!


 と、近くで大きな音がした。砂煙。抉られた地面。そして、中心に立つ小さなドラゴン。


「何……泣かされてんの……?」


 リュートの目が、鋭く光る。


「そいつに……したの……?なんで……こんな……」


「ち、違う、よ?国を救うって言われて、びっくりしちゃって……」


 慌てて言い訳をしてみる。


「あのね、リュート!私必ず、あなたの封印を解いてみせるから……!」


 そう言うと、リュートとやっと目が合った。




 言い訳がきいたのか、なんとかリュートを捕まえて部屋まで戻ってきた。リュートと二人で星を見る。


 そうだよ。攻略対象に南雲がいるなら、話は簡単だ。


 このドラゴンの封印を解いて、その人とハッピーエンドを迎えればいいんだから。


 そこまで考えて、はた、と気づく。


 ハッピーエンドを迎えるってことは、告白する、ってことだよね。


 ……南雲の好感度を上げて、告白する……???


 それって、普通の恋愛と変わらないのじゃない!!


 お、王子と恋愛したほうがまだ簡単かも……。いやいや、それはダメでしょ、なんて頭の中が堂々巡りする。


 これは、前途多難かも。


 リュートのほうを見ると、がちょっと淋しそうな、抱きしめたくなるような顔で笑った。


 …………これの中身が南雲じゃなかったら、犯罪の匂いがする……。まるでいたいけな男の子だ。


 悩みは尽きないけど、南雲がいてくれるなら、安心だ。


 私はへへって笑い返した。


 VRの世界で、綺麗な流れ星がきらっと空を横切っていった。


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本命がいるのに乙女ゲームを攻略しないとリアルに戻れなくなったなんていうよくある話 みこ @mikoto_chan

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