ツンデレ商人と美人な魔法使いさん

 目を開けると、どこかの馬車の中だった。


「え……ここ……どこ」


 何もない、馬車の中だった。

 木でできた、幌を被っただけの馬車。

 幌をかぶっているので、周りも見えない。馬車が動いてないことくらいしかわからない。


 え、これ、何?


 混乱しているうちに、馬車の片側の幌が持ち上がった。


「これが聖女様、か」


 ゆ、誘拐!?


 と思うと同時に、


 イ、イケメン!!!!!????


 と思ってしまった。


 目の前に突然、イケメンが現れて、びっくりした。

 そうだ、この人、攻略対象の一人、商人のアンバルだ。

 服装といい、まるでアラビアンナイトから出てきたみたいなイケメン……!


 攻略対象との出会いイベントだったのかぁ。


 誘拐とはいえ、ほっとしてしまう。


 アンバルは50センチほど離れて、しゃがみ込み、私の様子をうかがっている。


「ふうん……、顔は好みじゃないけど、ま、売れるだろ」


 こ、これは……あとでデレるやつ……!


「親方ぁ」


 外から声がかけられる。親方なんだ。


「よし、このまま町へ行け」


「イェッサー」


 外が騒がしくなり、馬のいななきとガタンという音と共に、馬車がガラガラと動き出した。

 ……アンバルは、ここにいるんだ?これ……ここで仲良くならないと売られちゃってゲームオーバーってことにならないよね?


 ゲームオーバーで終了?で、リアルに戻れるかと思ったけど、リーダーのことだからまた最初からやり直しってこともあり得るな、と思う。出来るだけハッピーエンドを目指さなくっちゃ。


「…………」


 とはいえ、知らない人と会話もなぁと思っていると、アンバルが腕を怪我していることに気がついた。


「あ、その傷……」


「ん?」


 自分の腕を見て、あ、これか、と息をはいた。


「大丈夫だよ、昔の傷だから。痛いわけじゃないんだ」


 あ……乙女ゲーでよくある感じの会話だ。


 とはいえ、


 まっすぐの……優しい、目。


 う…………。


 うわぁ……。


 その瞬間、馬車が派手にガッタン!と音を立て、ガタガタと揺れた。


「きゃっ……!」


 アンバルが受け止めてくれる。


「な、……大丈夫かよ」


 アンバルは横を向き、私の肩を押し戻した。


 うわあああああ、待って待って!照れないで!!!!……いや、照れて!!!!???


 そ、そんな恥ずかしがり方されたら私もやばい。

 と、同時にこんなところ南雲に見られてたらどうしようと思う。


 そう、南雲も親切にしてくれるとき、似たような顔するんだよなぁ。


 ふと、南雲の顔を思い出したとき、真上の幌がザシューーーーーーと切れる音がした。


「えっ!?」


「敵襲か!?」


 アンバルが私の頭を押さえつけて、庇うようにしてくれる。


 そして、私の頭の上から……


!!」


 とてもよく知っている声を聞いた。


 え?え?え?


 だってそれは、私が一番聞きたかった声。


 アンバルを押し除けて上を見ると、そこには、リュートが顔を覗かせていた。


「リュート……?」


 私は、無事に助け出された。

 王子と近衛隊長の他に、いつの間に合流したのか、森に外れに住む魔法使いさんも助けに来てくれていた。


 足まで伸びた薄紫色の長い髪。優しげな瞳の長身のその人こそ、攻略対象の一人、魔法使いのサラさんだ。


 めっっちゃくちゃ美人!!


 ……これだけの攻略対象がいて、まず乗り込んでくるのがナビマスコットなのはちょっとおかしいんじゃない?

 それも声が……、よく聞いたら、南雲の……声なんじゃ……。


 身体が、固まる。


 私を庇うようにその小さな体で立ち塞がるドラゴン。


「無事、みたいだね」


 目が合う。


 うわーーーーーーーーー。一度気づいてしまうと、南雲の声にしか聞こえない!!


 なんで……?プレイアブルキャラではない、でしょう?


 サラさんの巨大な魔法陣から出る魔法から、逃れ、アンバルはどこかへ消え去ってしまった。

 神出鬼没キャラなのかな。落とすの大変そう……。


 ラディは残った馬車と残党を引き渡すため、街へ戻って行った。

 結局、残った3人とリュートで、サラさんの家に行った。




 いかにも、魔法使い、といった家だった。

 木をくり抜いたような家。家の中にはハーブのような匂いが充満し、ツタがそこかしこに這っている。

 丸い部屋の中心には、切り株のような丸いテーブルの真ん中に、いかにもといった水晶玉が置いてある。


「おぉ……」


 私が感動している隣で、リュートも感動しているみたいだった。ナビしてくれるマスコットが家に入るだけで感動するなんて、やっぱりおかしな話だ。


 じゃあ、今までのも……やっぱり私を守って……。うぅ……。


「私は、サラ。王家直属の魔法使いをやっております」


 サラさんに握手を求められる。手が……すべすべ……。


「こ、こんにちは。ナコです」


 私、ウルフランス、サラさん、リュートのみんなで、水晶玉を覗き込む。これで竜の魂のありかと、竜を統べる王の正体がわかるんですって。


 真剣に水晶玉を覗き込む。というのも、間近にいるウルフランスとサラさんの顔が良すぎて、意識すると緊張してしまうからだ。


 暗い部屋の中で、ぽやんと水晶玉が光る。


「どうしたの?サラ」


 うおっ……。水晶玉が……喋ったぁ……。


 水晶玉は、お色気たっぷりのお姉さんの声で喋り出した。


「聖女が……この国にいるか見て欲しいんだ」


「…………。なるほど、ね」


 水晶玉から、スゥ……と息を吸い込むような声が聞こえた。


「いるわ」


 ウルフランスの喉からゴクリという音がした。


「そう。貴方と、私の、目の、前に」


 もったいぶった喋り方だが、内容はけっこうハッキリとしている。


「竜の魂、というのは、どこにあるんだろう?」


「王家に伝わる、王冠の、赤い、宝石」


 へぇ、竜の魂は宝石なんだ、と思った瞬間、

 ウルフランスが勢いよく立ち上がった。


「あの宝石は……20年前から行方不明だ……」


 うわぁ。冒険始まっちゃいそう。


 サラさんが、続ける。


「竜を統べる王、とは?」


「その方も、貴方と、私の、目の、前に」


 ………………?

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