キラキラ王子とぶっきらぼうな近衛隊長

 キャラクターデザインを見たことがある。

 攻略対象キャラは5人。王子、近衛隊長、森の外れに住む魔法使い、商人……。

 あと一人は隠しキャラだから、見せてもらえなかったんだよね。確か、どこかの国の王子だとか。


 中でも真ん中でキラキラしているのが、このウルフランス王子だ。


「大丈夫か?」


 キラキラ王子が私に向かって話しかけてきた。


 こ……これが……ゲーム……?


 信じられない。

 この手の柔らかさ、表情、言葉。どれを取っても本物でしかない。

 偽物っぽいとするなら、このコスプレのような格好と流暢な日本語くらいだ。


 うっかりドキドキしてしまう。


「あ……の……。ありがとう」


 う、そでしょう……。


 こんなにドキドキするなんて。

 だって……こんな……。

 間違いなく王子なのだ。


「大丈夫、どこも……」


 言いかけると、


「念のため、うちに来るといい」


「え?????」


 うちって……王宮のこと?

 そりゃあ、恋愛ごとがサクサク進むのは嬉しい、けど。

 もしこれが攻略対象じゃなかったら、誘拐ですよ!?王子!!?


 手を繋がれてドギマギしていると、街の方からリュートがフワフワと浮いているのが見えた。

 いつからあんなところにいたんだろう。

 それも、すっごい不機嫌そうな顔で。




 リュートを置いていってしまったのはまずかったかな?


 そう思って、城へ行くときには肩に乗ってもらった。


 お城は、もう歴史ある~という感じの豪奢な作り。

 ……建ててから1年も経ってないけど。設計図も見たことあるし。


 あれよあれよという間に、私達は王宮の客間のソファに座らされていた。


 メイドさんがずらららーっと並んでいて、緊張してしまう……。


 お値段がつかなそうな扉から、さっきどこかへ行ってしまったウルフランス、もう一人イケメンが客間に入ってきた。

 この人はまさか……。


 そう、その黒髪短髪イケメンこそ、攻略対象の一人、近衛隊長のラディだ。


「またお前、猫みたいに女の子拾ってきて……」


 呆れたようにウルフランスに話しかける。

 ウルフランスは何やらラディに耳打ちすると、ラディがカツン、カツン、とブーツの音を立ててこちらにやってきた。意味ありげなブーツの音。


「へぇ……これが聖女かもしれない、って?」


 ラディが、私の顎を、品定めでもするかのようにクイッと持ち上げた。


 近い……!


 あー、俺様系のキャラね。って思った瞬間、


 ぐいっ


 と腕を引かれて、ラディから離された。


 え?


 腕を見ると、リュートが、両手でしっかりと捕まっている。


 え???


 今、引っ張ったのはリュート?


 でも……なんで???


 リュートって…ただのナビゲーター、なんじゃないの?


 聖女……。

 この世界での聖女は、この世界の聖遺物である竜の魂を見つけ出せる乙女のことだ。実は聖女なのでは……!?みたいなあらすじは読んだことがある。

 とはいえ、物語自体はどんなものか知らない。

 でも確かに、プレーヤーが聖女ってのはあるかもしれないな。


 ラディは腕組みをしてこっちの様子をうかがっている。

 リュートは機嫌が悪そうだ。

 もしかしたら、飼い主を守ってくれてる感じなのかな。いや、乙女ゲーでマスコットが妨害するとは思えない。

 うーん?

 考えてもしょうがない、か。


 メイドさんが近寄ってきて、怪我がないかいろいろ見てくれた。

 ついでに、いい匂いの紅茶まで。


 改めて、みんな着席して、話を聞くことになった。


 うわぁ、めちゃくちゃ綺麗な顔が2人も目の前に……。


「びっくりしただろう?私はウルフランス。気軽にウルフランスと呼ぶように」


「俺は、近衛隊長、ラディだ」


「私は、ナコといいます」


 照れないように気をつけながら、話を聞いた。

 必要以上に紅茶が減る……。


 この世界には、ドラゴンが生息する。

 ドラゴンは人間にとっては脅威なんだけど、それを統べる王がいれば守り神になるんだって。

 その王を探す手がかりが、聖女と竜の魂。

 竜の魂とかいう宝石と聖女の祈りがあれば、ドラゴンの王が復活する仕組みだ。


 その竜の魂を探す占い師が、森の外れに住んでいるという。

 お?それはもしかして、攻略対象の1人なんじゃない?


 3人でちょっとそこの森まで行くことになって、王宮の門まで出ると、目の前に2頭の馬が待っていた。

 右の白い馬にはウルフランスが、左の黒い馬にはラディがついている。


「どっちにする?」


 と、2人がこちらを見ているのに気づいた。


 え……っと。


 これは、選択肢ってやつ……?


 悩みながらも王子を選んだ。


 べ、別にこっちが好みというわけではないんだけど……。

 一度乗せてもらったしね。


 と、ウルフランスの前に私。私が抱っこするようにリュートが乗った。

 馬2頭だけで、森へ向かう。


 と、突然、馬が止まる。ブルルルッと馬の鼻息が聞こえた。


「まずいな」


 耳元でウルフランスの囁き声が聞こえた。

 隣のラディは馬の上で膝立ちになっていた。手を剣にあて、今にも飛び出しそうだ。


 静かになった森の中で、馬以外の荒い息遣いが聞こえた。

 目の前に出てきたのは、大きな…………熊。


 く、熊?モンスター?


 え、戦闘ってこんな感じ?これって……痛い?痛くない?


 混乱しているうちに、体がふわっと持ち上がった。この感じは……知ってる。


 ふっと見ると、目の前にウルフランスの顔があった。


 これは……お姫様抱っこ…………!!!!


 ちょっとドギマギしつつも、ウルフランスが熊から離してくれるのに、まかせていた。

 すると、腕の中でリュートが暴れだす。


「ど、どうしたの」


 私の腕を飛び出し、飛んでいく。


 目が……。


 リュートの目はなんだか、強い視線、だった。

 ウルフランスを睨んで……?


 熱い……視線……。


 リュートはやっぱり、意志のあるキャラクターなんだ。ただのナビじゃない。


 熊の元に飛んでいったリュートは、口を開ける。


 ゴアッ……


 とすごい音がして、リュートの口から、大きな炎が出てきた。

 熊が、あっという間に黒こげになる。


「うおわっ」


 剣で熊と戦っていたラディが、飛び退る。


 ウルフランスの腕から下ろされ、一人あっけにとられた。


 え……?


 どういうこと?

 王子でも近衛隊長でもなく、リュートが熊を退治してしまった。


 ウルフランスとラディは、熊の様子を見に行く。


 びっくり……した。


 呆気に取られていると、


「んぐっ……!」


 私の目の前が、真っ暗になった。

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