07 over extended. 愛が始まる

「あ。ほら。朝が来るよ」


「うん」


 雲が晴れて。

 朝の気配が、ゆっくりと空を包んでいく。


「もうすぐ、太陽が昇ってくるね。僕、この時間がいちばん好きだなあ」


「そうなんだ。昼間とか、太陽ばりばり登ってるときのほうが好きなのかと思った」


「あ。言われてみたらそっちのが好きかもしれない。昼のが好きだわ僕」


「あっはははは」


「えへへ。いいじゃん。好きなものがたくさんあるのはいいことだと思います」


「浮気したら殺すから」


「君は僕を殺したりしない。きっと、隅っこに縮こまって、泣くだけでしょ」


「ん。まあ。そう、かも、しれない、けど」


「だから浮気しない。君が隅っこに縮こまっているときに、いつも一緒にいたいから。浮気なんかしてたら、君が隅っこにいるのを見れないじゃん」


「じゃあ、わたしが浮気したら?」


「君、そんなナイーブでセンシティブな精神構造なのに浮気とかできるの?」


「できない。絶対無理。というかあなたに拾ってもらえただけで奇跡」


「だよねえ。だからぜんぜん心配してない」


 左手にはめた指輪が、朝の光を反射して。

 窓を、流れ星が走る。


「ねえ」


「うん?」


「好きって言って」


「えっやだはずかしい」


「なんでよ。言ってよ」


「ええ。うう」


「僕が太陽だとか、君は僕を殺したりしないとか、さんざんはずかしいこと言っておいて、好きって単語は言えないの?」


「ええ。だってさ。はずかしいよ」


「好きよ。大好き」


「なんで簡単に言えるんだよ。おかしいよお」


「妄想してるから。いつも」


「憂鬱な妄想ばかりなのに?」


「憂鬱な妄想のためには、まず何かを好きにならないといけないの。そしてそれを否定して、アンニュイタイムがはじまるのよ」


「そうなんだ。最初からお先真っ暗だああみたいな感じなのかと思ってた」


「わたしは言ったわよ。好き。あなたのことが好き」


「ぼくもすきです」


「声が小さいわね」


「僕も好きですっ」


「ふへへ」


「なにその笑い声おもしろいんだけど」


「ふへへへへ」


 朝が来て。

 愛が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

曇り空。午前四時、強めの風と流れ星の指輪 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ