第6話・始まりの始まり

…今ごろあっちでは大騒ぎだろうなあ


 と、真菜子は思いながら異界の道を歩いていた。

 とりあえず神社があるであろう、鳥居を目指している。


 少女の霊は鎮まったがさっぱり元の世界への帰り方が分からないので、どうすればいいか考えあぐねていると、人手猫が鳥居を指差して人語を話した。


「社守りさまんとこあべ」


「ヤシロマモリ?」


 相変わらずちょっと何言ってるか分からなかったが、他にいい案も無かったのでそれに従った。


 …この猫、ずっとただ見てた…


 と、内心少し不満もあったのだが、いまいち猫の言葉が分かりにくいこともあり追求は止めた。


 人手猫は器用に人の手をパタパタと動かしながら真菜子の横を付いてくる。


 そして反対には少女の霊が同じく真菜子に付いてきていた。


 今気づいたが、少女の霊の胸元には名札が付いていた。

 最近は防犯対策とかで、真菜子の学校の生徒たちは名札を外では付けていない。真菜子の名札もランドセルにしまってあった。


 やはりこの少女の霊は大分昔に生きていたのだろう。


 3年1組 小澤百合子


 それが彼女の名前だった。

 ふと視線を感じ、百合子という名の霊を見ると、目が合った。

 百合子には生身の人間と変わらない瞳が戻っていた。

 切れ長の潤みを帯びた美しい瞳だった。


 …綺麗


 真菜子は素直にそう感じた。


 百合子はニッと小さな唇だけ動かして真菜子に笑みを向けた。

 真菜子も微笑み返した。


 …子がつく名前も悪くないなあ


 真菜子は素直にそう感じた。


 少女と少女の霊、一匹の変わった猫は赤く染まった道をテクテクと歩いていった。


 その時はまだ、ランドセルの中にある真菜子の名札の字が変わっていることに、まだ本人すら気づいていなかった。


 彼女の本当の名前は



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異界迷路 レムリア_mana @chibagon

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