降り止まぬ雪に包まれて

ミヤケヒデヒト

第1話 序章

雪…雪が降っている。

吸い込まれるくらいに真っ黒な空から…舞い落ちてくる。

風もなくて、ひらりひらりと揺れながらも真っ直ぐ落ちてくる雪にそっと手を伸ばす。

手に触れた途端に、溶け散ってしまう雪。

そんな当たり前の事すらも、何かを示しているような気がしてしまう。

町の灯りも大方消えていて、道路に屋根に雪のうっすらと積もっていく。

気が付けば…羽織っていたカーディガンにも細やかな雪が付き始めていた。

指先も冷たくなってきて…体も冷えてしまった気がする。

それでも…直ぐに部屋に戻りたいような気分でもなかった。


兄さんにとって、私は確かに妹でしかなくて…きっと私の気持ちには気付くこともない。

そんなことはずっと昔から覚悟していた筈だけど、つい願ってしまう。

もし…二人出会えたのが運命だったなら、兄妹という関係でなければ良かったのに…と。

兄妹でなければ…兄さんにやっとのことで想いを伝えても、冗談って思われることもなくって…きっと結ばれることもできるはずなのに。

そんな願望ばかりが胸から溢れ出てくる。


叶わない恋なのに…捨て去れれば、消え去ればこんなに辛くもないのに…想いは消えるどころか、私の心の中に降り積もるばかりで。

手をかざしても…溶けることはなくって、日が経っても春は来なくって…それでいて降り止まない不思議な雪のようだった。


分かってる。

叶わないなんて、ずっと昔から分かっていた。

それなのに…どうして好きになってしまったんだろう。

何がきっかけだったりもしない…いつも側にいる兄さんの何気ない何かに…いつの間にか惹かれている自分が居た。


兄さんに…好きな人が出来たことは知っていた。

兄妹だから、隠していてもわかってしまう。

あの人を見つめる兄さんの眼差しは…どこか違うものだった。

だから…覚悟はしていたつもりなのに。

でも…こんなに早く、兄さんの想いの叶うなんて…思ってもいなかった。

兄さんに想いが伝わらなくても、自分が一番隣に居られるなら…それで良かったのに。

どうして運命は私からそんな小さな満足さえも奪い去ってしまうんだろう。

兄さんが誰かと結ばれることなんて…見ていられないのに。

兄さんのあの笑顔を、嬉しそうに告白の成果を教えてくれたあの幸せそうな笑顔を…尚愛しく感じてしまう自分もまた居た。

諦めきれなくて、それでも兄さんの幸せを奪い去りたくなんてなくて…


自分の心すらも…もう分からなかった。


躊躇う素振りすらなく…淡々と雪は降り積もりゆく雪。

もう肩に降り積もった雪すらも払い落とす気力はなかった。

このまま、ずっとここに居れば…やがては雪が全てを覆い尽くしてくれやしないだろうか。

これ以上、兄さんが離れて行ってしまわないうちに…私の心も体をも、兄さんをも、この町ごと覆い尽くしてくれやしないだろうか。

まだ兄さんが近くにいるうちに、この時も、僅かに残っている小さな満足をも、氷の中に閉じ込めて…永遠なものにしてほしかった。

何もかもが変わりきってしまう前に…


このまま雪のずっと降り続きますように、とそう真っ暗な空に向けて祈る。

少しだけ…雪の勢いが増したように思えた。

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