それいけ魔王軍勇者対策部設備課所属ヒューマンドロイド亜種!

本田紬

第1話 魔王軍勇者対策部設備課所属ヒューマンドロイド亜種誕生!

「魔王様、今週の認可をお願いします。勇者対策部設備課が野良モンスターの所属を申請しておりますが」

「ああ、分かった。ハンコ押せばいいんだろう?」

「きちんと目を通してください」

「そんな事言ったって、こんな紙切れ一枚で詳細が分かるわけでもないし、そんな末端の課の新規人員のことまでいちいち構っていられないほどに仕事多いんだもん」

「それでも、認可は魔王様にしかできない仕事でございます」

「だからハンコ押しとくって……はいっ」

「ああ、もう。では簡単に読み上げますね。勇者対策部設備課が先週の遠征先で野良モンスターに遭遇し、人間の冒険者撃退の協力を得たそうで、そのモンスターの所属認可を求めています。申請者は人面樹課長。種類は……ヒューマンドロイド亜種? ちょっと、私は知らないモンスターですが言葉が話せるので魔族でしょうね」

「……」

「さあ、次の仕事はこちらです。前回、人間の勇者候補パーティーナンバー17が精霊の泉を探索中に取りそこなった宝箱の件ですが……」


(……そんなモンスター、いたっけ?)




 ***




「これはあのガーゴイルのクソ野郎の陰謀に決まってる!」


 人面樹は遅い足取りをなんとかしようと根をくねくねと動き回らせて洞窟の中へと入っていく。そもそも植物系モンスターの多くが移動を苦手とするのに、勇者対策部設備課の人員を出張させる時点で嫌がらせでしかないとほとんどのモンスターが思っていた。


「自分だって所定の位置から動こうとしねえくせに、なんでうちの課なんだ!」

「「キュー! キュー!」」


 人面樹の後ろを歩いていた六匹のマンドラゴラたちがそうだそうだと人面樹の文句に同意する。ちょっと声が大きかったのか、人面樹がふらっとするがマンドラゴラたちは気にせずにキューキューわめき続けていた。


「まあ、この前の勇者候補パーティーナンバー4の攻略でダンジョン部のほうでもかなりの損害が出ちゃったと言いますし」

「甘いぞ、アルラウネ! あれは中ボスにアイスゴーレムなんかを派遣したから当然だ! この近くの町でアイスシールドが割安で売られているのは調べれば分かる事ではないか! 中ボス委員会は何をやっとるんだ!」


 前衛がアイスシールドを盾に立ちはだかると、アイスゴーレムの攻撃はほぼ何も効かなくなる。魔王城や魔王軍所属のダンジョンではこの致命的な弱点を補うために他のモンスターとともに戦わせたり、氷属性の防具を装備していると威力が倍増する罠を使ったりすることが多いのであるが、ここは派遣先のダンジョンだった。


「全く、またデビルプリーストの仕事を無駄に増やしおって、最近はあいつ自身の体調が良くないというのに」

「そういえば人面樹課長はモンスター蘇生課のデビルプリースト様とは同期でしたね」

「うむ、家族ぐるみの付き合いをするほどだしな。あいつの結婚式の友人代表スピーチはわしがした」


 友人の話題に移って人面樹の機嫌が良くなったのをアルラウネは喜ぶ。機嫌が悪くなったからといって嫌がらせなどをするような上司ではないが、それでも人がイライラしているのを見ると悲しくなるのがアルラウネという女性だった。


 そのアルラウネは下半身が植物の魔族である。基本的にアルラウネのように言葉を話すことができるモンスターを魔族、マンドラゴラのように言葉を話す事ができないモンスターを魔物と呼ぶように魔王軍では統一されていた。

 俗説ではマンドラゴラが進化したモンスターだとかいう話もあったが、実際に進化したモンスターというのはほとんどおらず、特に進化前がマンドラゴラのように自我の薄い魔物であった場合に記憶はほとんど残らない。進化の条件も判明されていないために魔王軍の研究部門では日夜試行錯誤が繰り返されているとか。


「まあ、さっさと罠を設置して魔王城に帰ろう。ここは寒くて根腐れしてしまうわい」

「そうですね」


 彼ら勇者対策部設備課の一員は、普段は魔王城の第一区画の整備を仕事としている。見た目からは分からないが、魔王城はの一階の至るところに植物系の罠が設置してあり、侵入者撃退率100%を誇っていた。そんな彼らがこのダンジョンに派遣された理由は先ほど人面樹が言った勇者候補パーティーナンバー4があっという間に中ボスを撃破してしまったからである。少なくとも数か月はこのダンジョンは攻略されないようにしておかなければ、勇者候補パーティーナンバーたちが他のダンジョンへと偏ってしまう現象が起こるというのは火を見るより明らかだった。


「幸い、中ボスの部屋以外はまだ手を付けられていない。あそこにあった宝は惜しいが、実は他の場所が中ボスの部屋でアイスゴーレムなんていなかったことにしようというのが中ボス委員会の決定だ」

「なんて、適当な仕事をなさるんでしょうかね」

「その通り。だが、わしらも罠設置のプロ。次に派遣されている中ボスであるぬえのためにも彼の強みをもっとも発揮できる職場環境を提供してやらねばならん」

「課長のそういうところ、尊敬できます」

「であろう? そうであろう?」


 基本的にアルラウネにそういうつもりはないが、彼女と接点をもった男性モンスターは一瞬で虜にされる。その確率は淫夢系魔族であるサキュバスよりも上なのではないかともっぱらの評判であったが、サキュバスのそれは仕事で対象は人間、アルラウネのそれは天然だった。


「鵺は雷獣であるからのう。雷属性がもっとも効果的な罠を設置しようぞ」

「植物系モンスターは使いますか?」

「わしらのもっとも得意とする所じゃがのう、ここは洞窟の中じゃ。ヒカリゴケが育つまでに時間もかかるし、勇者候補パーティーどもがいつくるか分からんからミズ苔系統のものだけにしとこうぞ」


 こうして人面樹はマンドラゴラたちの手をかりながらせっせと罠を設置していく。人面樹自体が手の数というか足の数というか根の本数が多いので作業は早い。アルラウネはマンドラゴラたちの管理を主体にやっており、彼女が命令を下すとマンドラゴラたちも嬉しそうに作業をするのだった。

 小一時間もしないうちに罠の設置は完了する。もともとの中ボス部屋に比べると狭い部屋ではあったが、ここに来るまでの道中が凶悪な罠であふれており、さらには罠と中ボスである鵺が同時に接触すると威力が相乗効果によって倍増するように仕組まれていた。


「さすが課長」

「であろう? そうであろう?」


 自作の罠を自画自賛しつつ、帰り支度をする勇者対策部設備課一同。裏口から出たところで信じられない光景を目にする。


「あぁ! 帰りのガルーダたちが!」


 それは魔王城へ帰るために用意してもらった魔物であるガルーダたちが空高く飛びあがっていく光景と、その下でこちらを見つめてくる勇者候補パーティーと思われる冒険者たちの姿だった。




 ***




「これは秘技『魔人剣』、一子相伝で伝わる我が流派の技にして免許皆伝の証である」


 ついに、免許皆伝か。レオナルドは深く息をついた。

 長かったような、短かったような。自分では分からない。周りからすると驚異的な速度で師匠の技を吸収し続けたレオナルドはかなり異端に見えたに違いなかった。

 厳選されたはずの兄弟弟子はほとんど残っていない。その多くは師匠が見切りをつけて自分の流派の技ではなく基本となる型のみを伝授しつづけたのである。


 その中から、絞りに絞られた数名が互いに殺し合う死合が、今終わったところだった。


 結果はレオナルドの圧勝。七名いた兄弟弟子の全てがレオナルドに向かってきたが、すべて叩き伏せた。


「やはり、残ったのはお前か」


 真剣を抜き、師匠は言った。二人きりの道場に、魔素が充満した剣技がきらめく。


「これを見た人間は、必ず殺せ」


 あ、これ知ってるわ。レオナルドはため息をつく。あの師匠が持っている魔剣と思われる剣から放たれる斬撃には魔素が宿っている。いつぞやこっそりと練習中の師匠を覗いたことがあり、まだチャージの切れてなかった魔剣を盗んで山奥で試してみたことがあった。もちろん、普通にできた。

 そして、そのあとにうちの道場がダンジョンではないかという噂がひろまり、なぜか勇者候補パーティーが道場破りに訪れるというのが続いたことがあった。おそらくは魔素が残っているのを感知されたのだろう。もちろん全部叩きのめした。


「分かるな、誰であろうと必ずだ」


 魔剣をこちらへと投げる。それを受け取ると、師匠はもう一振りの魔剣を取り出した。


「それには、わしも含まれる」


 師匠が構える。こうやって代々受け継がれてきたのがこの流派だった。ただ一人にのみ、魔剣は受け継がれる。そしてそれを二刀流として人間にあだなした当主もいたとか。常に弟子によって打ち破られることによって、この流派は最強を保持しつづけ……。


「ていっ」

「ぬわぁぁぁぁ!」


 レオナルドが振った魔剣は師匠を吹き飛ばした。出力を押さえたために死にはしない。そもそも死合をしていたはずの兄弟弟子たちは全て峰打ちで生きている。


「す、すでに身に着けたか! さあ、殺せ!」

「やだよ。意味ないし」

「ならん! この魔剣を見た者は全て殺さねばならんのだ!」

「最近、師匠がよく通っている酒場のヒルダさんだけど、ご主人なくなってから元気なかったのに師匠がくると明るくなるって店主の奥さんが言ってたよ」

「な、なにっ!」

「独り身の道場主とくっついてくれるならば将来も安泰で、酒場の御主人たちも安心できるのにって話題になってたけど、知ってる? その時ヒルダさんもまんざらでもない顔して……」

「よし! この悪しき習慣はわしの代で廃止することとしよう。そしてわしは魔剣とはおさらばしてこの道場のあるじとして門下生を増やしてだな! そうか、ヒルダさんがわしのことを……」


 でまかせで師匠を殺すのを止めさせたレオナルドだったが、実際に師匠がヒルダさんと付き合うことになるのは後日の話。



「そして、追い出された、と」


 魔剣を二本背に背負い、レオナルドは途方にくれていた。今まではある程度強くなるという目標があったために迷うことなどなかったのであるが、これからは何をして生きていけばよいのか分からない。そもそも数か月で免許皆伝どころか流派壊滅させてしまうレオナルドは規格外である。


「とりあえずは、生きていくために稼がないといけないなぁ」


 そうつぶやいたレオナルドは見知った顔を見つけて冒険者ギルドへと入っていく。それはいつぞやに道場破りに訪れてレオナルドに瞬殺された勇者候補パーティーの戦士だったのであるが、一応はこの町で最も強いと言われている男だった。




 ***




「マンドラゴラたちは地面に埋まれ! アルラウネはわしの上に登るんじゃ!」


 幸い、冒険者たちはまだこちらがモンスターの集団なのかどうかに気付いていないようだった。裏口とはいえダンジョンが近いこの場所で冒険者たちに出くわす危険手当はもらっていたが、護衛を務めるはずのガルーダたちがすでに現場にいないためにやり過ごすしかない。もし、アイスゴーレムを倒した勇者候補パーティーナンバー4であったら、勇者対策部設備課の面々では太刀打ちできないはずだった。


「そんな、それじゃ課長が!」

「いいんじゃ、若い頃は社内自己再生コンテストで惜しくもヴァンパイアロードに負けはしたが準優勝じゃったんじゃぞ、わし。もう少ししたらぬえが到着するじゃろう。それまでの辛抱じゃ」


 それ以前に人面樹が全く動かなければ普通の木と見分けがつかないことが多い。アルラウネを幹の中に隠して、マンドラゴラたちは地面に生えている草木を装ってここを乗り切るしかなかった。

 するすると人面樹の根がアルラウネを捕え、自分の葉の中へと移動させる。この動きを遠目で見られていたら冒険者たちがこちらに来るかもしれなかったが、アルラウネの上半身は人間であり、隠し通せるようなものではなかった。


(どうか、気づきませんように!)


「おい、ガルーダは逃げてったが、あっちで何か動かなかったか?」


 一戦もせずに空に飛び立ったガルーダ達を見つめていた冒険者たちだったが、その中の一人が人面樹たちの方を指差した。 


「あ、あの葉はマンドラゴラですね。ということはあのあたりに植物系のモンスターが擬態している可能性がありますな。ちょうど素材が欲しかったんですよ」


 神官と思われる冒険者はそう言った。他には人面樹などがいるかもしれないから気を付けるようにと注意している。


(ば、ばれてる!)

「仕方がないアルラウネ!」

「は、はいっ!」

「マンドラゴラたちを連れてダンジョンの裏口に入るのじゃ。表から逃げるしかない!」

「か、課長は!?」

「儂は入り口を塞ぐ! 行け!」

「か、課長!!」


 アルラウネを放り出して人面樹はダンジョンの裏口を開けるとアルラウネとマンドラゴラたちを押し込んだ。もう一度入り口を閉めると、そこに覆いかぶさるようにして立ちはだかる。


「課長!」

「行け! アルラウネ、マンドラゴラたち! すぐに鵺がやってくる!」

「嫌です! 課長を置いてなんて行けません!」

「行ってくれ! わしはお前たちを自分の子供の様に思っていたんじゃ! お前らに死なれるわけにはいかん!」

「人面樹課長!」


 アルラウネの下半身の蔓をマンドラゴラたちがひっぱっていた。彼らも彼らなりに人面樹の覚悟が伝わったのだろうか。


「分かりました。 でも、絶対に死なないでください! すぐに助けを呼んできます!」

「ああ、任せたぞ」


 アルラウネは踵を返すと走り出した。マンドラゴラたちがそれに続く。




 ***




「くそ、これがダンジョンか。剣が使えても役にたたないとは厄介だなぁ」


 レオナルドは冒険者になることを勧められた。だが、いまさら薬草採取などしてられるかということで、フリークエストという依頼は出されていないがその辺りで適当なモンスターを狩ってくればそれなりの値段で引き取ってやるという制度を利用しようと思いつく。依頼がでていないのだから、誰も困っていないために値段は通常の依頼よりもかなり少なくなるが、評価はすぐにあがる仕組みだった。

 それで最近発見されたダンジョンとやらに来ているのだが、罠が多くてなかなか進めない。

 どんな達人でも落盤で頭の上に岩が落ちてきたら助からないからとフルフェイスの兜を買わされた。その視界の悪さも相まって、居心地はすこぶる悪い。


「やはり、一人でくるのは問題だったかな」


 そうため息をついていた。しかし、たいまつの先で何かが動く。ついにモンスターが出たかと思い剣を抜いた。若干残っていた魔素が魔剣から漏れ出す。しかし、そこにある光景はレオナルドが予想もしていなかったものだった。


「た、助けて」


 衝撃だった。


 レオナルドの目には沼から生えた植物の罠に絡まれて動けなくなっている美女が映ったのである。とっさに剣をしまってかけよる。その際にさらに魔素が周囲に漏れた。


「あ、あなたは……いえ、それよりも助けてください」

「お嬢さん、いますぐ助けましょう!」


 自分が生きてきた意味をレオナルドは悟った。この美女を助けるためにこの世に生を受けたに違いない。自分のことをまっすぐ見つめてくる美女はいまにも沼に罠ごと引き込まれそうになっていたが、レオナルドはその美女の瞳に吸い込まれそうだなどと馬鹿なことを考えていた。


「まさか、自分たちで設置した罠にひっかかるなんて……」

「え? 自分たちで?」

「貴方、ものすごい魔素をお持ちですね。もしかしたらぬえ様よりも強いかも。助けてください! 私の上司がこの先で殺されかかっているのです!」

「分かりました、これでも剣の扱いには自信があります。すぐに貴方の上司をお助けして……」


 レオナルドはその美女の手をぐいっと引き、沼と罠から外そうとした。思ったよりも彼女はしっかり罠に食い込んでいたようだったが、レオナルドの力によって沼から引きづり出される。そして、なぜか、彼女の下半身の植物系の罠と思われる物体と、周囲に数匹のマンドラゴラも一緒に陸に引き上げられた。ちなみに彼女の太ももから下だと思われる場所には、植物の蔓以外のものはない。


「え?」

「ありがとうございます! 私は魔王軍勇者対策部設備課所属アルラウネ、この子たちはマンドラゴラです。課長の人面樹がこの先の裏口で冒険者たちに襲われて! 急いでください! 早く!」


 呆然とするレオナルドの手を引き、アルラウネたちは来た道を走り出した。次は罠にかからないように慎重にである。


「ちょ……待っ……」


 必死に走る横顔がとても素敵だった。……ではなくて、レオナルドは自分が人間であるという事を話すタイミングを失ってしまっている。



 裏口にはすぐについた。扉と思われる場所から、魔法の攻撃のような音が聞こえてくる。


「課長! 助けを呼んできました! 鵺様よりも魔素が強いお方です!」

「なんと! もうちょっとで死ぬとこじゃった!」


 人面樹は扉を開ける。すると中にはフルフェイスのマスクと皮の鎧を着た人型の魔族がいた。たしかに、魔素はそれなりだが、鵺ほどではないと人面樹は思う。この冒険者たちに対抗できるか……。


「よろしくお願いします!」


 アルラウネはレオナルドの手を握るとそう言った。真正面からお願いをされて、レオナルドの顔は真っ赤になってしまっている。


「もう限界じゃ! わしは一旦入るぞ!」


 背中が焼けただれた人面樹が裏口から入ってきた。それに続いて冒険者たちがなだれ込んでくる。


「新しいモンスターだな! よく知らんが、一緒にやっちまおう!」


 魔法使いが火炎の魔法を放った。それを魔剣で一閃し、かき消す。


「待て、俺は……」

「くそっ! これならどうだ!」

「こっちもいるぜ!」


 次々に魔法や弓矢が飛んでくるのをレオナルドは避け続けた。その間は人面樹とアルラウネ、そしてマンドラゴラたちは新たな中ボス部屋まで退避している。


「死ねぇ!」

「そっちが斬りかかってきたんだ。恨むなよ」


 まだ何も言っていないのに死ねだとかいわれて、もともと気が長いほうではなかったレオナルドは魔剣を一閃させた。瞬間、冒険者のうち戦士と狩人の二人の首が飛ぶ。


「ひっ!」

「見た人間は殺せと言われているんでね」


 モンスターは別に殺さなくていいのかな、などとレオナルドは思いながら神官と魔法使いの首も同様にしてはねた。終わると、やってしまった感が強い。


「ありがとうございました!」


 アルラウネが飛びついてきた。薄着の彼女が抱き着くと、いろいろと感触がある。レオナルドは鎧を着ていた事を後悔した。


「助かりましたじゃ。監督官どのですかな?」

「監督官?」

「いえ、ですがダークナイトでもなさそうですな。どちらかというとヒューマンドロイドのような……」


 すでに焼けた部分が再生を始めている人面樹がそう言った。アルラウネと対峙している時は全てを忘れてしまいそうになるが、冷静になるととんでもない事をしでかしてしまったようである。ばれないようにこのモンスターたちも退治するかと思い、しかしまたアルラウネを見るとそんな事はどうでもよくなる。完全に魅了されていた。


「所属はどちらでしょうか?」

「しょ、所属なんてものはないけど……」


 あの流派はやめてしまったし、強いて言うならば冒険者ギルドかとレオナルドは思うが、人面樹は何も聞いていなかった。


「まさか野良モンスターでしたか! こんな才能あふれる方がこのようなところで魔王軍にも所属せずにおられたとは!」

「いや、あの……」

「でしたらっ!」


 ぎゅっとレオナルドの腕に抱き着いたものがいる。もちろんアルラウネである。


「うちに入りませんか!?」

「えっ?」

「おお、それはいい。これからあのガーゴイルの野郎のせいで出張も増えるだろうしの! これだけ優秀な護衛がいればわしらも安心じゃ。もちろん給与も危険手当も優遇しますぞ」

「いや、俺は……」


 レオナルドの頭はパンク寸前だった。魔剣を譲り受けたことでモンスターと間違われてしまい、このままでは魔王軍に所属することになってしまう。人類として、それはどうなんだとレオナルドの理性が押しとどめようと奮闘していた。


 アルラウネはレオナルドを見上げて、こう言った。



「だめですか?」

「いえ、よろしくお願いします」



 もう、どうでもいいや。レオナルドはそう思ったとか。

 ここに魔王軍勇者対策部設備課所属ヒューマンドロイド亜種が誕生した。

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