ウホッ! 〜追放された【宮廷守護神ゴリラ】実は史上最強魔王の生まれ変わりだった。国が崩壊寸前だから戻ってこいと言われても、今の動物園が気に入ったのでもう遅い!〜
第9話 戻ってこいと言われても、もう遅い!
第9話 戻ってこいと言われても、もう遅い!
その後、俺はまた動物園とやらに戻ることになった。まあ環境は最高だから、別にここに長居することは嫌じゃないし、何よりビッグバナナが沢山届いたんだよ。こりゃ堪んねえ。
「すごーい! レックスって食いしん坊だよねっ」
セシアはどうやら全快したらしく、今日も元気に俺に挨拶にやってきた。実家に帰るんじゃなかったのかよ。
すぐ後ろについてきてるのは元部下のエクレーヌだ。なんか以前より物静かになった気がするが。
「ええ。いささか旺盛過ぎるような気もしますが、元気で何よりです。魔王様も、お元気になられて、私は」
おいおい、泣き出したぞ。しかもセシアの奴がエクレーヌの頭をポンポンしてやがる。らしくねえことしてんなー。
「全部エクレーヌのおかげだよ。でも、私ってば本当に魔王なのかなぁ」
「セシア様は間違いなく魔王です! 僕が保証します」
「あはは、そんな保証されちゃってもねえ。あれ?」
俺はずっと奴らが喋ってるのをバナナ食いながら観察してたんだが、思いがけない来訪者がやってきたから、ちょっぴり楽しい予感がした。
「こ、コホン。久しぶりだな、セシアよ」
「え!? え!? あ、アリスト様ですか!?」
アリストと妃で間違いない。護衛の兵士もたった数人程度しかいねえ。国王がこんな動物園に来訪するなんて、どうなってやがんだ?
「うむ。今日は話があってやってきたのだ。長話をするつもりはない、すぐに本題に入ろう。実はな。お前とお前が連れ出していた守護神の活躍たるや、素晴らしきものであった。私はとても感動している。褒めてつかわすぞ」
「はい……ありがとう、ございますぅ」
間の抜けたような返事のセシアと、まるで仇を目の当たりにしているようなエクレーヌ。空気感の違いが凄え。
「そこでだ。お前達に名誉を分け与えたいと考えている。これ以上ない褒美だ」
「あなた達を、再び宮廷に招こうと思案していたところなのですわ」
アリストと妃が言葉を紡ぐほど、エクレーヌの眉が釣り上がってきやがる。無言の圧力がパネエわ。
「私達を?」
「そうだ。お前とそこにいる立派な守護神ゴリラを、もう一度雇ってやろう。こんな辺境の土地に住んでいても面白くもなんともなかろう。私のところに戻ってこい。褒美ならたんまりと用意しておるぞ」
セシアは石のように固まっていた。こいつら、さては国がガタガタになっちまって、俺をもう一度宮廷に戻したいらしい。
まあ、助けが欲しいって事態にはなることは想定済みだったが。国全体が酷い損害を受けちまったし、あの混乱で移民した連中もいるだろうし、崩壊の危機に陥ってやっと解ったんだろう。
強固な結界を維持できる存在が必要で、その存在を引っ張ってこれる女騎士も必要だと。
それでボインボインはどう返答するつもりだと、顔はそっぽを向きつつも話を耳を澄ませていると、
「確かに、宮廷での生活は私にとっても、この子にとっても悪いものではないですよね」
「魔王様……」
と同意と取れる言葉を紡いだ。同時に悲しそうな顔になるエクレーヌ……ってか王の前で魔王とか呼んだらやべえだろ。
「当たり前だ! 国王直属の騎士と、宮廷守護神だぞ! 待遇など考えるまでもない」
「ですが、お断りします」
「ウホッ!?」
やべ! 意外な返答をやんわりと放ちやがったから、つい驚いて声出しちまったわ。
「今なんと申した?」
「はい。お断りしますと申しました。私、ずっとこの子を見守っていたから知っているんです。宮廷にいる時よりも、動物園にいる時のほうがずっと幸せそうな顔をしているんです。多分、宮廷では友達がいなかったのでしょう。でもここには、レックスの友達が沢山います。だから、もうあの霊園には戻すつもりはありません」
うーん。俺は別にそこまで変わったことはないんだがな。ただ、確かにあっちの霊園にいる時よりはマシかな。
「馬鹿な! 貴様は何を抜かしておるのだ! これは命令だ! さっさとこのゴリラを宮廷に引き戻すのだ。さもないと」
「さもないと……どうされるおつもりなのでしょう」
ここで俺の元部下褐色エルフが話に割って入る。無礼だとは百も承知のこのタイミングでだ。既にアリストの顔は真っ赤になってんぞ。
「なんだお前は? 私とセシアの話し合いに割り込むなど、無礼の極みぞ!」
「私はセシア様の部下です。セシア様がお断りした以上、この勧誘たるや既に失敗しているはず。先程の発言、まるで脅しとも取れるような内容でした。そして彼女は今やアーバン国の騎士でもあります」
セシアの奴、今度はアーバン国の騎士になってたんか。みるみるアリストの顔が青くなってきた。忙しない奴よのう。妃もあわあわしてる。俺はウンコしながら話の顛末を見届ける所存だ。
「く! それがどうしたというのだ」
「彼女に何かしら手を出すおつもりなら、それは国同士の衝突になりますが、宜しいのですか? 今のあなた達を、まだ国と呼べるかは疑問ですが」
え? もしかして崩壊しちゃった感じか。よく知らなかったが、エクレーヌの奴は情報収集は得意な奴だった。
「た、頼む……戻ってきてくれ。セシアよ」
やべえ。今度は懇願してやがる。だが、ボインボインは首を横に振る。
「すみません。お帰りください」
どうやらアリストは激昂する気力も残っていなかったらしい。ガックリと肩を落として帰っていくしかなかったようだ。ルフ国が崩壊したことを知ったのは、それから一ヶ月もしないくらいだった。
◇
「レックスー。おはよ!」
しばらくして、またボイン騎士が顔を見せに来た。
あれからずっと、俺は悠々自適のゴリライフを満喫している。食って寝るだけの生活って最高だぜ。
「今日はレックスに超ビッグニュースがあるんだよ。なんだか知りたい?」
俺は四足歩行状態で明後日の方向を眺めてる……と見せかけて柵を叩いた!
「ひゃあ!? もう、慌てないでよー」
慌ててねえよ。ちょっとからかったのだ。
「魔王様。今日もレックスは元気ですね」
またエクレーヌも来ていやがる。こいつら本当に仲が良いやな。
しかし今日は、どうにも様子がおかしい。もっと言えば俺の部下のほうが変な気がした。今回エクレーヌはハカマじゃなくてキモノって奴を着ているようだが、いやに表情が艶っぽいというか、なんというか。
ん? ちょっと待てよ。エクレーヌの奴、セシアと手なんか繋いでるじゃねえか。俺は草を食べている手も止まり、奴らの動向に注目してしまう。
指をしっかりと絡ませたこの手の繋ぎ方は……間違いない! 恋人繋ぎって奴だぞ!
おいおいおい。お前ら俺が見ていないところで、何をしてやがったんだ?
「もう……やめてよ。レックスが見てる」
「良いではありませんか。いっそ彼に私達の秘事を見せてしまっても、」
見たい! 今すぐ始めろ! 相手をガン見するのはゴリラ界でのマナー違反だが、そうも言ってられん。
「ダメだよー。っていうか、何言ってるの! まるで恋人みたいじゃない」
「……嫌ですか?」
うーむ、まだできているわけじゃねえのか。しかしエクレーヌの奴、何うっとりした顔してんだよまったく。あいつにそっちの毛があるとは知らなかった。
しかしセシアも満更じゃない感じだし……マジ?
「ちょ、ちょっとぉ! 朝から変なことばかり言わないで。あ! そうだレックス。今日は君にとっても素晴らしい報告があるの。モブタスさん、お願いしますー」
「あいよー」
ボインボインが飼育員のおっちゃんに手を振って、何かを頼んでいるみたいだ。そうすると、奥の今までは開かなかった檻が開いて、中からどっかで見たことのあるような奴がのそのそ入ってきやがる。
うん、間違いない。ゴリラだ。
俺と同じ種族だろうな、このサイズは。しかも、こっちを見てなんかうっとりした顔になってるから気持ち悪い。メスだわこいつ!
「えへへへ。ようやくレックスと同じ種族のメスを見つけたんだよ。これで薔薇色の生活だね!」
俺に向かって親指を立ててくるセシア。何が薔薇色だよ。頭の中はゴリラじゃねんだから、全然嬉しくないっつーの!
「ウホッ! ウホウホウホ!」
腹立つー! 俺はドラミングをした後に、散らかっていたバナナの皮をボインボイン目掛けて投げまくった。
「わわわ!? ちょ、ちょっとレックスー」
「こ、こらやめないかレックスよ。僕らは君の為を思って、」
何にも分かってねえ! 俺はエクレーヌにもバナナの皮を投げつけ、その後は付近に転がっている葉っぱやら何やらを投げまくって、あとはゴリラゾーンを走り回って暴れ回る。
「ひゃああー! ちょっとレックス、落ち着いて! あ……もしかして。可愛いメスがやってきたから、照れちゃってるの?」
「魔王様、きっとそうに違いありません。シャイな性分なのでしょう」
何を笑ってんだよ。お前らはなんも分かってねえな!
まあ、なんだかんだバタバタしたけど、結果的に快適な生活は手に入れた。
動物園は今日も俺のファンで溢れかえり、結局のところダラダラ暮らせているわけで。
だから納得してやった。
今も俺は動物園のなかで、気ままなゴリライフを満喫している。
ウホッ! 〜追放された【宮廷守護神ゴリラ】実は史上最強魔王の生まれ変わりだった。国が崩壊寸前だから戻ってこいと言われても、今の動物園が気に入ったのでもう遅い!〜 コータ @asadakota
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