第4話 急転
ふわり、赤い何かが光った気がして桐子は目が覚めた。霞がかった意識を覚醒させようと頭を軽く振る。どうやら、寝入ってしまったらしい。起き上がろうと手をつこうとしたところで誰かの手が自分の手首に絡みつくように繋がれていることに気付いた。
(そうだ…無理やり手をつながれてそれで…)
ハッとした。
慌ててあたりを見渡せば、いたずらっぽく微笑む目線が交錯する。
一気に意識が覚醒した。
少年は桐子の顔のすぐそば、距離にして30センチもないような場所から自分の事を眺めていた。
寝顔を観察されていたことに気付いて、桐子はゆでだこのように赤くなる。
「な、な、なっ!!」
「?」
少年はきょとんとした顔で桐子のことを見ている。
「何を!!」
思わず叫んで腕を振りほどく。今度は抵抗なくほどかれた。
「一体何がしたいのよ!」
混乱して叫ぶ桐子をよそに少年はニコリと笑みを浮かべた。
(やっぱり、スキを見て警察を呼んだ方がいいかもしれない)
そう思わずにはいられない。正太を急に泣かしたり、無理やり手を掴んできたり、明らかに良くないカンジがひしひしとしている。
桐子はじりじりと少年と距離を開けようと後ずさりしながら考えを巡らせる。
(電話は廊下にあるけれど、そこまでいくには少年を超えなえればならない…言葉もわからないのに急に動くのは不審に思われないかしら…)
妙案は浮かばない。
それに明日まで家には自分たち二人しかいない。一緒にすんでいる祖父と姉は仕事で外出しているのだ。タイミングはこの上ないほど悪い。
その時。
ピンポーン。
この上ないタイミングで玄関のチャイムが鳴る。
(しめた)
桐子は間髪入れずに「はーい」と返事をし、立ち上がった。少年はチャイムの音に驚いたのか固まったままだ。その様子を横目に桐子は玄関へ向かう。
(やった!)
心の中でガッツポーズをして、桐子は無事に部屋からでた。
誰か知らないが、とても良いタイミングだ。
「今、開けま~す」
声に喜びがにじみ出たが致し方ない。桐子は外の人影を確認し、備え付けのインターフォンも確認せず、玄関のカギをあけようとした。固まっていた少年がハッとして我に返り、慌てて桐子の後を追う。
「待って!!!」
知らない日本語の声がして桐子の肩がびくりと震える。
「え、誰?!」
驚きと共に振り返ろうとしたが、すでに桐子の手は玄関のカギを開けていた。
ガチャリ、と鍵が開く音が響く。玄関の隙間から待っていたように黒い影が大量に入り込んでくる。
(何これ?!)
桐子が驚いて手を離した瞬間、一気に玄関の引き戸が全開まで開いた。黒い靄はあっという間に量を増し、桐子の身を包んだ。
すべてがスローモーションのように動いた。
「駄目だ、待て!!」――また、知らない声。
同時に左手を掴まれる。
頭の処理が追いつく間もなく、桐子は靄の中に吸い込まれ、ぐるぐると回りだしていた。
サイダーサイダー ワンス @xxones
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