26 毒




 生物には、目に見える血之道、所謂血脈と目に見えない気之道、所謂気脈が流れている。

 血脈に罹った病は医師が治し、気脈に溜まった毒はゆいしゃが抜き取る。

 血脈に菌が増殖すれば病に罹るのと同様に、気脈に毒が溜まれば、病に罹る。

 ただし、その病は身体を想像だにできない奇々怪々な姿へと変貌させる。

 例えば、身体が結晶化したり、芽が生えてきたり。



 人間を含む動植物共に毒が溜まり、一定量(植物の保有する毒の一定量は動物よりも多い)を超えれば病に罹るが、毒が必ずしも悪かと言えばそうではない。

 毒は身体に必要なものでもあるので、必要最低限の毒が不足していたら足したり(滅多にない)、逆に一定量を超えても抜き取ることができず毒で相殺するしかない毒もあったりする。



 故に、ゆいしゃとは、溜まった毒を抜き取り、その毒が薬となる生物へと届け、国中を旅し続けるもの。毒を抜き取る、とはいっても、刃の物などの鋭利な物は使わない為、身体を傷つけない。

 ゆいしゃが手をかざせば、抜き取れる。



 おおよその生物に内在しているが許容範囲を超えない毒を未毒と言う。

 おおよその生物には、生物ごとに種類の違いはあれど、十か、十に満たない数が内在している未毒。は、採取はしてはいけない。

 毒しか採取してはいけない。



 毒が一定量を超えた状態が続いた場合、病に罹り奇々怪々な症状に見舞われるのだが、毒を抜く、もしくは過量分を毒で相殺すれば、病は治まるも、万が一、誰にも気づかれることなく病に罹った状態が長く続いた場合に、或る現象が起こる。

 罹患した生物が死ぬばかりか、その生物の居た一定範囲内の土地が腐れて、二度と命が芽吹くことはなくなるのだ。

 あやめ石がなければ。の話。

 あやめ石があれば、死と化した土地は再び蘇ることができる。



 厄介極まりない毒はしかし確かに生物には必要なものでもあるが、もしも毒が体内からすべて消え去ったらどうなるのか。

 毒が不足した時は毒を足せばいいのだが、そんなことは滅多にないのだ。

 毒が消滅する話など、ゆいしゃですら聞いたことがなかった。

 歴代のゆいしゃたちが残した書物にもまったく記載されていないのだ。

 毒の消滅など、誰が考えられようか。







「いやいやしかし果たして。あるんだよねえ。これが」


 苔色のとんがり帽子を目元まで深く被って、鮮やかな水色のローブを身に着けた男性魔法使いは、淡い水色の瞳で捉えては離れた場所に居る玖麦の元へと向かった。











(2022.3.30)


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