第32話
事故が発生したバベルの塔第2層第17工区。
その内部に足を踏み入れた途端、一瞬にして大量の煙と激しく燃え盛る炎に取り囲まれた。
俺はアストラル体なので熱さは感じないが、それでもヒトが耐えられないほどの高温が伝わってきそうだった。
これはムリだ……。
瞬時に俺は思った。
この中でヒトが生きていられるはずがない。
時折、がらんがらんと鉄骨か何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。
一寸先は煙。
この中でどうやってレモンの父親を見つければいいというのだ。
と、その時、名案が浮かんだ。
俺は懐から片眼鏡型のガジェットを取り出すと、目に装着した。
そう、「セムの目」だ。
これを使えば、ヒトのHPが表示される。
それを頼りに生存者を探せばいいんだ!
俺ってひょっとして天才か?
ぽろんというかわいい音を鳴らしてセムの目が起動する。
『OSの最新バージョンが見つかりました。アップデートを開始します』
おいおい、こんな時にカンベンしてくれよ!
システムメッセージに悪態をつきながらバージョンアップを待つ。
進捗バーが100%になると、再起動した。
バーチャルスコープに表示される大量の数字。
「1020」「5001」「692」……。
しかし、その数字はどれも見る見るうちにカウントダウンしていく。
やがてほとんどの数字が「0」となり、「LOST」という赤い文字に変わって消えていった。
くそっ! くそっ! くそっ!
自分の無力感に打ちひしがれる。
でも、落ち込んでいるヒマはない。
今はレモンの父親を探すことに集中するんだ!
自分を励まし、まだ「0」になっていない数字に向かって走り出した。
煙の中に倒れている人を見つける。
近づくとレモンの父親だった。
「ごほっ、ごほっ、ごほっ」
激しい咳をしながら、苦しそうにもがいている。
「だいじょうぶか!?」
声をかけてから気づいた。
俺はなんてマヌケなんだ!
りんこ以外の人間には俺の姿は見えないし、声も聞こえないじゃないか!
レモンの父親のHPはどんどんカウントダウンしていく。
「ああ、くそっ!」
俺は煙と炎の中でヒトには届かない叫びを上げた。
「きみ……は……」
えっ!?
今の声はレモンの父親か!?
「おい、あんた、俺が見えるのか!?」
「ああ……」
「俺は天使のレミエルだ。あんたの娘のレモンの友達に頼まれて助けに来てやったぞ!」
「天使……? そうか……。俺はもう……死ぬんだな?」
「えっ!?」
そういえば、ヒトは死ぬ間際に天使の姿が見えることもあるってラジエルが言ってたな。
嘘だろ。こいつ、もう死んじゃうのかよ……。
頭の中にりんこの悲しむ顔が浮かぶ。
ダメだ! こいつだけは死なせちゃならねえ!
「バカヤロウ! 弱気になってんじゃねぇぞ、オッサン! あんたが死ぬと悲しむ奴がいるんだ! だから、俺はあんたを絶対、死なせねえ!」
「フフッ」
この劫火の中でレモンの父親は笑った。
「君みたいなのが……天使だとはね。私が想像していたのとは……ちょっと違ってたよ」
「ふん。うるせいよ。まあ、そんな口叩けるんなら、まだ生きられるはずだ」
「いや、もうダメだろう。体が動かない。レモンや妻によろしく伝えてくれ……」
セムの目に表示されるHPがすでに10を切っている。
と、その時、背後に気配を感じた。
黒い大きな犬のようなバケモノ。
冥界の下っ端、ネザーだ!
どうやら、事故でたくさんのヒトの命が失われることを嗅ぎつけ、その魂を奪おうと集まってきているらしい。
「うせろ、バケモノ!」
俺は点滴スタンドを取り出し、アストラルモードで起動した。
点滴!
そうだ、こいつを使えば……。
俺は配給係の子にもらった点滴の入った袋を取りつけ、レモンの父親の腕に針を刺した。
「なにを……している……」
「こいつは天界の点滴だ。これで少しは持つだろう。俺は今から邪魔者を排除しに行くからな。死ぬんじゃねえぞ!」
「君は……変な天使だね……」
そう言って、レモンの父親は目を瞑った。
点滴のおかげでHPが回復していく。
これでひとまず大丈夫だろう。
HPが回復すれば自力で脱出できる。
さて、問題はネザーたちだ。
点滴スタンドがない俺に勝てるかどうか……。
ネザーもこっちに気づいたみたいで、集まってくる。
「やるしかねえか!」
俺は拳をぎゅっと握ると、ネザーの群れに向かって突っ込んでいった。
つづく!!
バベルの救世主は最後の願いを天使に言った。 サワキエル @elshaddai
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