第31話
「わたし、やっぱりニムロドさんに会わなきゃ!」
りんこはそう言って、レモンの父親を追って、事故のあった第17工区とやらに向かって走り出した。
「おい、待てよ!」
俺は慌てて追いかける。
「まだどういう状況だかわかんないし、被害が広がるかも知れないんだぞ!」
「レミエルさんがいるから平気だよ!」
「え? そりゃまあ、そうだけど……」
『レミエル、浮かれてる場合ではないぞ』とラジエルの声が聞こえた気がした。
でも、目の前に助けを求めている女の子がいる。
手を差し伸べないって選択肢はないだろ?
俺は頭の中のラジエルを無視してりんこと一緒に第17工区を目指した。
事故現場に向かうに連れて、あたりは煙っぽくなってくる。
と、同時に人々の叫び声やら怒鳴り声が大きくなってきた。
次々と運び出されていく怪我人たち。
あわただしく駆け回る作業員。
現場は混乱を極めている。
りんこはそんな騒ぎの中をかき分けるようにして進んだ。
そして、ついに事故現場の前にやってくる。
「うわあああ……」
俺は立ち上る煙と炎を見ながら思わず声を出した。
りんこも眉を八の字にして、被害の凄まじさに言葉を失う。
「もしニムロドのおっさんがこの中にいたとしたら、まず助からないだろ」
俺は率直な感想を言った。
「……」
りんこも反論せず、口をつぐんだ。
「諦めろ。これが運命ってもんだ」
俺は天使らしい言葉でりんこを慰めた。
「そう……だね……」
肩を落とすりんこ。
あたりには煙が充満し、収まるどころかひどくなる一方だ。
「ごほっ、ごほっ」
りんこは煙を吸ったらしく、咳き込んだ。
「行くぞ」
俺はそう言って、りんこに立ち去るよう促した。
りんこは後ろ髪を引かれる思いで、ちらっと現場のほうを見てから立ち去ろうとした。
と、その時……。
「おいっ、主任はどこだ!?」
作業員の声が聞こえてきた。
「シトラス主任なら、さっきニムロド様をお助けすると言って、中に……」
「なんだって!?」
りんこの足がピタッと止まる。
「シトラス主任って……、レモンのお父さんだよ!」
事故現場に再び戻ろうとするりんこ。
「ばかやろう! お前に何ができるんだよ!」
「だって! だって!」
りんこを押しとどめようとしたが、俺はアストラル体なのですり抜けてしまう。
「俺に任せろ!」
りんこを追いかけながら俺は叫んだ。
「俺は天使だから火も煙も平気だ! 俺に任せてくれ!」
りんこが立ち止まって歯を食いしばる。
りんこの大きな両目からポロポロと涙が零れ落ちた。
「レミエルさん! お願いします!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔でぶんっと頭を下げるりんこ。
顔は炎で火照り、頬は煤で汚れている。
「すぐ戻る。お前は安全な場所で待ってろ」
俺は天使の上着をバサッと翻すと、炎の中に飛び込んでいった。
『レミエル、まったくお前と言うやつは……』
どこかでラジエルの声が聞こえた気がした。
つづく!!
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