第30話
りんこ目がけて飛んでいくネザー。
絶対絶命のピンチ!
「きゃあああ!!」
りんこは悲鳴を上げた。
もうダメだ!
と、その時、りんこの体が消えた!
ちがう! ブランが反射的にりんこの手を引っ張ったのだ!
ガツン!!
りんこに逃げられたネザーは勢いあまってロープウェイの内壁にぶつかった。
その衝撃でロープウェイが大きく揺れる。
ネザーは俺たち天使同様、アストラル体なので物理干渉はできないが、大きなエネルギー圧が発生したようだ。
「きゃあああ」「うわぁぁぁぁ」「ひぇぇぇぇぇ」
レモンたちが手すりにしがみつく。他の乗客たちも手近なものに掴まった。
今だ!
俺はネザーの後ろから点滴スタンドを突き立てた。
ぐあああああああっ
マヌケな声を上げて消滅するネザー。
勝った!
まあ、当然ちゃ当然だけどね。
俺は、ブランに引っ張られた弾みで床に倒れたままのりんこに声をかけた。
「りんこ、だいじょうぶか?」
「う、うん……」
体を起こしながらりんこが答える。
そして、不安で震えているレモンたちに言った。
「もう大丈夫。レミエルさんが怪物を倒してくれたから」
レモンたちがほっと胸を撫で下ろす。
「よかったッ。ありがとうな、レミエルッ」
ブランは俺がいる場所とは全然ちがう方向に向かって言った。
というか、呼び捨てかよ!
「それにしても、さっきのはいったいなんだったんだい?」
ウィリアムが恐怖と好奇心が入り混じった口調でりんこに訊いた。
「私もよくわからない。ネザーと呼ばれていて、普通の人には姿は見えないけど、黒い大きな犬みたいな姿をしていて、襲ってくるの」
りんこの言葉を聞いて、フィリップが言った。
「天使が見えたり、怪物が見えたり、りんこも大変だなあ」
ロープウェイは運転を再開し、数時間後、第3層に到着した。
第3層は工事の真っ最中という感じで、いたるところからガコン、ガコン、ガガガガガガガカといった作業音が聞こえてくる。
まだ天井はできていないようで、本物の青空が見える。
「おいッ、アレ見ろよッ」
ブランが指差した方向を見ると、ニムロドが乗っていた巨大な人型の乗り物が鉄骨を運んでいた。
よく見ると、工事現場のいたるところで熱動機と呼ばれるその乗り物が作業をしていた。
「レモン!」
声がしたので、振り返ると、黄色いヘルメットを被って作業着を着たレモンの父親がこちらに向かってくるのが見えた。
「パパ!」
レモンが父親に駆け寄る。
「これ、忘れていったでしょ。だから届けに来たの」
そう言って、レモンは父親に弁当を渡した。
「そうか。ありがとうな。でも、もう昼ごはんは食堂で食べてしまったんだ」
そりゃそうだよな。
第2層からは6時間くらいかかるんだもの。
「でも、うれしいよ。お友達もいっしょなんだな」
そう言って、レモンの父親はりんこたちのほうを見た。
りんこはツカツカとレモンの父親の前まで歩いていくと、彼に言った。
「わたし、アップル・りんこと言います。おじさん、ニムロドさんに会わせてくれませんか」
おいおい、いきなりだな。
レモンの父親もちょっと驚いている。
そりゃそうだろう。
「ニムロド様に? それはどういう……」
レモンの父親が言いかけた途端、ドカーンという爆発音が第3層に響き渡った。
と、同時に激しい振動が起こる。
りんこたちは悲鳴を上げてうずくまった。
「いったい、なんだ!?」
叫ぶレモンの父親。
そこに作業員がかけつけて、レモンの父親に報告した。
「主任! 第17工区で事故です!!」
「第17工区!? 今、ニムロド様が視察されている場所じゃないか!!」
レモンの父親はりんこたちに言った。
「君たち、すぐに第2層に戻るんだ!」
「パパ……」
「心配するな。ママにはしばらく帰れないかもしれないと伝えてくれ」
レモンの父親はそう言うと、作業員と一緒に走り去っていった。
「おいおいッ、マジかよッ」
ブランが叫ぶ。
「とにかく、ここはレモンのお父さんの言う通り、戻った方がいいんじゃないかい?」
と言うウィリアム。
「そうだよ。また事故が起こったら危ないし」
とフィリップ。
レモンは心配そうに父親の去っていったほうを見つめていたが、ブランたちといっしょにロープウェイ乗り場に向かった。
しかし、りんこは動かない。
「おいッ、なにしてるんだッ。行くぞッ、りんこッ」
ブランが声をかける。
「わたし、やっぱりニムロドさんに会わなきゃ!」
そう言って、りんこはレモンの父親が去っていった方に走り出した!
なにーーーーーー!?
つづく!!
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