アホ魔女 VS 盲目のカード知恵比べ

ちびまるフォイ

魔女の目は節穴か

森に迷った11人の仲間たちはあてもなく歩き続けていた。


「もう限界だ……ここいらで少し休もう……」


しかし一休みをしたのが運の尽き。

なんとそこは森の魔女のすみかだった。


仲間たちは魔女の怒りをかいカードの中に閉じ込められてしまった。

たった1人を残して。


「みんな……おおーーい、みんなどこだーー」


たった1人残された男は仲間がカードにされたこともわからず、森の奥へと声をかけていた。

そこに魔女がやってくる。


「ヒッヒッヒ。私のすみかに土足で踏み入った奴らは全員カードにしてやったよ」


「な……なんてことを!」


「お前も一緒にカードにしてやることもできたが、私はここへ来た人間すべてに同じゲームをしているのさ」


「ゲーム?」


「ここにたくさんのカードの山がある。見えるかい?

 このカードの山にはお前さんの仲間のカードが混ざっている。それを見つけられれば……」


「カードの山だって? どこにあるんだ?」


男は目と鼻の先にあるカードの山にすら気づいていない。


「……お前、もしかして目が見えないのかい?」


「ああそうだ」


「ヒヒヒ。それは面白い。それじゃどのカードが表で、どのカードが裏なのかも見えないというわけだ」


「そ、それがなんだっていうんだ!」


「このカードの山から10枚を引いて、

 その10枚の中に含まれる仲間のカード枚数が

 カードの山に残された他の仲間のカードの枚数と一致すれば全員助けてやろう」


「10枚引いて……仲間の数が一致すればいいんだな……」


「ヒヒヒ。そうだよ。自分の引き運の強さを信じな」


魔女と、カードに閉じ込められた仲間たちは絶望した。

盲目の男には見えないが10枚引く前のカードの山は少なく見ても100枚以上ある。


100枚のカードにランダムに差し込まれた10枚の仲間たち。

それを盲目の状態なうえピンポイントで10枚引くのは至難の技。


「ひとつ、ヒントを教えてやろう。カードの山に差し込まれているお前の仲間たちは全部表。そして、他のカードは裏側にしておいたよ。まあ見えないだろうがね」


盲目の男はカードの山へと手を伸ばし、なんとか指先で裏と表の判別を試みた。

カードの山に紛れる10枚の表の仲間たちを探さなければならない。


触っても触っても、表と裏の違いなんてわからない。


「無駄だよ。無駄。手触りで判別しようたって紙質はぜぇーーんぶ同じ。わかりっこないさ」


「くそっ……」


「さあ、早く10枚引いて手元に置くんだ。

 手元の仲間のカードと、カードの山に残された仲間のカード枚数が一致すればいい。簡単だろう?」


「お前、最初にここへ訪れた人間に同じゲームをしていると言ったよな?」


「ヒヒヒヒ、そうだよ。それがどうしたのかい?」


「一致しなかった人間をどうしたんだ?」


「お前も同じ目に合うだけさ。

 一生カードの中で死ぬこともできず、永久に閉じ込められるんだよ」


「い、一生……」


それを聞いた盲目の男はゾッとした。


「いつまで待たせるんだい。早くカードの山から10枚引きな」


盲目の男はおそるおそるカードの山から1枚ずつ適当に引いていく。

カードにされた仲間たちはわずかな可能性を信じていたが、10枚引き終わったのを見て絶望した。


(ダメだ……一致してない……!)


盲目の男が引いた10枚のうち、仲間1人が閉じ込められたカードはわずか1枚。

残り9枚は裏側を向いていた。


ということは。


カードの山には仲間9人が表を向いて残されたままだった。


「ヒヒヒ。引き終わったかい?」


魔女は意地悪そうに盲目の男に尋ねた。


「おい魔女。ひとつ聞かせてくれ」


「命乞いなら聞かないよ? ヒントや交渉もダメだ」


「そうじゃない。お前はこの森に何人の仲間が来たのかを覚えているのか?」


「アヒャヒャ。そんなの覚えているわけないだろう。

 不用心な人間が立ち入ってきたとき、私は魔法をかけてカードにしてやるんだ。

 わざわざ何人か1枚ずつ表のカードを数えると思ってるのかい?」


「そうか……」


男は手元の10枚の山をぎゅっと握った。


「それじゃ、答え合わせだ。一致していなければお前もカードの中に閉じ込めてやるからね!」


魔女が手を伸ばしたとき、盲目の男は手元の10枚のカードの山をくるりとひっくり返して魔女に提出した。

そのことに気づかない魔女は男から10枚を受け取って数えた。


「ヒヒ。表のカードが9枚、裏のカードが1枚だね」


そして、カードの山に残された表の仲間たちのカードを数える。


「ひい、ふう、みい……きゅ、9枚!?」


魔女がかけていたカードの魔法は解除された。

盲目の男と10人の仲間たちはゆうゆうと森から立ち去っていった。


森の中に残された魔女はあっけにとられたままだったという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アホ魔女 VS 盲目のカード知恵比べ ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ