進化したもの

松長良樹

進化したもの


 生物の進化を加速度的に速める装置を発明した博士がいた。それは画期的な発明と言えたが、博士はそれを世間に公表しなかった。


 装置は大きな円筒形で正面にドアがあり、中に円形テーブルが設置されていた。テーブル上に実験対象を置き、それに特殊光線を当て、著しい進化を促す構造なのだ。


 心臓部には量子コンピューターが組み込まれている。もちろん中の様子は透明な覗き窓から見られる仕掛けになって、装置の側面にはダイヤルが複数ついていた。

 

 言うなれば装置は一種のタイムマシンのようなもので一目盛りが約一万年とういう単位で生物を進化させる事が出来るのだ。


 既に研究は進み、動物実験の段階に至っていた。


 最初に博士が中にマウスを入れて一万年先に目盛りを合わせると、なんと金髪のマウスが出来上がった。それは進化したマウスなのだった。マウスは利口で犬並みか、あるいはそれ以上の頭脳を有していた。


 次に猿で実験すると一万年では殆ど変化がないので、十万年に目盛りを合わせると流暢に人間並みの言葉を使う白い猿が出来た。博士は猿との会話に夢中になって時の経つのも忘れたほどだった。


 さて、こうなると博士は人間での実験がしたくなった。当然と言えば当然だが、それには恐怖と危険が付きまとった。全身に拒否反応が出て死んでしまう可能性もあるし、どんな後遺症が出るかもわからない。


 しかし博士はどうしても実験がしたかった。博士は自分の好奇心と戦ったが、ある時ついに負けてしまった。

 で、博士は秘密で助手に頼んで人を募集した。被験者には一千万円を支払うというのだ。何も知らない人間が金に目が眩んで応募してきた。だが、酔っ払いと体に疾患のある者は除外された。


 応募者は博士によって選考され、真面目そうな男子大学生が選ばれた。彼は実験の結果どんな事が起ころうとも意義を唱えないと言う契約書にサインをし、実験に臨んだ。

 博士はまず彼を一万年進化させた。しかし装置から出た彼は、ぽかーんとただ口をあけただけで何の変化もなかった。そこで博士は猿の例に習って一気に十万年進化させた。だが装置から出た学生に変化の兆候がない。助手も博士も人間はもうこれ以上ほとんど進化はしないのかもしれないと思った。

 今が人間の進化の頂点だと考えざるを得なかった。


 しかし、人の進化を信じる博士は納得がゆかず、彼をもう一度装置に入れ、一挙に百万年以上の進化を彼に強いた。


 しかしそれでも彼に変化がなかった。博士もさすがに諦めた様子で、これ以上の実験は危険すぎるし、今回の実験はこれで終了となった。

 博士は落胆したが被験者には一千万円を後日支払う事を約束した。

 

 大学生は喜んで家に帰っていったが妙な事が起こった。その時から彼の足の指の間が痒くなったのだ。我慢できないほど痒いので彼は仕方なく病院に行く羽目になった。


 病院に行くと医師が彼の足の指の間の皮を採取し、顕微鏡で覗いて驚愕した。


「こ、これは驚いた。なにか非常に小さな生物らしいものが沢山いますよ」


「な、なんですって、なんですか? それは」


「わかりません」


「電子顕微鏡で再検査します」


 時間をかけて医師が調べ、検査結果が告げられる。


「驚きました。あなたの足の指の間に超ミクロ生物が生育しています。彼らは小さな都市をあなたの足の指の間に築いているのですよ」


「えっ! 都市ですって!?」


 彼は仰天したが、さらに精密検査が進むと、その生物が水虫のDNAを受け継いでいる事がわかった。これを知った博士と科学者たちがそれを研究しだした。


 やがてその生物が水虫の進化した高等生物であることが確かめられた。


 あるとき彼は足の指が燃えるように熱くなったので、堪らず医師のところに駆け込むと医師は異常に目を輝かせてこう言った。


「これは大変だ! ついに彼らはあなたの足の指の間で核実験を始めましたよ!」






                  了


                   




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進化したもの 松長良樹 @yoshiki2020

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