小窓の姫とアコーディオン
ヨッシー
小窓の姫とアコーディオン
―――私はこの国の姫である。
身体の弱い私は窓の外が唯一の楽しみであった。
最初は街の外から眺める光景はとても暗かった。
困窮した国民がデモやストライキを起こし、何度も怒声が聞こえた。
だけどある日を境に毎日王宮前の広場でのアコーディオンの演奏をしていた男の子に私は恋をしていた。
最初は醜く、汚れていた彼はマトモな服装でアコーディオンを弾き始めた。
彼の奏でる音楽は私のみならず街の人々も魅了していた。
時々、女性に絡まれていた彼に私は何度も女性に嫉妬していたが、彼はすぐに首を振り拒否していた。
私は彼と付き合いたいと何度も思った事か………。
だけど彼は平民。
私の家族はそんな交際を認めるはずもなく、また私が駆け落ちしたとしても彼の迷惑になるし、私と駆け落ちして欲しいなんて言ったら彼も困るかもしれない。
だから私は彼が良い人に出会えるまで、私は窓から彼を見守ることにした。
それが私の幸せであり、それが彼の幸せであるから………。
―――僕はこの国の一平民である。
僕は孤児で貧しい人間であった為、窃盗や泥棒、スリを何度もしてきた。
その為、私は広場に現れた。
でも広場に来た一番の理由は宮殿の窓からこちらを眺めているお姫様だった。
最初は窓から見下しているのだろうと思っていたが、長い時間窓の側に居る事とお姫様が病弱である事を知った。
僕は部屋から出る事が出来ないそんな可哀想なお姫様を喜ばせようと、集めていたお金で新品の服とアコーディオンを買った。
僕はこの日から境に悪事を行うのを止めた。
最初は独学で楽器を弾くのに苦労したが、段々と弾き慣れ始めた。
僕は広場に出て楽器を弾き始めると、街の人は立ち止まり、僕の演奏を聴き拍手してくれた。
窓に居たお姫様もよく拍手をし、笑顔になっていた。
僕はそんな彼女の笑顔に少しずつ恋をした。
僕は彼女と付き合いたいと何度も思った。
だが彼女は王族。
身分が離れた人との交際など許されるはずも無く、もし駆け落ちしたとしても誘拐で死罪確定だし、身体の弱い彼女を連れて行くのは彼女も困るかもしれない。
だから僕は彼女が良い人に出会えるまで、僕は窓の彼女を演奏で楽しませ、見守ろうと思った。
それが僕の幸せであり、それが笑顔になる彼女の幸せであるなら………。
我が国で革命が発生した。
しかも原因は僕である。
女王は宮殿前の広場で演奏する僕が気に入らなかったのか、大勢の前で演奏している僕に対してライフルを構え、すかさず発砲した。
僕はかすり傷で無事だったが、数十名の死傷者が発生した。
この出来事で困窮していた国民の怒りは爆発し、国民は宮殿を襲撃した。
僕は姫を何とか助けようと襲撃に参加したが、国王夫妻はその場で殺されていた。
僕は鳥肌が立った。
お姫様無事でいてくれ、と何度も何度も願いながら探した。
だが彼女は既に先行して襲撃していた人々に捕まっていた。
彼女は牢獄に投獄された。
すぐに設立した議会では病弱な彼女を解放するべきだと言った議員が居たが、神の悪戯なのか、はたまた私の悪行の罰なのか、賛成多数で彼女の翌日に処刑が決まった。
しかも私の決定無しで私がこの事件の最大の被害者として処刑執行人となった。
私は何度も拒否したが、議会は無視し、処刑執行の時が来た。
断頭台に現れた彼女に対して、沢山の罵声を浴びせられている。
「お前らのせいでどれだけの国民が苦しんだのか!」
「死ね、怠惰の姫!」
「悪女はすぐさま処刑しろ!!」
罵声を浴びせられる彼女は悲しい顔をせず、そのまま首と腕を固定される。
無力な僕が憎かった。
彼女を助けるどころか彼女を殺す羽目になるなんて………。
すると彼女は小さな声で僕に話しかけてくる。
「私は貴方の演奏を何度も聴いてたわ」
「………え?」
彼女の透き通った綺麗な声で僕の演奏の話をしていた。
「貴方の演奏は私のみならず街の人達を笑顔にしていた。私は貴方を憧れていた」
「………そんな事を今言わないでください」
「貴方の演奏をいつもいつも楽しみにしていた。毎日聴いても飽きなかったわ」
「止めてくれ、頼む………」
僕は顔を手で塞ぐが、涙がポロポロと零れ落ち、止まらない。
「だから私は貴方に今から処刑されても貴方を恨まないわ。本当に申し訳ない………」
「そんな事を言ったら僕は貴女を殺せないじゃないですか………僕も貴女の事を心配して演奏も暗く苦しんでいた貴女を元気づける為に演奏していました」
そう僕が伝えると、近くに居た人が耳元で早く処刑する様に囁く。
僕は吐き気をもよおす。
この縄を切れば、彼女の首と胴体は切り離される。
そんな彼女を見たくなかった。
「早く殺しなさい、私は貴方を恨みません。貴方が幸せになることを赦します………そして私の為に演奏をしてくれてありがとう。お陰であの窓の光景がとても明るく見えたわ!」
僕はその発言に斧を持った手を震えてしまった。
どうにかして助けたいと頭を何度もよぎってしまう。
すると姫は僕に対して叫ぶ。
「早く殺しなさい、貴方が怪しまれるから………!」
「くっ………ひ、姫様すみません!」
僕は斧を振りかぶり、縄を切る。
俺は振りかぶると同時に言った。
「姫様、僕は貴女を愛しております」
そう言った途端、姫は涙を流しながら満面の笑みで呟いた。
「ありがとう、私も貴方を今後もずっと愛しているわ!」
そう言った瞬間、ギロチンの巨大な刃は一瞬で落ち、彼女の首を切り落とした。
その瞬間、市民の歓声が沸き上がる。
僕はその光景に怒りを通り越して我慢が出来ず、その場に崩れて、大声で彼女の冷たくなる亡骸に倒れ込み泣き叫んだ。
革命はこの後、共和制に移行したが、政治経験の無い平民の政府はすぐに瓦解し、違う国から新たな君主を立てた新王国を樹立した。
王国誕生と同時に遅すぎる姫の名誉が回復した。
僕はその後、姫の処刑に携わった事で新王国政府の尋問を受けたが、必死の訴えで私は無罪放免となった。
その後私は資本家となり、立派な最新鋭の工場を構え、そして可愛らしい妻子をもうけ、安泰な生活を送っている。
だけど僕は彼女の命日に墓の前でアコーディオンを弾く。
アコーディオンは彼女の処刑後は彼女の墓の前でしか弾かない様にした。
何故ならこのアコーディオンは彼女の為に、愛する貴女の為に弾いていたのだから………。
小窓の姫とアコーディオン ヨッシー @Yoshi4041
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