Day 7「秋は夕暮れ」 晩ご飯を考えるひとときの

街の大通りに並ぶ桜の街路樹の紅葉が、夕日に照らされて紅く燃えている。


その中を、スーパーの買い物袋を片手に下げて我が子と帰路を歩いていた。

紅というよりも目に鋭い橙色、黄色、と言った方が良いかもしれない。街路樹にはイチョウも混じっているのだ。

空も道も、どこもかしこも鮮やかな秋の彩りに染まっている。

夏の頃にはまだ昼過ぎ、と言えていた時間帯でも、今では夜の手前だ。

冬と呼ぶにはまだ少し早いというのに、太陽は駆け足で地平に進んでいる。


ぴゅう、と寒さを孕んだ秋の風が、シャツの襟で守られているだけの首を撫でていった。

思わず、首が竦む。


「お母さん、寒いね」


きっと私の真似だろう。首をすくめて、寒い寒い、と繰り返している。

寒さを楽しんでいるような様子が微笑ましい。


「明日からマフラーと手袋しようか」


空いている手で子の手をそっと握ると、嬉しそうに笑って強く握り返された。

そろそろ本格的に冬支度をしなければならないだろう。


今日の晩ご飯は何にしようかと考える。

お鍋にするにはまだ早いかもしれないが、おでんも美味しい頃合いだろう。

湯豆腐なんてのもシンプルで良い。

冷蔵庫の中の物と買ってきたものを考えながら、晩ご飯の献立を考える。

ほかほか湯気を立てる食卓を考えていると、隣で小さくくしゃみの音がした。


「今日の晩ご飯はあったかいのにしようか」

「やったぁ!おかあさん、私カレー食べたい!」


自分がいかにカレーが好きかを語る声に、頭に浮かんでいた温かいものが消えていく。

ウキウキとされてしまっては仕方ない。今日の晩ご飯はカレーにしてあげよう。


「じゃあ、お手伝いしてくれる?」

「私ね、じゃがいもも、にんじんも、皮むきするよ!」


自作のカレーの歌を歌い出す我が子。すれ違った近所の人が、目を細めて通り過ぎていったのが少し恥ずかしい。


早く早く、と握った手を引いて子供に急かされてしまうと、秋風の寒さもすっかり気にならなくなっていた。

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秋が香るショートショート 結佳 @yuka0515

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