Day6「双子」 両手の花が離せない
僕がここにやってきたのは、半年くらい前の事だ。
両親の仕事の都合で、住み慣れた都会から自然の多いこの街に引っ越してきたのだ。
街の人は皆優しく温かな人々ばかりで、暮らしにも不自由や不便はさほどない。
強いていえば、一つだけ困ったことがある。
隣の家に住む、同い年の双子に好かれている、という事だ。
初めて2人と会った時に自己紹介をされた翌日、学校の登校中にどちらがどっちか?と尋ねられた。
僕は割と人の顔を覚えるのが得意だったし、何より2人の声はほんの少し違う。
だから、彼女たちの名前をそれぞれ間違う事無く言い当てる事ができた。
「私たちの見分けがつくなんて。あなたってすごい人だわ」
「あなたってすごいのね。お父さんお母さんにも間違われる事があるのよ」
2人は目を丸くしてお互いを見比べると、パッと笑ってこう言った。
「私たち、あなたの事が好きになっちゃった」
その日からというもの、学校への登下校も、お昼ご飯も、双子たちと一緒にいる。
クラスの子達からは名物双子だと認識されているらしい。
女の子たちと一緒にいるのをからかわれたり、笑われたりしないのは有難い。
とはいえ。
「だからって、いつもこんな事になるのはどうかと思う」
右の手を握るのは青いリボンを髪に結った少女。
左の手を握るのは赤い髪留めを髪に付けた少女。
真ん中には僕。
つまり、3人で手を繋いで歩いる。ちなみに、今は学校から帰っている途中だ。
「だって私たち、美味しいものも半分こするのよ」
「面白いゲームも一緒にやるの。代わりばんこにやったりね」
僕を挟んできゃらきゃら笑う双子の笑い声は、絶妙なハーモニーを響かせた。
「でも、好きな人も半分こっていうのは、ちょっと違うんじゃないかな」
「私はあなたとこの子と一緒に居られたら、とっても楽しいわ」
「あなたと姉さんと私の、3人でいるの私好きよ」
可愛らしい声がとても楽しげに言うものだから、こんな立ち位置も悪くないか。
なんて思ってしまったら、きっと僕の負けなんだ。
と今日も言い聞かせて、口から出かかる言葉を飲み込んだ。
背を押すのは秋の風。足元でかさついた音を立てる落葉たち。
冬になったら、きっとこの両手の温かさが愛おしくなってしまうに違いない。
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