7.ブサイクの貴重さ
突飛な題で、皆さんからしたら「ちょ、ま、藪から棒にどうした」と狼狽することでしょうが、これは僕が思いついた事をありのままに書き記したものに過ぎないので、そう敏感に捉えないで「あっはい、なるほどね」といった風に気軽に捉えてもらえたら幸いである。
さて、またしても藪から棒なのであるが、僕自身は不器量、つまりは容姿が優れたものとは言えないようである。早速「卑屈ポイント」を稼いだのだが、十六年も人間として生活していると何となく世間一般の美醜に関する評価項目が分かってくるものだ。
僕がまずパッと思い浮かべた評価項目、イケメンに重要とされるポイントを書き出してみると、
①鼻筋がしっかりしている
②二重(これに関しては人の好みによる気がする)
③彫が深い
④小顔
⑤口元が締まって小さい
⑥肌がきれい
⑦鼻の穴が大きくない
etc……
と、言った具合に出揃ったわけだが、これらの項目を当てはめようと鏡の前に立ってみると驚愕である。イケメンと呼ばれる人々を書道家が書いた達筆な文字とするならば、僕の顔はゲバ字というか金釘流というか……あまり褒められたものではない。鼻筋は曖昧で彫はヒマラヤ山脈に対した鳥取砂丘のようである。目は右目だけが奥二重というよく分からん体裁をしている。
確か中坊の頃に読んだ生物学の本によると生物は基本的にシンメトリーを好むらしい。知性があるのか定かでないような昆虫の蝶でさえ、メスは子孫を残すために選ぶオスの基準は模様のシンメトリーだそうだ。先ほどの片方奥二重の件は生物的オスの絶対条件から逸脱しており、地球生命落第の烙印を押されたような気もする。ちょうどその本を下校中の市営バスの中で読んでいたのだが、その一節を読んだ時には「フハッ」と息を呑んだのを覚えている。
さらに、僕の鼻は低いうえに穴が婉曲して角度によっては大きく見える気がするのだ。これは項目⑦に反した条件である。これは参考文献もなく、僕の空想夢想の与太話かもしれないが(このエッセイ集はそういうコンセプトなんだけどね)、人間は他の生物より知性を生かして優位に立っており、他の霊長類とどこか差別化を図っているように思う。その時に、ゴリラやチンパンジーといった類の霊長類は鼻が低く、鼻の穴が広い傾向にある。差別化を図っている人間からするとその下級として見ている生物(この言い方はちっとばかし悪いけど、美醜について歯に衣着せず話しているので、しょうがないと思ってくれたまえ)の容姿に似ているかどうかは無意識の内に優劣の基準となってしまうのではないだろうか。よって、項目⑦に理由なく反抗した僕の顔は、あまり素晴らしいものとは言えないだろう。
さて、順調に「卑屈ポイント」を貯め、「黒毛和牛A5ランク もも肉〈焼き肉用〉」を狙える位置にきたわけだが、これらの考察を終えたあと、僕はあることに気付いた。
世の中には「雰囲気イケメン」という雑なコピーアンドペーストのような単語が存在する。これは「本物のイケメンには幾分か劣るが、装飾や仕草などがそれっぽいために呼ばれるもの」と僕は捉えている。そして、この単語をもう少し敷衍して考えると「努力次第で男は誰しもそれっぽいイケメンの仲間入りできる」ということである。そうなると、「イケメン」という単語の内容が広義となり、該当する人々の人口爆発が起こるのである。右を向けば「それっぽいイケメン」、左を向けば「それっぽいイケメン」、時折本物が現れるけど、世の女性がそれぞれで甘んじてくだされば、誰しもが「それっぽいイケメン」程度に出会えるというわけである。
こうなってくると、「イケメン → 数少ない」という自然方式が瓦解、神話崩壊が生じるわけであり、ある説が代わりに表れる。
「ブサイク → 数少ない資源」
である。これは「雰囲気ブス」という単語が聞かれないことが裏打ちしていて、ブサイクのハードルはそう低くないのだ。そう、世の中で実際に希少価値があるのはイケメンなんてものではなく、ブサイクの方なのではないだろうか。ブサイク舐めると痛い目にあいまっせ。
……などという机上の空論を展開したのだったが、平安時代の美人の特徴が今ではあまり好まれていないように、物事の基準は無常観の上に成り立っているといっても過言ではない。ならば、いつしかブサイクという影に光が当てられる日も夢ではないかもしれないのだ。まっ、僕が生きている間にそのような大革命があるとは到底思えないけどね。
あぁ、悲しいかなこの人生(涙)……。
学生の暇つぶし @nukaduke
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