本当のおはなし
本当の話って言っても、どこから話せばいいんだろう。まずは僕の事……いや、先に人間の仕組みについてかな。君たち人間は、肉体っていう入れ物に魂っていう本体が入ってできてるよね。肉体が朽ちて、脳の活動が終わった時の事を「死ぬ」って呼んでる。死んだ人間の魂は肉体から羽ばたいていって、羽ばたいた魂は新しい入れ物を探しに行くんだよ。魂が新しい入れ物に移った時、普通は前の入れ物──「前世」って言った方がいい?とにかく、前の自分に関する記憶とか経験が全部リセットされる。でもね、サミュエル先生は違う。先生は、全部覚えてる。
ねえ、先生の前世って誰だと思う?一回しか言わないからよく聞いてよ。実は、先生の前世は──例のコールリッジなの。『女神奇譚』に載ってる聖人君子。世界中が知ってる超大物タレント! それで、それで……僕は誰? 僕はね、そんな有名人の愛息子なんだよ。正確には、サミュエル先生がコールリッジだった頃の記憶を頼りに造った
ごめん、何の話だっけ?……ああ、そうだね。コールリッジの【本当の話】についてだ。今話した通り、本当はコールリッジにも愛する花嫁と息子がいたの。花嫁の名前はエリザベス。荒野に咲く庭育ちの薔薇みたいに可愛い人だったんだって。
エリザベスは根っからの研究者気質で、目の前にある謎を全部解かないと気が済まない女の子だった。川の中の石の形とか、鳥の鳴く声の仕組みとか……エリザベスの好奇心の前には、いつも法律とか世間体とかが立ちはだかってた。普通、この手の女の子には立ち止まれって諭す恋人が付くものだけど……先生がそんなつまらない男だったら、エリザベスの夫は務まらないよね。
エリザベスの研究対象は星の数くらいあったけど、先生の興味はエリザベス一人にだけ注がれた。この女の邪魔になるもの全てを取り払って、この女を野放しにしてやったらどうなるんだろう?って思ってたんだって。主に理解者として、たまに対立者としてをエリザベス支えることが先生の趣味だった。その時の研究テーマとか、その時の気分で世界を巡って……本当に楽しかっただろうね。でも、そんな風に好き勝手やるには体力が要るでしょ。そういうのを踏まえた結果、二人の研究テーマは「人体の神秘」に落ち着いたの。二人は今はジュヴァン王国になっちゃった所に別荘を建てて、そこで死ぬまで暮らした。──そう、死ぬまで。
人間が肉体と魂で構成されてる事と、死を待たずして肉体と魂を引き離す方法を見つけた時、子供諸共殺された。二人の研究成果は女神に丸パクリされて、女神は魂だけの見えない存在──殺せない相手になっちゃたの。まあ、だから、その……要するに、奇譚に書かれてる逸話は全部嘘なんだよ。先生は生涯独身じゃなかったし、そもそも女神の下僕でもないの。
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