第15話 目撃者

「なんだあの黒い狼!? あれが魔物なの?」

「いや、あれは普通の魔物じゃない。何かの魔法で変異させられている!」

「そんな!? 魔物を変異させるなんてどんな魔法を使ったのよ!」


 出雲が驚いている魔物を見た二人は、人為的に変異させられている魔物を見ると戦わないと殺されると言い合っていた。しかし、武器がない状況で魔法だけで対処ができるのか不安に感じていた。


「武器が無くてもやるしかないわ。私が先に出るから東堂君は援護をして!」

「分かった! 気を付けるんだぞ!」

「誰に言っているのよ!」


 その言葉と共に美桜がバスの扉を開けて外に勢いよく出た。そして美桜は勢いを止めずに氷塊を五体の魔物に向けて発射した。


「今よ! 東堂君!」

「言われなくとも! 炎弾!」


 大和は美桜の氷塊を避けた二体の狼に向かって、炎を凝縮して球体にした炎弾を発射した。大和の攻撃は見事に命中し、二体の狼の魔物を倒した。だが、美桜が倒したと思っていた三体の魔物のうち一体が勢いよく起き上がり、美桜に向かって噛みつこうとしていた。


「危ない!」


 出雲はどこからか手に入れた長剣を手に、美桜に嚙みつこうとしていた魔物の喉を切り裂いて腹部を蹴りつけた。


「させないよ! 魔物なんかに負けない!」

「黒羽君……あっ! まだその魔物死んでない!」


 美桜が出雲に叫ぶと、出雲は左手で光弾を発動して魔物を吹き飛ばした。


「ありがとう……その長剣どこにあったの? バスの中に入ってたの?」

「荷物置きの下に入ってたんだ。どうしてだろう?」


 なぜ武器が入っていたのか理解が出来ないが、出雲は武器があったことで助かったと感じていた。魔物を何とか倒せたので、とりあえずバスの中を探索することに三人は決めた。


「長剣以外にも何かあるのかな? 食べ物とかあればいいんだけど……」

「どうだろうなー。みんなの荷物も無くなってるし、どうなっているんだろう……」


 大和と美桜が荷物置きや座席をくまなく探したが、何も見つからなかった。すると、バスの外を探していた出雲が何かあったと叫んだ声が聞こえた。


「何か見つけたのか!?」

「何かあったの!?」


 大和と美桜が慌ててバスの外にいる出雲のもとに行くと、バスの側面にある荷物を入れる場所に少ないながらも食料と飲み物が入っている袋が一つだけあった。また、大和と美桜の分の武器が一つずつ奥の方に置いてあった。


「ご丁寧に食料と武器まで置いてあるなんて、誰かがやったとしか思えないわ。それに先生や他のクラスメイトまでいなくなって、絶対これは課外授業ではないわ!」

「そうだと思う。誰かが仕組んだことだな」

「やっぱりそうだよな……バスの中で発生した煙や、急に気絶したことは誰かがしたことだよな」


 三人がその場で考えていると、出雲が御手洗先生じゃないかと言った。その言葉を聞いた大和はやはりそうかと出雲に同意をした。


「御手洗先生が何かをして、それを東雲先生が止めていたのを見たんだ。東雲先生がどうなったかは知らないけど、絶対に御手洗先生が何かをしたのは確実だ」

「そうね。御手洗先生がどうしてこのようなことをしたかは分からないけれど、何か目的があってしたのだと思うわ。それに、他のクラスメイトや東雲先生がどこに行ったのかしら」

「それは分からないね……」


 三人が悩んでいる最中、本来の課外授業の場所に藍達はいた。バスから下ろされて地面に倒れており、他のクラスの教師や付き添いの教師達が慌てて藍達の場所に駆け寄っていた。


「何で一組の副担任と生徒達が外に!? それに気絶している!?」

「大丈夫か!? 何があった!?」


 一人の中年の男性教師が藍の肩を掴んで揺らし始めた。すると藍がゆっくりと目を開けた。


「うぅ……ここは……」

「東雲先生! 大丈夫ですか!?」

「東雲先生!」


 女性教師も藍に話しかけると、藍が突然大声で御手洗先生がと言った。


「御手洗先生がどうかしたんですか!? この場にはいないようですけど」

「御手洗先生が私達に攻撃をしてきたんです! 突然バス内に煙を充満ませたり、見たことがない魔法でバスを襲ってきて! 生徒達は無事ですか!?」

「落ち着いてください! 生徒達は無事ですよ!」


 そう言われた藍は足を震わせながらゆっくりと立ち上がる。そして倒れている生徒達を見渡すと、出雲達がいないことに気が付いた。


「黒羽君と東堂君に斑鳩さんがいないわ! どこにいるの!?」


 ふらつきながら出雲達を探す藍に、教師達がすぐに動くなと心配をしていた。


「私達が周囲を探索するから、東雲先生は倒れている生徒達の看病をしててください!」

「分かりました……お願いします……」


 藍はそう言うと、倒れている生徒達に声をかけたり体を揺らして起こし始めた。藍に起こされていく生徒達は頭部の痛みや体の怠さを訴えながら目覚め始めていく。


「頭が痛い……」

「体が凄く重いわ……」

「一体何が起きたの?」


 生徒達がゆっくりと起き始めると、藍が泣きながらごめんねと生徒達に謝っていた。その姿を見た女子生徒達が藍に抱き着いて無事ですと何度も泣きながら言っていた。


「私達は無事だよ先生! 私こそごめんね!」

「先生が御手洗先生を止めてたのを見てたよ! 私も止めに入らなくてごめんなさい!」


 泣いている藍達と女子生徒を見ていたひとりの男子生徒が、御手洗先生が言っていたことを思い出したと藍に話しかけた。


「俺見ました! バスの中が黒い霧で覆われた時に、御手洗先生が黒羽君達に何かしていたのを見ました!」

「それ本当!? 本当に見たの!?」

「はい! 意識を失う前でしたが、御手洗先生が手をかざして何かの魔法を詠唱して発動していました!」


 その言葉を聞いた藍は探しに行かないと、三人に危険が迫ってると言っていた。そして、周囲を探索していた教師達が戻ってくると藍が黒羽君達に危険が迫っていますと詰め寄りながら言い始めていた。

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魔法学校の不適格者〜現代魔法と失われた魔法 天羽睦月 @abc2509228

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