第2章 忍び寄る闇

第14話 思惑

「これから一年生全員で外に待機してもらっているバスに乗って移動をします! 私達のクラスから移動をするので、行きましょう」


 藍が話し終えると、生徒達が移動を始める。この場にいない龍雅は先にバスの方に移動をしているらしい。出雲達は教室から出ると校門の方向へ移動をしていく。


「御手洗先生がバスのところにいるって、結構気合入れてるのかな?」

「どうだろうなー。何か仕込もうとしているとか?」


 出雲と大和が話しながら歩いていると、クラスメイト全員が校門に到着した。そこでは御手洗と四人の教師が立っており、出雲達の姿を見た御手洗がこのバスに乗ってくれと指示をした。


「全員このバスに乗るんだ。他のクラスの生徒は後ろに停車しているバスに乗ってくれ」


 御手洗の指示を一年生全員が聞いて動いていく。出雲と大和は指示されたバスに乗ると、前方の席に座る。隣り合うように座ると、二人の後ろに美桜達が座った。


「私も斑鳩さんの隣に座りたかったー! 帰りは私が隣に座る!」

「それでいいから、騒いだりしたら怒られちゃうわよ?」

「はーい」


 美桜達三人はそんな話をしながら静かに出発を待っていた。一年生全員がバスに乗り込んだことを確認した教師達は、バスを発車させるために自身達もバスに乗り込んだ。


「これから二時間ほどで到着する予定だ。みんなゆっくりしてバスの旅を楽しんでくれ」

「御手洗先生からお話があったように、二時間程度かかる予定よ。ゆっくりしてね」


 龍雅と藍の説明を聞いていた出雲は、外の景色を見ていた。都会の景色が徐々に消えていき、草木や森が見えるようになってきた。


「どこに行くんだろうな。山に行くような気がするけど、都市部から結構離れないと魔物はいないからな」

「やっぱり山の方なのかな? 魔物は普段見ないけど、山間部に生息しているって聞いたことあるけど」


 出雲は以前にニュース番組などで山間部や岩石地帯に魔物が生息していると聞いたことがあった。そのことを大和に言うとそうだなと肯定された。


「魔物は人が住んでいない場所に生息しているのが定説だな。たまに都市部に襲いに来るが大抵は倒されてしまうけどな」

「そうだよね。やっぱり比較的弱い魔物が生息してる場所にいくのかな?」


 どの場所に行くのか二人が話していると、突然御手洗が席から立ち上がって指を鳴らした。すると車内で煙が発生し始めた。


「な、なんだこれ!? 突然煙が!?」

「御手洗先生が指を鳴らしたら煙が発生したように見えたよ!」

「先生!? 何をしたんですか!」


 一人の男子生徒が咳き込みながら運転手の側にいる御手洗に詰め寄って聞くと、龍雅が微笑し始めた。


「黙れ。私の目的のためにお前達は動けばいいんだ」

「先生!?」


 男子生徒の耳元で脅すような口調で言った龍雅は、そのまま腹部に拳を浴びせて気絶させた。


「先生何を!? 突然どうしたんですか!?」


 何かの異変を感じ取った藍は、龍雅の両腕を掴んだ。


「東雲先生に私は止められない。私は目的を果たすのみだ」

「目的って何を言っているんですか! 生徒達に魔物の危険さを比較的安全な人と魔物が同じ地域に暮らしている場所で教えるんじゃなかったんですか!」

「お遊びは終わったんだよ。これからは新しい闇の時代が到来する」


 龍雅が藍に新しい時代だと言うと、出雲達が乗車しているバスを黒い霧と思えるような現象が包み込んだ。その霧を煙が充満する中で、窓を開けて煙を外に出していた出雲が見ていた。


「何だこれ!? 先生! 何をしたんですか!」

「そのうち分かる。お前達は私の目的のための礎となるがいい」

「何を!? うわぁ!?」


 出雲が反論をした瞬間、バスの中にも黒い霧が充満してバスに乗車していた全員が意識を失ってしまった。龍雅以外の全員が意識を失っていると、龍雅がバス全体を見渡した。意識を失っている出雲達を見ると、目的に近づいたと言いながら姿を消した。


 出雲達は何分なのか何時間なのか分からないほど意識を失い続けると、大和が静かに目を開けた。頭部の痛みに耐えつつも、隣の席に座る出雲の体を揺らして起きろと何度も言い続けていた。


「うぅ……頭が痛い……」

「大丈夫か!? 御手洗先生が何かをしたみたいだけど、周りに座っていたクラスメイトがいないんだ! 先生が何かをしたみたいだ!」

「えっ!? 誰もいないの!?」


 出雲が立ち上がってバスの中を見渡した。すると最後部まで誰もおらず、何があったんだと出雲が叫ぶと、二人の後ろの席から痛みに耐える声が聞こえた。


「痛い……何なのこの頭の痛み……」


 それは美桜であった。美桜隣の席に座っていた友達はいないようで、一人で痛みに耐えていた。美桜は出雲と大和を見ると、一人じゃなかったのねと二人に話しかけた。


「俺達三人しかいないみたいだ……東雲先生や他のクラスメイトはどこに行ったんだ?」

「このバスはもう安全じゃないみたいだぞ。外を見て見ろ」


 大和が窓の外を指差すと、そこには変異して魔物となった黒い狼が五体バスの外をゆっくりと歩いていた。

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