席替えで隣の席になった学校1の美少女が実はメイド喫茶でバイトしていた件について~普段はクールなのにメイドの時はまるで別人で、俺にバレたことでものすごく焦ってばらさないで欲しいと懇願してきました~

津ヶ谷

学校1美少女の彼女には秘密があった

 青春というのは青い春と書くが、本当に青いのだろうか。

では、俺の人生は何色なのだ?

強いて言うならば、モノトーン。

白黒だろうか。


 俺、来栖海人はそんな青い春とは無縁の生活を送っていた。

高校に入って1年が経過しようとしていたが、その春の兆しは一行に現れる様子はない。

神様というのは、人の上に人を造らず人の下に人を造らずというが、本当にそうかは怪しいものだとこの歳になって感じる。


 季節だけは春の陽気を感じながら、今日も一人で学校に向かう。


「おはよ!」


 いきなり後ろから背中をパシッと叩かれた。


「何だ、明かよ」


 そいつは俺の唯一といってもいい友人、三嶋明だった。


「朝っぱらから辛気臭い雰囲気出してっとモテねぇぞ」


 明は俺とは正反対な活発的な性格の持ち主だ。

顔もそれなりにイケメンだし、性格もいいことから男女共に慕われクラスでもリーダー的ポジションにいた。

そんな明とは、1年生の時にひょんなことからが仲良くなった。

というか、一方的に仲良くされたというべきだろうか。

まあ、そのひょんなことは長くなるのでまたの機会にするとしよう。


「別にモテる為に生きちゃいないよ」

「またまた、そんなこと言ってたら一生彼女出来ないかもよ?」

「大きなお世話だ!」


 俺は、明の頭を軽く小突いてやる。


 学校に着いても、明はちょくちょく絡んでくる。

いや、暇かよ。


「お前ら席つけよー」


 昼休みが終わり、午後の授業が始まろうとした時、担任が教室に入ってきた。

そう言えば、今日はホームルームの時間だったか。

担任は体育教師なので、ホームルームと保健の授業くらいでしか教室では見かけない。


「今日は席替えするぞー」


 担任の言葉にクラス内はざわめきだした。

このクラスになってから2ヶ月が経とうとしていた。

席替えのタイミングとしてはこんなもんだろう。


「はいはい、静かにしろー。くじ引きで決めるからな」


 担任は自作のくじを用意していた。

ボックスに何枚もの紙が入っていてくじの番号と座席表の番号を照らし合わせて、席が決まるとういう寸法だ。

まあ、ありがちといえばありがちだろう。


「俺、詩音さんの隣がいいな」

「それな」


 下世話な男子どもの会話が耳に入る。

詩音さんというのは学校1の美少女と名高いクールビューティーな印象を受ける女子生徒である。

その整った容姿から男子からは、圧倒的な人気を誇る。

一方、クールでどちらかと人付き合いは得意ではないのか、彼女は一人でいることが多かった。


「海人は誰の隣がいいんだよ?」


 性懲りもなく、また明が絡んでくる。

俺以外にも話し相手くらいいるだろうに。


「俺は、別に誰でもいいよ」

「はー、冷めてんね。もっと欲持たないと」


 それこそ大きなお世話である。

俺としては、隣の席が誰であろうが、別にどうでもいいのだ。

日常の邪魔さえされなければ、別にそこに頓着する必要はないのである。


「お前ら確認したかー?」


 全員くじを引き終わった所で、担任が確認する。

どうやら全員、確認まで済んでいるらしい。

行動が早くて素晴らしいことだ。


「じゃあ、確認したら席変われー!」


 その場で席を変わることになった。

番号からして、今回も明は俺の近くの席らしい。

嫌な運命というものは本当に存在するという事を証明するには十分な根拠ではないか。


「ここだな」


 俺は、確認した席に移動すると、荷物を持って腰を下ろした。

そして、その左隣には、何と、何と……

あの詩音さんが座ったのである。


「えっ!」


 思わず声を出してしまい、彼女の方をジッと見つめていた。


「よろしく」


 これは詩音が放った言葉だ。

そこに、感情の起伏はなかったが、彼女は確かにそう言った。


「あ、ああ、よろしくな」


 その光景に、周りの男どもからは殺気が混ざった、嫉妬の眼差しが送られてきていた。

いや、望んでなったわけじゃないからね?


「ああ、俺の平凡な学校生活はどこに行ったのかな?」


 誰にも聞こえないような声で呟いた。

しかし、海人は知らなかった。

これがまだ、序章も序章に過ぎないことを。



 * * *



 そして、時は流れ週末となった。

あれから、詩音と話すことはそれほどなかった。

英語の時間にペアで発音の練習をするときに、一言二言交わすくらいだろうか。

それでも、嫉妬の眼差しは突き刺さるものだったが。


「さて、行くか」


 今日は俺がいつも読んでいる漫画の新刊の発売日だった。

俺は、いつも秋葉原で漫画を買っている。

特に、そこまでヲタクではないが、秋葉原の書店は品揃えが豊富だし、新たな出会いがあったりするので嫌いにはなれなかった。


 電車で20分ほど揺られて、ヲタクの聖地秋葉原へと降り立った。

俺は、目的を済ませる為に、いつも行っている書店へと向かった。

ちなみに、ここは店舗特典も付く。

これも俺の目的の一つだった。


「お、あったあった」


 漫画の新刊の棚に目的の漫画の最新刊が置かれていた。

それを手に取ると、適当に漫画やライトノベルの棚を眺めていたが、特に目ぼしいものは無かったので、それだけ購入して帰ることにした。


「ありがとうございましたー」


 購入を済ませると、書店の袋を手に駅の方向へと歩いた。

流石は休日というべきだろうか。

歩行者天国が行われている道路は人混みに染まっていた。


「お兄さん、メイドカフェとかどうですか?」


 俺はメイドカフェのキャッチャーのお姉さんに捕まった。

そこは、俺でも知っているくらいの大手のメイドカフェだった。


「忙しいですか?」


 俺を捕まえたお姉さんは上目遣いで見つめてくる。

正直、凄く可愛い。


「別に忙しくはないけど……」

「なら、行きません?」


 別に家に帰ってやることといったら、この漫画を読むことくらいに過ぎないだろう。

特に急いでいる訳でもないし、お値段も良心的ではあった。


「まあ、お姉さんが相手してくれるなら」

「ほんとですか!? じゃあ、行きましょう」


 お姉さんはパッと笑顔になり、店舗の方に案内してくれる。


「それでは、こちらの席にどうぞ」


 俺を席に案内してくれる。

外は人混みで溢れていたが、店内は比較的空いていた。


「こちらがメニューですね。初めてですか?」

「はい」


 俺はメイドカフェというもの自体が初めてであった。


「じゃあ、注意事項とメニューについて説明しますね」


 俺を案内してくれたメイドさんが説明を始めてくれる。

説明を聞いて、俺はメイド喫茶というもののシステムが何となく分かった気がする。


「それで、新規さんの特典でチェキが2枚無料で撮れるんですけど、どうしますか?」

「あ、じゃあお願いしようかな」


 せっかくメイドカフェに来たのだ。

楽しんでおいて損はないだろう。


「では、今居るメイドのリストを持ってきますね」


 そう言って、俺に説明をしてくれたメイドさんはその場を離れた。

何となく、手持ち無沙汰になり、俺はお冷を一口飲んだ。


「お待たせしました。こちらがリストになります」


 メイドさんがリストを手に戻ってきた。

それと同時に、注文したアイスコーヒーも運ばれてきた。

リストには、ご丁寧に写真まで貼られていた。


「ありがとうございます」


 俺は、そのリストを眺めた。

そこには、ランキングというものが存在していた。

ランキング1位と書かれていた子は確かに美人だった。


「でも、この顔どっかで……」


 そんなことを考えていた時、メイドさんが話しかけてきてくれた。


「決まりました?」

「あ、じゃあ1枚はお姉さんでお願いします」


 俺は、1枚目は接客してくれているメイドさんを指名した。


「ほんとですか!? ありがとうございます」


 どうやら、彼女は新人さんで、まだあまりチェキを撮った経験がないらしい。


「うん。あと、誰かおすすめは居る?」


 俺は決めかねていたのでメイドさんに尋ねた。


「やっぱり、この1位の美琴さんとかおすすめですよ」


 そう言って、メイドさんはランキング1位の子を指さした。


「じゃあ、その子で」

「かしこまりましたー」


 メイドさんはリストを回収してくれた。

そこからというもの、メイドさんとお話をしたり、飲み物を飲んだりして時間は流れていく。


「では、そろそろチェキ撮りましょうか」

「あ、はい」


 ここで、俺の番が回ってきたのだ。

なんだか緊張するが、これも初めての経験だからだろう。

まずは、俺を接客してくれたメイドさんと写真を撮る。


「やりたいポーズとかありますか?」

「いや、任せるよ」

「分かりました。じゃあ、ハートで」


 そう言うと、俺とメイドさんは手でハートを作った。


「はい、もえもえキュン」


 そんな合図でチェキが撮られた。


「はい、次は美琴さんですのでこのまま待っていて下さいね」


 そう言うと、メイドさんはその場を離れた。

そして、1分も経たないうちにその時は訪れた。


「ご指名ありがとうございま……」


 そこまで言うと彼女は一瞬固まった。


「えっ!?」


 俺も驚きのあまりに声を出してしまう。

そこに居たのは、何とあの詩音さんだったのだ。

あの、学校1美少女でクールビューティーな彼女が今は別人かのように振舞っている。


「失礼しました。ご指名ありがとうございます。撮りましょうか」

「あ、は、はい」


 さすがはプロだというべきか、最初は驚きの表情を見せたものの、また彼女はメイドさんらしい笑顔に戻った。


「はい、私と同じポーズしてくださいね」

「分かった」


 俺は、言われるがままに彼女と同じポーズを撮った。

そして、その日はそれ以上のイベントは起こらず、帰路に就くのであった。



 * * *



 次の日の学校、俺の足取りはいつもより重たいものだった。

何せ、昨日の詩音さんの姿がまだ目に焼き付いている。

しかし、そうも言っていられないので、そのまま俺は席に着いた。

そして数分後、詩音さんが教室に入ってきた。

その歩みは真っ直ぐ俺の方向に来ている。

いや、まあ隣の席だから方向は同じなのかもしれないが、その眼光は俺をとらえていた。


「ちょっと、話しがあるんだけど」


 俺の机に手を付くと、感情の起伏がない声で言った。

彼女は目線で外に出るようにと促してくる。

そんな、詩音さんの行動に教室は一層のざわめきを見せた。

そして、俺には突き刺さるような視線が送られてきていた。

しかし、ここで断るわけにもいかないだろう。


「分かったよ」

「よろしい」


 俺は、詩音さんの後をついて、人気のない薄暗い階段の踊り場へと移動した。


「あの、昨日のことだけど……」


 詩音さんはどこか言いずらそうにしていた。


「あ、うん。やっぱそのことだよな」

「そう、私、学校ではこんなのだから、その皆には黙ってして欲しいの」


 そう言うと、詩音は頭を下げた。


「大丈夫。言わないから。言うような相手もいないし」

「ほんと?」


 詩音は上目遣いになりながら俺を見つめてきた。

いや、可愛すぎんか。

こんな姿を見せられたらイチコロだろうな。


「ああ、任せとけ。君の秘密は俺の心の中に仕舞っておくよ」

「ふふふ、ありがとう」


 そう言うと、詩音は天使のような可愛らしい笑顔を浮かべた。

それは、いつものクールビューティーな彼女ではない。

メイドの美琴としての笑顔だったのかもしれない。


 こうして、俺と詩音の奇妙な関係は続いていくのであった。

やがて、それが恋心だと気づくのはまた別のお話である。

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