第6話

 日課のランニングは一転してオバケ箒たちとの追いかけっこと化した。

 わたしは未だうすあかるい通学路をける――もといね回る。怖さと腹立たしさで散々な気持ちだったものの、さいわいにも足の速さにあくえいきょうはなかった。

 それに気づいたのはしばらく走ったあと。

 ちょうど通学路の路地裏ちかみちで振り返り、オバケ箒たちが見えないことを確認できたタイミングである。

「……今のうちに休もっと」

 わたしは民家のへいに寄りかかろうとする。しかしよく見れば黒ずんでたり、クモの巣が張ってたりしたので結局やめた。掃除くらいすればいいのに。

「あーあ。これからどうしよ」

 あんなのにつかまれば最後、間違いなくひどい目にわされてしまう。逃げたのは正しい判断だったと思える。

 一方で、逃げるばかりじゃきっとこの悪夢からは脱出できない。

 お父さんの言葉を借りるなら『人を祟らんとする神様は、心からのしゃをささげねばしずまらない』というわけだ。

(家に戻って、それからあの竹箒にあやまってみる? 言葉通じるのかな……)

 わたしの胸に不安がつのる。今まで信じてこなかったものを無理に信じようとするのは、やっぱり難しい。

(……それでもやらなきゃ)

 なにもしないよりは。

 進んで努力しないまま、きに任せるよりはよっぽどいいはずだ。

 ――なんて、実際のところ、やるしかない状況に追い込まれただけなんだけど。

「あー! いたよー!」

 とうとつに元気な声が聞こえた。路地裏のしゅうたん、ふたつある出入り口の片方からだ。

 見れば、室内の掃除にふさわしいサイズの箒がぴょんぴょんと跳ねている。どうやらあのオバケ箒たち、また仲間を増やしたらしい。

「だったらこっちは……こうよ!」

 オバケ箒たちがここに集まってくるのも時間の問題だ。ならせめて、追いかけるじゃをしてやろう。

 わたしは思いっきりその場をきまくった。するとみるみるうちにほこりがい上がり、視界をさえぎるえんまくのように広がっていく。

 この路地裏がろくに掃除されていないことを、わたしは見逃さなかったのである。

「ウィース! ってなんも見えねえ!?」

「まあ、ほこりっぽい……」

「どこにもおらんじゃないか」

「もー! ちゃんといるんだってばー!」

 駆けつけたオバケ箒たちが言い争っている隙に、わたしは彼らがいる反対側から路地裏を抜ける。

 目指すは実家。境内を掃き清めるのに使われるはずだった、あの竹箒のところだ。

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