勇者でも魔王でもなくなったわたしたちは幸せになりました
──あれから、一年後。
わたしは広い青空の下に広がる花畑で、のんきに花を眺めている。
「ねぇ、メル。この花、さっきのと色違いかな?」
わたしがのんびりと声をかけると、隣を歩いていたメル──ことメルヒオールは、笑って頷いてくれた。
「おー、そうだな。形が似てるし、色違いの仲間なんじゃねぇの?」
「そうだよね! 可愛い花だなぁ」
「種とか売ってんじゃね? あとで雑貨屋を覗いて、売ってたら買って帰ろう。城周りの花壇にでも蒔いて育ててみようぜ」
「うん!」
相変わらずドキドキするくらい顔がいいメルは、わたしの手を握ってそっと引いてくれる。美人は三日で見飽きるなんて言い出した人、きっとものすごく贅沢だったんだと思う。だって、わたしは全然見飽きないもん。メルは毎日かっこいい。
一年前、ドラゴンに乗って国王の城へ乗り込んでいったメルは、色々と頑張ってくれたらしい。その辺は詳しく回想してるとめちゃくちゃ長くなるから割愛するけど、結局、メルは勇者ではなくなったし、わたしは魔王ではなくなった。──そして、わたしたちはデートをして、結婚した。
夫婦になったわたしたちは今、あの魔王城の敷地でモンスターのふれあいパーク的なものを運営している。うちの子たちはみんないい子で可愛いし、けっこう人懐こい。モンスターに触ってみたい人間も意外と多いから、win-winなテーマパークになっているんじゃないかな。
「ねぇ、メル」
「ん?」
「メルは、途中で勇者を脱落したから英雄になり損ねたって言ってたけど……、わたしにとっては、すごくカッコイイ英雄だよ」
「……」
「あ、照れてる。顔が真っ赤っ赤だよー、メル」
「う、うるさい! お前だって、キスしようとしただけで奇声を発して赤くなるだろーが!」
そう言ったメルは、真っ赤な顔のままわたしを抱きしめてくる。そ、そそそ、そしてそのまま顔を近づけてきて、あっ、あ、これってキスされてしまう流れなのでは!?
「じぇぶぇばばば! だ、だめ! 顔面偏差値高しゅぎでバッターアウト!」
「うるさい! いいから黙ってろ」
「ひぇ、ぇ、だ、だだ、だ、だめ」
「ダメじゃないだろ? ……ハルカ、黙って」
美しすぎる顔の急接近に耐えられずに両目をつむると、メルが小さく笑って、わたしの両頬を包み込んできた。意外と大きな手にドキドキしている間に、唇を奪われる。
──まだ全然慣れそうにないけど、キスって幸せな感触だなぁって思う。……うん、幸せ。
「今は外だから、ここまで。……続きは帰ってから、夜に」
「び、びぇっ……、そ、そそそ、そういう恥ずかしいことを言っちゃダメだと思う……」
「恥ずかしくないだろ、夫婦なんだから」
夫婦。……そう、メルはわたしの家族。
前の世界でのみんなのことを思い出して寂しくなっちゃうときも、まだある。でも、わたしは一人じゃない。新しく家族になってくれた、大好きな人がいる。
「ハルカ。お前は今、幸せか?」
手を繋ぎ直しながら、メルが優しく聞いてくれる。
そんなの、答えは決まってるよ。
「うん、とっても幸せ!」
「……そっか。良かった」
メルは幸せ? なんて聞き返す必要もないくらい、彼の笑顔はハッピーオーラ全開で、美貌が天元突破しちゃってる。こんなに顔も心もかっこいい旦那様が傍にいてくれて、本当に幸せ。
転生前の天使的には、この展開はいただけないものだったりするのかな? さっさと魔王として討伐されて次の人生に転生させたかったりしたのかな?
でも、わたしは今のまま生きていきたいな。
次の転生先でどんな幸せな人生が待っていたとしても、わたしはメルの隣にいたい。天使のうっかりミスに付き合ってあげたんだから、今度はわたしのワガママを叶えてください。
そんな図太いことを考えながら、わたしは愛しい手をぎゅーっと握り返すのでした。
魔王に転生してまったり生きてたら勇者様に叱られました 羽鳥くらら @clara-hatori
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