勇者様の腕の中はとっても優しくてあったかいのでした

「お、おま……っ、俺と結婚したいのか!?」

「えぇ!? ち、違いますっ、一回だけデート出来たら嬉しいなぁってだけで、そ、そそそ、そんな、結婚だなんて大それたことととと……っ」

「違わないだろ!? デートしたら結婚するのが男女の流れだろうが!」


 えー!? そ、そういう文化圏なの!? デート=結婚!?

 この世界の人たちが乙女ゲームとかギャルゲーをプレイしたら失神してしまうのでは……!?


 ど、どどど、どうしよう。わたし、そんなつもりじゃなかったんだけど、これって魔王が勇者に求婚したっていうややこしい流れなのでは……。

 いや、うん、落ち着け、わたし。わたしはただ、夢を語れって言われたからそうしただけだし、そもそも勇者様がそれにOKするはずないでしょ!


 そう思っていたんだけど、


「分かった。デートしよう。……お前を、俺の嫁にしてやる」


 めちゃくちゃ予想外なお返事をいただいてしまったぁぁぁぁぁ!


「え、えええ、ぐぼぇぁばばばば! お、落ち着いてください勇者様!」

「お前こそ落ち着け! その奇声をやめろ!」

「いやいやいやいや! 無理無理無理無理! アナタ、ユウシャ! ワタシ、マオウ! アーユーオーケー!?」


 混乱するあまりテーブルを叩きながら喚いてしまうわたしに対抗してか、勇者様も物凄っっい勢いで食卓を叩き返してきた。


「お前は、魔王じゃない!」


 勇者様の目は、どこまでも真剣そのもの。


「魔王なんかじゃないよ、お前は。ちょっと変で、マヌケで、変な声を出すし、変な奴だけど」

「へ、変……」

「変な奴なのは事実だろ!? ……でも、本当は優しくて素朴で料理上手な、普通の女の子だ。……いや、普通よりは可愛いけど。とにかく、魔王なんかじゃない」


 勇者様は立ち上がって、こちらへ歩いてくる。わたしもなんとなく起立してしまった。


「……なんで、立った?」

「いえ、あの……、なんとなく?」

「まぁ、いいか。俺の名は、メルヒオール。お前はなんていう名前なんだ?」

「あ……、春花です」

「ハルカ。変わった名前だな。でも、綺麗な響きだ。……ハルカ、お前は魔王なんかじゃない。悪い奴らから魔王の役目を押し付けられただけの女の子だ。そんなの、間違ってる。俺がこの真実を王に突き付けて贖罪させて、そうしたらお前をここから連れ出してやる」


 メルヒオールは、笑った。

 あ……、どうしよう、胸が痛いくらいにドキドキしてる。


「ここから連れ出して、たくさんのものを見せてやる。楽しいものも、綺麗なものも……、ここから見えない沢山のものを見せてやる。必ずお前を助け出してみせるから、待っててくれ」


 胸が苦しい。心臓が壊れそうなくらい、鼓動が速い。

 それはきっと、彼がイケメンだからっていうだけじゃない。顔面だけの問題じゃない。彼の心が、わたしに向けてくれる気持ちが、かっこいいから。


「はい、待ってます……! いつまでだって、メルヒオールを信じて待ってます!」


 思わず半泣きで答えてしまったわたしを、メルヒオールは不器用な手つきで抱きしめてくれた。すごい……、ぎゅってすると、こんなにあったかくて落ち着くものなんだなぁ。






 ──そして、メルヒオールは、うちのドラゴンの中で一番大きな子の背中に乗って、遠くへ飛び去って行ったのでした。

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