わたしを真剣に叱ってくれた勇者様に夢を打ち明けてみました

「お前、それ……、ただの生贄じゃねぇか! そんなアッサリ言いなりになってんじゃねぇよ!」

「いや、ちゃんと痛くないようにしてくれたみたいだし、いいかなーって」

「そういう問題じゃねぇだろ!?」

「だって、元のわたしに生き返れるわけでもないし、ちょっとくらい手助けしてあげてもいいかなぁ……って。──勇者様は、なんでそんなに怒ってるんですか?」

「だって、そりゃ……、腹立つだろ、そんなの。……そんな、悪いもんを全部お前に押しつけて殺すなんて、胸糞悪ぃだけだろ」


 勇者様は、本当に悔しそう。すごいなぁ、どこの世界でも、英雄って正義感が溢れてる人がなれるようになっているのかな。

 この勇者様にだったら、倒されても本望かもしれない。顔がいいし、イケメンから可愛いって言ってもらうっていう夢のような体験も出来たし、顔がいいし。


 それに何より、わたしを真剣に叱ってくれた。わたしは魔王なのに、それでも真剣に心配して、怒ってくれたんだ。素敵な人だなって、そう思う。


「わたし、あなたみたいな勇者様になら倒されてもいいです。なんか、もういっそ一思いにやっちゃってください」

「……お前、ずっとこの城に引きこもってたのか?」

「へっ? まぁ、そうですね……、この子たちと一緒にのんびりまったり過ごしてました」

「この子たちって……」

「ちょっと顔は怖いけど、みんないい子ですよ。見慣れてくると可愛いし! この服とか花冠だって、この子たちが作ってくれたんですから!」


 ねー、と声をかけると、モンスターたちはそれぞれご機嫌な声を上げる。勇者様はギョッとしたみたいだけど、わたしには可愛く甘えた声に聞こえるんだよね。末期かな?


 渋~い顔で何か悩んでいた勇者様は、溜息をついて新しい質問を投げかけてくる。


「お前、何か野望とか無いのかよ? とんでもなくでっかい夢でもいいけど、生きてたくなるような目標とかさ」

「えぇ……? 魔王としての今生に望むことなんて、別に無いですし……夢って言われてもなぁ……」

「何かひとつくらい、あるだろ!? なんでもいいから、叶ったら嬉しいことを見つけてみろよ!」


 金色の前髪の下、真剣な緑色の目が宝石みたいに光ってる。かっこいいなぁ……、ほんと綺麗な顔。でも、この人が綺麗なのは顔だけじゃないんだろうなぁ。たぶん、この世界の人にとって魔王って天敵なんだろうけど、そんな魔王のわたしの話を真面目に聞いてくれるんだもん。とっても心の優しい人なんだよね。


 夢、夢……、あっ。

 優しいイケメンとデートとか、乙女ゲームの中だけの特大イベントって思ってたんだけど、一回くらい実体験できたら嬉しいかも? ──それも、出来れば、この人と。


「夢なら、なんでもいいんですか?」

「いいぜ、言ってみろよ」

「だったら、わたし、あなたとデートしてみたいなぁ……、なんて。え、えへへ」

「……、……は、はぁ!?」


 男の子に「デートしたい」なんて言ったの、初めて。わたしのほっぺたは妙に熱くなってるから赤くなってるのかもしれないけど、勇者様はたぶんそれ以上だと思われるほど真っ赤っ赤なお顔になってしまったのでした。

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