第2話


扉を開いた先の空間は、映画でしか見た事のないような真っ赤な絨毯(じゅうたん)の敷かれた洋館であった。開いたまま呆然とする俺を次の瞬間、誰かが押した。


「うおっ!?」

予期せぬ衝撃につんのめるようにしてたたらを踏む。

慌てて後ろを振り返るも、そこにさっきまであった重厚な鉄扉はない。


黒い扉があった。


扉を開こうとしてみるが動く気配はない。調べていて気付いたが、カギの様な物はなく、取っ手がついているのみ。

つまり、押したり引いたりすれば普通に開くはずなのだ。通常ならば。


瞬間、視界が灰色に染まる。

身体は動かない。

そんな俺の目の前にはウインドウ画面。


そこには【記録】と題されていた。



[あなたは背後の扉に意識がいく。【技能:目星】を使用することにより、詳しい情報を引き出せそうだ。

【技能;目星を振りますか?[1D100]:25%】【YES】【NO】]



いきなりなんだよ。


「目星?」

どうやら声は出せるらしい。


こういった突拍子のなさは、まさに夢だなと実感する。

同時にそういえばダイスの下に記録って項目があったなと思い出す。完全に忘れていた。


「とりあえず振ればいいのか?【YES】と」

身体は動かないので口を動かす。すると視界に例のダイス画面が表示された。ただし、数字は100まであり、ほとんど球体であることがわかった。


ダイスは転がる。

そして出た目は78。横に失敗と表示された。

記録には[失敗。残念。あなたはなにもわからない。]と表示されていた。……なんか腹立つな。


そんな俺を他所にまた新たな画面が表示される。

[【幸運】を1つ消費することで判定を覆せます。消費しますか?【YES】【NO】]


「幸運を消費?」

思わず躊躇うような選択画面に困惑する。

これはもしかして最初に割り振った【幸運】のステータスのことだろうか。


ということは、アレは現実に運とかではなく消費アイテムみたいなものなのか。

おそらくそういう事なのだろう。


「とりあえず、一度やってみるか」

どうせ大した結果は期待できないだろうが、ここで自分の想像力がどこまであるのか気になった。

あのステータス画面を見て、達観したのかもしれない。

俺は【YES】を選ぶ。


すると記録にあなたの幸運は7→6になったと出た。


[この扉は何かの魔術によって封じられている。更に詳しく調べたいのであれば【アイデア】を振ってください。【技能;アイデアを振りますか?[1D100]:25%】【YES】【NO】]



ほう、魔術とな?

ワクワクする単語にテンションが上がる。



とりあえず【YES】を選択するとまた目の前にダイスが現れた。

結果は31。ちょっと惜しかったが失敗である。


そしてまた、[【幸運】を1つ消費することで判定を覆せませす。消費しますか?【YES】【NO】]がでたので【YES】を選ぶ。



[この扉は、裏側の住人が施した封印の魔術である]



瞬間、視界は色を取り戻す。

身体も動くようになった。


なんともあっけない。

これが幸運を2つ消費した成果なのか。

そう考えると急に惜しくなってきたのは俺が貧乏性だからなのか。


というよりもだ。魔術で封印されたのはわかったけど、それがどうしたって感じだ。

いや、調べたの俺だけど。

調べておいてなんだが、ふーんとしか思わない。

記録を読み返す。そこにはたった今もたらされた情報が淡々と綴られている。



[この扉は、裏側の住人が施した封印の魔術である]



「裏側の住人?」

何気なく復唱した瞬間。周りの温度が下がった気がした。背筋を何かが這いずり回る様な悪寒。体は金縛りにあったみたいに動かない。いや、動けない。


「───!!」


しかし、それもすぐに治まる。ハッとして周囲を見渡すも相変わらず、そこには俺しかいなかった。

だが、それが気のせいでないことは全身に立った鳥肌が証明していた。


「……夢で鳥肌って立つんだな」

なにか起こるのか!と身構えてはみたものの、別に何か変化がある訳でもない。

記録を確認して見るものの、とくにこれといった変化もない。



……気のせいだったのだろう。



そう思うことにした。




○○○




一先ず、これまでの技能という項目と、ダイスという独特な采配。そこから推測するに、これはあれか、TRPGの技能ってことでいいんだよな?


知ったのも最近で、実際にプレイしたことはないが、プレイした人たちのいわゆるリプレイ動画って奴を最近よく見ている。

学校でそういうのを好きな人が進めて来て見事にハマったんだ。

ニヨニヨ動画や、アイチューブなどで寝る前に観るのが最近の日課である。


だからだろうか。どうやら俺は夢の中で探索者になったらしい。



「仲間はいないみたいだけど」

学校の友達とか見知った人が居れば心強いのだが、どうやらソロってやつだ。




何気なく呟いた声がシンと静まり返ったホールにこだました。














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探索者はダイスを振る チイタ4653 @chiita4653

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