探索者はダイスを振る

チイタ4653

嘘つき誰だ(仮)

第1話



高校生となって二度目の春。5月になり、桜の花びらもまばらになり始めた今日この頃──俺こと真城裕太は、そんなもの哀しくなり始めていた桜並木を歩きながらその日もいつも通りに家路に着いていた。



俺が覚えているのはその帰り道、急激な眠気に襲われたところまでだった。その抗いたくても抗えない強烈な眠気を前に俺は気を失った。




◯◯◯



目を開けると俺は錆びついた扉の前に立っていた。


「な、何だよ…これは……」

それはどこまでも異様な光景だった。

崖と言えばいいのだろうか、黄土色の土塊に覆われたそこに大してそれは無造作に埋め込まれている。

まさに異物ともいうべきそれは、その近代的な無機質さも相まって厭に不気味であった。


周囲を見渡し、言葉を失う。



何もなかったからだ。



続くのは荒野然とした果ての見えない大地。

視界を埋め尽くす赤錆びたような大地には、草木の一本として見当たらなかった。

まるで意味がわからない。


唯一あるのは、この、扉が埋め込まれたどこまで続いているのかもわからない岸壁のみ。

それはまるで周囲の荒野に線を引くかのようにどこまでも左右に伸びていた。

呆然とする俺に応えた訳ではないだろうが、どこか無機質な声が聞こえてくる。




───ダイスを振ってください───



「うわっ!」

いきなり耳朶を震わす声に腰を抜かす。

その時に付いた手のひらから伝わる土の感触が、厭にリアルだった。しかし、周りに俺以外の人影はない。どうなってるんだよ。


驚く俺の目の前に灰色の画面が現れた。



名前:|真城裕太(ましろゆうた)


幸 運:1

耐 性:50


【メニュー】




まるでゲームの様な画面。まあ、二つしか項目はないが。これが高いのか低いのかはいまいちわからないが、最初から高いゲームなんて知らないしきっと大したことはないのだろう。


そんなことよりも幸運値が異様に低いことが気になる。

別に日常生活でそこまで運が悪いと思った事ないんだけど。

でもこうして数値で見せられると、なんかちょっと嫌な気分だ。


てかさっきのダイスを振ってくださいってなんだよ…。

ダイスってあれだろ、T(テーブルトーク)RPGとかで使うやつ。



でも───なんとなくわかった。



恐らくこれは夢なのだろう。

まあ、冷静になって考えたらわかるよな。こんな意味不明で突拍子もないことが現実で起こる訳ないし。


さっきまでのてんぱり具合を思い出して少し恥ずかしくなった。


何はともあれ。


「これが明晰夢ってやつか。初めて見た」

それにしてもいつ寝たんだ?さっきまでたしか───あれ、何していたっけ。

少し思い出そうとしてみるが、まるで思考に靄がかかっているかのように、それを思い出すことが出来なかった。

……まあ、どうせ寝落ちでもしたんだろうとあたりをつけた俺は、切り替えるべく意識をステータス画面に戻す。


しかし、そこにはたった二つの項目しかない。


もうちょっとこう、どうにかできなかったのだろうか。


「どうせならもっとこう…そう、ゲームみたいにたくさんの数値が並んでいても良いんじゃないか」

中途半端な画面を見やりぼやく。

これはあれか、俺の想像力が乏しいとでもいうのだろうか。

どうせならもうちょい派手なのがよかったとつい思ってしまう。


ステータス画面に触ってみるが特に反応はしない。しかし、この耐性ってのはなんだ?

そのままの意味なら分かるが、それがここではどういう役割なのかが、いまいちわからない。

まあ、わからないならしょうがない。


次にこのメニューというやつだが。


「お、反応した」

項目を触ると、そこが開いた。




【項目】

・ダイス

・記録(ログ)




「ダイスと記録(ログ)?」

そういえばダイスを振れって言ってたな。おそらくこれの事なのだろう。


ダイスをタップする。

するとそこに【ボーナス・ダイス】という項目が出現した。


「ボーナスダイス?」

その項目を開いた瞬間。視界が灰色に染まった。

目の前に白く小さい一般的な6面ダイスが二つ、新しく出現したウインドウ画面に表示される。


「タップすれば良いのか?」

画面を触ると、サイコロが転がる。

表示されたのは2と5。

[7ポイント獲得]。そう無機質に表示された。

最大が12であることを考えれば、真ん中よりは良いのか?


名前:|真城裕太(ましろゆうた)


幸 運:1

理 性:50


割り振り可能ポイント:7


【項目】



画面に7ポイントが追加されていた。

いよいよゲームじみてきたなと試しに幸運に1ポイント割り振ると幸運が1→2となった。

今度は耐性にも振ってみる。すると数値が51となった。


「特に何も変化はないな」

いまいちわからないので、とりあえず残ったポイントを幸運にすべて割り振り7にした。


するとまたあの声が聞こえる。


───あなたは****に誘われています。早急に脱出してください───


そして、俺の目の前に新たな画面が表示される。



●●●●



【UNKNOWN・QUEST】

黒幕:現時点では閲覧出来ません

難易度:不明

危険度:不明

クリア条件:脱出

報酬:経験値500、ボーナスポイント、アップデート、初心者応援パック


【TIP】

焦るな。考えろ。そうすれば自ずと見えてくる。

人形には気をつけろ。あれは脱出に必要ないものだ。



●●●●



「マジでゲームじゃん」

ちなみに内容の意味はちっともわからない。自分の夢なのにわからないってなんだよ……。

報酬のところもいまいちピンと来ない。何かと戦うのか?アップデート?というか初心者応援パックて。これはいわゆるチュートリアルなのか?

疑問は尽きない。わかるのはさっきやったボーナスポイントだけである。


そういえば夢ってのは情報を整理する傍ら見る現象らしい。


色々と混ざったようなこの感じを見て、これはいよいよ寝落ちかましたなと確信した俺は、とりあえず目の前の扉に手をかけた。

























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