第78話 持ってけセーラー服

★★★(センナ)



「ちゃっちゃらちゃちゃちゃちゃっちゃっちゃー♪ ちゃーちゃっらちゃっちゃっちゃー♪ ちゃちゃっらちゃっちゃっちゃー♪」


 私はダチョウの背中に乗せてもらいながら、思わず歌を歌ってしまった。

 このダチョウの背中に据えられた鞍に跨ったときに、思わず頭の中に浮かんできたメロディ。


 この状況に、もっとも相応しい歌。

 そんなのが即座に浮かぶなんて。


 私、とっても楽しんでる!

 こんな旅行に来れて、とても嬉しい!


 ダチョウの乗り心地は最高で。

 走りは軽快だった。


 多分、馬と比べても遜色ないスピード。

 流れる風が気持ち良かった。


 しかも私を乗せてくれてるこの子、私の事を邪険にしないし。

 私は女の子の中でも背は低い方なので、ひょっとしたら舐められるかも、って思ったんだけど。

 そんなこと無かったよ!


「キイテナイヨー!」


 この子も嫌そうにしてないのが嬉しい。

 鳴き声にハリがあった。


 クミちゃんもサトルさんと一緒にダチョウに乗って遊んでる。

 アイアさんは体重を気にして、乗るかどうか躊躇ってたみたいなんだけど、いけたみたい。


 まぁ、女の子なんだし、背が高くても同じ背丈の男性よりは体重重くないよね?

 それに別に今、鎧着てないし。(普段着の、男物の服だった)


 アイアさんの叔父さんのガンダさんは、牧場の外でそれを見守ってた。


 ……自分はそういう年齢では無い、そういうことなのかな。


「お客さんたちは厄介なノラ軍団を退治してくださいましたし、精一杯サービスさせていただきます」


 この牧場を案内してくれたタレ目のおじさんは、そんなことを言ってた。

 でもそれ、全部クミちゃんとアイアさん、ガンダさんの働きだからなぁ。


 ちょっと、全力で楽しんで良いんだろうか? って負い目は無くもない。


「ご夕食は、ダチョウのすき焼きを用意させていただきます。楽しみにしてください」


 ちょうど今日、1羽肉用に潰すので、と付け加えて。


 一番美味しい部位を振舞ってくれるんだって。


 どんなのだろう? 楽しみだなー。

 と、思ったとき。


「キイテナイヨー!」


 私を乗せながら、この子が鳴く。


 ……この子じゃないといいなぁ。さすがに。

 騎乗用だし、無いよね?


 私はそう思いながら、手綱を握ってるこの子の事を見下ろした。


「コロスキカー!」


 ……あ、こういう鳴き声もあるのか。




 ダチョウ騎乗の運動の後、夕食までの間。

 私たちはムッシュムラ村名物のひとつ「温泉」を堪能する。


「うわー、広い! しかも綺麗!」


 掃除、行き届いている!


 自然石とタイルで作られた、大きくて綺麗なお風呂。


 趣たっぷりな、自然石のおっきな浴槽に。

 タイルを敷き詰めた床。


 床、きっちり掃除されてて、カビのひとつも生えてない。


 意識高い! さすがの名物観光地だね!


 テンション上がって走り回りたくなっちゃう!

 やらないけど!


「センナさん、走っちゃダメだよ。危ないから」


 クミちゃんに注意された。

 ……どんだけ子供っぽいって思われてるのか。


 そりゃま、一番背が低いけどね!

 この場にいる女子の中では!


 大中小、そんな感じだ。


 他にお客さんはおらず、大中小の女子がこのお風呂場に居るだけ。

 貸し切り状態。


 大はもちろんアイアさん。

 長い髪を別のタオルで巻いて、まとめてる。

 とっても色っぽい。


 スタイルは今更だけど、完璧。

 水着姿も良かったけど、今の全解放、卍解状態。


 とんでもなかったよ。


 下着の力を借りなくても、アイアさんしっかり鍛えているから。

 大きなおっぱい、全然垂れて無いし。

 お腹周りの綺麗さ、そのまんま。


 彫刻みたいだよ!


 アイアさん、まとめた髪に軽く手で触れながら、洗い場の方に直行する。


「お湯に浸かる前に身体洗うんだよね。マナーとして」


「ですです。アイアさん分かってますね」


 そんなアイアさんと一緒に洗い場に行くのはクミちゃん。


 クミちゃんはクミちゃんで、とっても綺麗。


 そりゃ、アイアさんと比較したら出るところの具合は太刀打ち出来てないかもしれないけど。

 全体的にスッキリしてるし。


 痩せても無いから、いいと思う。


 元々、ウエイトレスやってたときは一緒にお風呂行ったこと無いから知らないけど。

 色々あって、冒険者に転職して、毎日稽古をしてるせいだと思うんだけど。


 お腹周り、鋭角的で、絞られてる感じなんだよね。

 そのくせ、お尻や肩はちゃんと丸みがあるからさ。


 山猫、って感じがするんだよね。

 もしくは鷹とか。


 アイアさんはもっと大きな猛獣のイメージ。


 クミちゃんの旦那さん、どう思ってるのかなぁ?


 二人並んで、洗い場の椅子に座って、お湯を汲んで、かけ湯。


 後ろから見える大と中の裸の背中とお尻。


「あ、この石鹸、昆布の香りがする」


「ダチョウの脂で作ってるらしいですよ」


「それでかー」


 わしゃわしゃわしゃ、と洗い開始。


 ふたりとも、頭から洗い始めた。


 椅子に座って、前かがみ。


 私もその隣に座った。クミちゃんの隣。


 横を見やると、ふたりとも前かがみになってるので。


 豊かに実ったのと、普通に実ってるのが。

 ゆさゆさ、ぷるぷる揺れていた。


 ……私はというと……


 胸部である、って意味合いのみ。

 ストーン。


 うう……


 一体、前世でどんだけ善行を積めば、アイアさんみたいな身体に生まれてこれるのか……

 アイアさんは高望みとしても、せめてクミちゃんくらいは……


 そしたら


 自分のと見比べて、私が羨ましそうに見ているのを、アイアさんに気づかれた。


「……ちょっと、あまりそんなに食い入るように見られると、さすがにちょっと嫌なんだけど」


 言い辛そうに、アイアさんが片手でおっぱいのてっぺんを隠しながら頭の石鹸を流してそう言った。

 困ったような顔だ。嫌悪感剥き出しじゃないのが幸いだった。

 ……うう、申し訳ない。


「羨ましくて……」


 自分のを触りながら、そう、正直な心境を白状した。


「センナさんはちょっと胸に拘り過ぎかな」


 アイアさん、そんな私を納得させたいのか。

 定番の、胸が大きいことによる悩みを口にした。


 曰く、弓を引くときに邪魔になるとか。


 曰く、走るとき邪魔になるとか。


 曰く、ぶつけると痛いとか。


 曰く、男どもがそこばっかり見てくるとか。


 ……そういうの、贅沢な悩みって言うんですよ。

 持たないものはそういう悩みを持つことすら許されないんです!


 私のそんな不満を感じ取ったのか


「センナさんはセンナさんの魅力あると思うけどな。サトルさん曰く「小さい方がいい」って言う人もいるらしいし」


 クミちゃんまでそんなことを言って来た。

 フォローしてるつもりかもしれないけど「気を落とすな」「きっと希望がある」って言われてるようにしか聞こえないよ!


 ……まあ、アイアさんやクミちゃんが悪いわけじゃ無いから、怒ること自体が筋違いなんだけどね。


 でも、このままここでずっといたら、劣等感でどうにかなってしまうかもしれないし。

 手早く、洗うところをしっかり洗って、私は温泉に直行した。


 ざぱーん。


 ふぃー、あったかい……。


 気持ちよさに、さっきまでのクサクサしかけていた精神状態がほぐれていく。

 そうだよね……悩んでもしょうがないことは悩んじゃいけないよね……。


 どのみちさ、私の体格だとこのくらいの胸がちょうどいいのは確かにそうなんだし……。


 私が温泉で溶けそうになっていると、アイアさんとクミちゃんもやってきて、ザパーン。


「あぁ……とってもいい気持ち……」


「さすが名湯に数えられるだけあるよね……」


 ふたりとも、浸かりながら温泉への賛辞を口にする。

 タオルを浸けるのはマナー違反だから、二人ともタオルは頭の上。


 ……アイアさんのおっぱいがお湯に浮いてる……。

 とっても柔らかそう……。


 って、また見てしまった。

 どんだけおっぱい好きなの私!


 また怒られるよ!


 出よう!


 ……私は、温泉から出ることにした。

 もう十分温まったし。




 フゥ……とっとと着替えを着てお部屋に戻ろう。

 私はバスタオルで身体を拭いて、脱衣場で自分の脱衣籠に入れておいた背負い袋から、替えの下着を取り出そうとした。

 備え付けの浴衣はあるけど、下着は当然無いからね。持参だよ。


 ……?


 変だった。


 何か、見覚えのない服が入ってる。


 紺色の服。


 ……取り出してみる。


 んんん?


 これって……


 紺色の、女ものの服。

 これは寺子屋で、最後の3年間に女子が着る制服だよね……?_


 セーラー服。


 私も着たことあるから、知ってるよ……。


 他にも入ってた。


 白い伸縮性素材の半袖の上と、紺の下着みたいなズボンとも言えない下。


 ……これ、ブルマーの体操着だよね……?

 同じく、寺子屋での体育の時間に女子が着るやつ。


 私、こんなの持ってきてないんだけど……?

 何で私の荷物にこんなものが……?


 脱衣籠に置いてる背負い袋を見比べて、私は困惑と、ある種の恐怖を覚えかけた……


 そのとき、気づく。


 あ。


「これ、クミちゃんの荷物だ」


 どうやら私、脱衣籠を間違えたみたい。

 私とクミちゃんの背負い袋、デザイン一緒だったんだよね。


 なーんだ。

 そうか。


 クミちゃんに悪いことをしてしまったなぁ。

 勝手に荷物を開けちゃったよ。


 ごめんね。すぐ戻すから。


 ……って。


 内容物の内容から、ちょっと色々思うところがあった。


 何で旅行の荷物に、セーラー服と体操服があるんだろう?

 どこでそんなものを使うつもりなの……?


 ……深く考えてはいけない気がした。


 クミちゃん夫婦の闇を見ちゃったよ……。

 忘れなきゃ……!

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